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教育ジャーナル Vol.12-4

特別座談会 社会に開かれた学び 第1回

SDGs×学校教育
前編 現状と課題

特別座談会 社会に開かれた学び 第1回

SDGs×学校教育
前編 現状と課題

 新しい学習指導要領で、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められている資質・能力を子供たちに育む」とされているように、これからの学校教育においては、「よりよい社会づくり」と関わりを持ちながら学ぶことが求められます。
 しかし、どんな授業をすればいいのか、どうすればそれができるのか、わからないと感じている方も多いのではないでしょうか。
 そこで本連載では、昨今の社会の諸課題の中から一つを取り上げ、その課題の専門家や、それを授業に取り入れている実践者に、どんな授業ができるのか、どんな成果が得られたのかなどについて、お話を伺いました。

■庄子寛之先生
(東京都調布市立多摩川小学校指導教諭)

■山室美也子先生
(神奈川県川崎市立麻生小学校総括教諭)

■木村大輔氏
(一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト“GiFT” 理事)

※所属、肩書は座談会開催時のものです。

意識や行動の変容を目指すSDGs

――SDGsと教育の関わりについて教えてください。

木村 SDGsは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略で、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年を期限とする開発目標です。世界がより持続的に発展でき、「誰一人取り残さない」平和で持続可能な社会に変革するための17の優先目標を定めています。
 教育との関わりは、2002年9月に開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議で日本が提案した持続可能な開発のための教育(ESD: Education for Sustainable Development)に遡ります。以降、ユネスコが主導機関となって国際的に取り組まれてきました。これからの将来を創る子供たちを中心に、現代社会の様々な課題と持続可能性について主体的に考え学び合おうとする取組がESDです。
 SDGsでは、ターゲット4.7(2030年までに、持続可能な開発と持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和と非暴力の文化、グローバル市民及び文化的多様性と、文化が持続可能な開発にもたらす貢献の理解などの教育を通じて、全ての学習者が持続可能な開発を推進するための知識とスキルを習得できるようにする)が教育分野で重要視されています。簡単にいうと、これは人々の意識や行動を変容させるための教育です。

自分で動けば何かができる

――学校現場でのSDGsへの取組を教えてください。 

庄子 2020年、コロナ禍によって予定していた学習ができないという状況を経験しました。5年生の2月に行う予定だった環境教育ができなくなったので、次年度の3~4月にオンライン学習の機会を使い、「SDGsについて調べよう」というシンプルな課題からスタートしました。
 しかし、「調べて、オンラインで発表して、各自で行動して終わり」という授業ではいけません。オンラインを活用して17の目標について考えながら、『過疎地とつながる』をテーマに、鹿児島にある全校児童10人の学校とつながって、お互いの学校の課題についての情報交換を行いました。
 児童数が多く、友達と密になることを避けなければならない日常で困っている本校の子供たちと、児童数が少なく廃校の危機を心配している鹿児島の学校の子供たちとでは、困りごとや課題は全く異なります。お互いの課題をお互いで解決するという取組は、彼らの日常にはない視点にまで広がったので、有意義な機会になりました。その中で、子供たちから「これがSDGsなの?」という疑問がわいてきたので、SDGsを取り入れた授業を積極的に行っている新渡戸文化学園の山藤旅聞先生にオンラインで、詳しい説明をしてもらいました。
 そこで「自分たちがやっていること全てがSDGsにつながる」ことを教えてもらい、調べ学習で終わらせず、学びによって一人一人の意識や行動を具体的に変えていくことがSDGsだと理解したようです。
 子供たちは世界のSDGsに関心を持ったので、2学期からはオンラインの活用によって世界とつながる試みを行いました。ニューヨーク、シンガポール、香港、インドネシアなど、海外の学校とつなぎ、「ほかの国はどうなっているのだろう、同世代の子供たちはどうしているのだろう」ということを、現地の子供たちと情報交換しました。テーマは、「各地のゴミ箱を見せてもらう」です。例えば、「シンガポールはきれいな街と聞いているが本当にそうなのか」という疑問に対しては、都市部と都市部以外の違いを具体的に知ることができました。変容を促す機会を学校で作ることは難しいのですが、この経験で、委員会活動ではないところから6年生の子供たちが中心となって「自分たちが学校中のゴミを集めよう、リサイクルしよう」という活動が生まれました。
 この試みの大事なところは、単なる環境教育で終わらせるのではなく、具体的に動いて経験して考えるというプロセスが、子供たち一人一人の心の変化をもたらしていることです。いろいろな国の人々と関わる中で、「SDGsのゴール12『つくる責任・つかう責任』がよくわからないので、これを扱ってみます」と研究したグループもあります。子供が主体的に取り組むことで積極的に学びに関わっている様子が見て取れました。
 これらは、コロナ禍によって一人1台タブレットが早急に導入されたことで実現できました。3学期はこの学びをそのまま職業体験に生かしました。話を聞いてみたい著名人を子供たちが選んでオファーを出し、教員がつないで、オンラインで協力してもらいました。具体的に行動する、自分たちが動けばできるという経験ができて、とてもよかったと思います。

