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教育ジャーナル Vol.14-3

がんばれ!公立校!!

今、学校教育の課題はなんですか?
学校ができることはどんなことですか?
後編 全日本中学校長会 会長インタビュー

がんばれ!公立校!!

今、学校教育の課題はなんですか?
学校ができることはどんなことですか?
後編 全日本中学校長会 会長インタビュー

渡辺 研 教育ジャーナリスト

前回は全国連合小学校長会に現在の小学校教育における現状や課題についてお話をお伺いした。
今回は全日本中学校長会の会長のお話をお届けする。小学校同様、現在の困難な課題を乗りきるために、ここで語られた課題を直視し、まだ学校の努力でできること、教師の使命感だけでは支えきれないことを、みんなで考えていきたいと思う。

教職を目指す人にも「学校は変わった」と思ってもらえるようにしなければ
全日本中学校長会 平井邦明会長(東京・台東区立忍岡中学校)

教材研究に時間が取れない

 インタビューの数日前、中教審の教育課程部会で平井会長は、学習指導要領の実施状況について全日中が実施したアンケート調査(2021年10月)の結果を説明した(同会で大字会長も全連小の調査結果を説明)。中学校でも授業改善は進んでいるようで、生徒には思考力・判断力・表現力や協働する力、学習意欲、コミュニケーション力などに向上が見られた。コロナ禍ではあるが、グループワークなどもよく行われていた。
 もちろんプラス面ばかりでなく、平井会長はそこで「指導方法の理解や研修機会」や「教材研究を行う時間」の確保が難しいと課題を挙げられた。
 このテーマからインタビューを始めることにする。

 ── 中学校でも授業改善は進んでいるという情報は入ってきていましたが、実際に順調に取り組まれているのでしょうか。生徒にはいい効果が表れているようですが。

平井 主体的・対話的で深い学びにどうアプローチしていこうかと、先生方はいろいろ考えてやっています。ただ、新しい学習形態を取り入れていくのはよいとしても、指導しなければならない内容は削減されていないので、子どもたちのグループワークが増えれば増えるほど、高校入試との兼ね合いを考えると、心配なところはあります。

 ── 高校入試のスタイルが変わってくれるのは望ましいですが、変化の兆しはあっても、まったく同時進行とまではいかないので、やはり中学校にとっては、高校入試が大きな壁ですね。

平井 時間の問題にしても、こういう授業をやりたいという思いがあっても、授業の持ち時数をもう少し減らさないと、教材研究だとか準備だとか、そういう時間を生み出すのが大変という実情があります。

 ── 今の内容を、求められている授業スタイルで扱おうとすると、かなりの工夫が必要ですね。

平井 今回の全日中のアンケートでも、教材研究や授業準備に時間が取れないことが上位(66%で2番目に多い)にあがっているのは、今の環境のままでは余裕をもって準備できないと言っていると思うのですね。

求められる指導法に合った量に

 ── 実は先週、大字会長(全国連合小学校長会会長)にお話を伺ったのですが、大字会長も「学校週5日制が導入されたときの時数が現実的だ」とおっしゃっていました。やはりその辺りが実情に合っていますか。

平井 あのときは学習する内容が一度減りましたね。今回は、量は変えないでやり方とか指導方法を変えていくという形で、新たなステージに入っていくわけですけど、それに対応できる形にしてほしいと思っています。量的に厳選され、それを上手に指導して、さらに学びを深めていくというのであれば可能なのでしょうが、今のままでは量的には多いと思います。

 ── 求められているのは、学習の過程で必要な知識は新たに獲得していこうという学び方です。そのための対話でありタブレット端末であり。量的には絶対に押さえておかなければならない知識は基礎・基本だけにとどめても、その学び方が実現できれば、あのとき言われた「学力が低下する」ということにはならないと思うのですが。

平井 そこを核にして、いろいろ調べて、それをどんどん広げていって、つなげていって、生徒が「あ、そこにつながるのか。なるほど」と理解するように学びを広げていくことができるわけですよ。でも実際は、もともとの量が多い。「教科書にある内容をすべて教えなくてはいけないわけではない」とおっしゃる方もいますが、高校入試に出題されて「自分は学校では習っていません」というわけにはいかないので、どうしてもすべてをやらなければいけないという意識が働きますよ。
 そうすると、主体的・対話的で深い学びという形で、さまざまなグループでの活動も取り入れた学び方にしていきたいという思いがあっても、「そればかりだとねぇ」ということになってしまいますね。

授業改善一つとっても

 ── 今、伺っているお話もそうなのですが、中教審などで行われている議論が現場の実情とズレがあるように感じることがあります。実際に教育課程部会などで議論に参加されていて、平井会長はどのように感じておられますか。あるいは、現場の校長先生としていかがでしょうか。

平井 学校現場にいる者と、いろいろな施策を打つために議論されている方とでは、意の違いといいますか、ズレやギャップはどうしても出てしまうと思います。

 ── 会議室の議論は学校に冷たいような気さえします。

平井 次々に新しいものが入ってくる、スピード感もある。正直に言って、現場は混乱もしました。一度に成果を求められても厳しいよな、と思っています。先日の教育課程部会の場でも、授業改善一つとっても、先生たちにはしっかりやっていきたいという気持ちはあってもそこにかける時間が足りない、そういう状況なわけですよ、ということは知ってもらいたかった。コロナ禍でも現場では工夫して取り組んでいるという実情を知ってもらいたかったですね。

 ── 授業改善という、学校教育にとって最も重要な課題に取り組んでいこうとしている最中に、今度は個別最適・協働が出されました。