木村「自分たちが動けば何かができる」という実感を伴った経験ができたことがとてもよいと思います。子供たちが教育を受けられるのは高校までと考えると、こうした経験を持って学校を卒業するかしないかで、その後の人生は大きく違います。実際に、社会につながる経験ができたことがすばらしいです。

アクションを起こすには自己肯定感が大事

山室 私の学校の取組としてはオーソドックスだと思うのですが、校内に設けた水田を使って5年生が稲作をする体験授業があります。11月の収穫で稲作が終わった後、「コメづくりから学べたことはなんだろう」という課題を見つけ、「食品ロスをなくそう」「コメを有効活用する方法はないか」「田んぼを休ませている間に何かできないか」「モミや藁を完全リサイクルできないか」という声が出たことから、SDGsを絡めて考えていくことを意識しました。
 話がそれてしまうのですが、私は「自分に自信がない子が多い」と日々感じています。アクションを起こすのに、自分に自信がないと一歩がなかなか踏み出せません。自己肯定感が大事になります。SDGsを取り入れる前提として、アクションを起こすことで何かが変わる、変えることができるかもしれないという実感を伴った体験活動をしたいと思ったので、まず『Actionで未来を変えよう』というテーマを掲げました。SDGsについて調べ、具体的に動き、その結果を考察する取組をクラスごとで行い、研究発表する授業を行いました。
 私のクラスでは「持続可能な街づくり」のためのハザードマップの作成、高齢者や乳幼児が住みやすい街づくりを研究テーマにしました。本校の校区は経済的に豊かな世帯が多い地区なので、実際にほかの世界に目を向けたときに、貧困や飢餓、衛生問題などの課題に対して実感がわきづらい様子でした。日々が幸せで満足している子供たちに対して、実感を伴った課題に向き合うことは難しいと感じます。

木村 子供たちが自分事ごととして捉えるということはとても難しいことで、永遠の課題です。どのように寄り添い、働きかけたらよいのかについて考えなくてはならないのですが、原体験に勝るものはないので、そこから相手の立場に思いをはせる問いかけが重要になります。遠くの誰かのことを考える習慣ができれば、その後の生き方や視点に大きく影響していきます。今回のコロナ禍は、このような意味ではよい経験になりました。コロナ禍を地球規模の課題と捉えるか、国家の課題か、個人の課題か、そもそも触れないか……、物事を様々な視点から捉える姿勢は経験によって視野の範囲を広げていきます。コロナのような課題が世の中にはたくさんあって私たちの生活とつながっている、という意識を育むことが大切です。理念を理解すれば従来の指導内容に付加できる。

――教科ごとのSDGsに関する取組はどのようになっていますか?

庄子 学校教育において全ての教科がSDGsにつながるので、教科の枠を超える意識が大事だと思います。道徳は教科化に伴い教科書に沿った授業がベースになりましたが、臨機応変に対応できる点も特長です。子供自らの問題意識が大切な教科なので、子供から発された課題やテーマがあれば、積極的に扱いたいと思っています。
 ゲストティーチャーを招いた授業でコロナ禍と環境問題に触れたのですが、経済活動が抑えられて空気がきれいになった、環境汚染が抑えられたというような環境に対するプラスの意見が出た一方で、経済活動が滞ったままでよいのかという点を挙げる子供もいて、活発な議論が交わされました。このように、自分なりの考えを持って調べて主張するプロセスが、道徳では実現しやすいと思います。
 レジ袋が有料化されたタイミングでコロナ禍による飲食店のテイクアウトが増え、プラスチックゴミが増えたことについて、子供たちは「ゴミは減らしたほうがいい」でも「経済活動を止めてはならない」という、相反する課題を前にどうしたらよいかを、意欲を持って意見を交わしていました。
 道徳でもほかの教科でも、自分事化して教科横断的につなげることがよいようです。多様な意見と議論が活発化します。教科書に教科横断のための工夫があると助かります。

木村 俯瞰して物事を見る機会があることで学びが深まるので、とてもよいと思います。相対的に物事を見た上でのディベートは、学びの一つとしてよいと思います。自分はどちらの意見なのか、まず調べ、判断することが必要になります。自分の意見を自分で決めるというよい経験が生まれます。他者と関わりながらでないと学べない機会です。学び方を学ぶことになります。

山室 保健体育とSDGsの関わりについて考えてみると、おそらくSDGsと関連を持たせた授業を行っているところはほとんどないのではないでしょうか。一方で、全ての学習がSDGsにつながりますから、いろいろと入り込める余地があることを知りました。
 私の学校では、これから「薬物乱用防止教室」を行うのですが、SDGsとの関連を考えた新しい授業の可能性を探っているところです。
 SDGsは学ぶものではなく、理解によって課題を解決しようとする人を育てるということだと思います。高学年になると、授業中に「それってSDGsだよね」と発言する子が出てきます。子供たちの認識や理解もかなり変わってきていることがわかります。ただ、学習指導要領には明記されていないので、具体的な取組が難しいというのが実情です。

木村 学習指導要領にはSDGsが理念として入っているのですが、具体的な内容が示されていないことが、難しいと思われてしまう原因だと思います。今は総合的な学習の時間が中心になりがちで、そもそもの理念が浸透しないと、各教科に落とし込みづらいと思います。まずは、理念を達成するために、どの教科においても、SDGsの視点を置いて学びをデザインしていこうということになります。
 例えば、今後、保健体育科では感染症対策、オリパラの「体と頭と心の健全な調和」の理念などがSDGsにつながります。昨年、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、オリパラ教育が推進されていました。オリパラの価値教育プログラムは、SDGsの理念に通底しているものです。オリパラ教育はなんのためにあるのか、それが私たちの社会とどれくらいつなげられたかと問われると現場の実際のところはどうでしょうか。

アクションそのものが変容につながる

――学校教育とSDGsの課題が見えてきますね。

庄子 私は教育活動の全てがSDGsだと認識しています。学習指導要領は柔軟に書いてありますから、授業も柔軟に対応できるのではないかという点をもっと教員が議論してもよいのではないでしょうか。与えられた目当てをクリアするのではなくて、自分事として考えを深める機会を創出するのが教育だと思うのです。アクションしてみた、変わった、つながった……教科の枠を取り払って、子供たち主体で自分が興味を持ったことを、深く掘り下げる機会を作り、提供したいです。

山室 SDGsに取り組むようになって、指導していると、どの教科もSDGsの理念が含まれていることに気づくようになりました。
 例えば、理科の授業で、発光ダイオードと豆電球の違いを学ぶと、発光ダイオードの利用がエコにつながることが理解できますし、「今度買い替えるときはLEDランプのほうがいいことを親に話します」という子が出てきます。プログラミングの授業の導入では、人感センサーのプログラミングをすると節電につながることから、企業が積極的にSDGsに取り組まなくてはならない世の中になっていることを、学習から知ることができました。
 この地球に住み続けるために、私たちは何を工夫して生活していけばよいかというテーマの下で、キャリア、生き方教育の冊子にもSDGsにつながることがたくさんありますし、社会科の学習も世界の現状を知るよい機会です。教員が意識を持っていれば、いろいろなところでSDGsに絡めることができます。私は、意識を変えたことでこの1年、従来とは違う授業をすることができました。
 教える側が理念をしっかり知った上で、SDGsを関連させ、他教科などにつなげると思考が深まっていくと思います。理念を教育に持ち込めるのがSDGsのよさだと思います。エコや環境でとどまりやすいですが、まず教員が積極的に学ぶことで教育現場が変わっていくと思います。

大人も子供も学び合い、考えを深める

木村 SDGsだということに、構えないでほしいと思います。SDGsに「なぜ取り組むのか」という理念が教育活動の中に浸透していればまずは十分だと思います。従来の授業でSDGsと深く関わっているものはたくさんあります。それを見いだすことができたら、そのまま自信を持って取り組んでほしいです。各教科に落とし込んだときにSDGsやESDがあり、持続可能な社会のつくり手を育成するという教育の理念の達成のために学習指導要領があるわけです。持続可能な社会とはなんだろうという視点からスタートして、子供たち一人一人の考えをみんなと共有する。足並みをそろえなくても、授業の作り方や問いについて、考え続けること……、このようなシンプルな取組からでよいと思います。
 学習指導要領では、内容をそれほど厳密化していません。「最低限ここまでを含めましょう」というミニマム・リクワイアメント的な指針です。一方で、現場の先生は学習指導要領が全てだと考えがちです。ですから、これまでの指導の内容を見直して、平和をつくるための人材育成をするためにどんなアプローチでもよいので、まずは各自で試してもらいたいと思います。うまくいかなかったことも含めて共有される場が用意され、徐々にブラッシュアップしていくことができる環境が職員室にあることが望ましいです。
 答えのない問いに向き合う際に、大人の指示に従っている子がよいというのが学習指導要領の目指すところではないと思いますが、主体的に、世の中の課題に取り組む子供たちを育むことの難しさを感じます。
 今後の教科書でSDGsがどのように扱われるかは重要な視点です。
 先生方も失敗を恐れずに積極的に新しい試みに挑戦していただき、その姿を子供たちと共有すれば、「行動してみること」への勇気が伝わります。SDGsは生きる姿勢に直結するので、指導する者と指導される者という関係ではなく、大人も子供も垣根なく共に学び合い考えを深めていくという経験を増やしていくこと自体が変容につながると思うのです。指導を通して、子供も教師も変化を実感できることがSDGsのよい点だと思います。

進行・文/岡本侑子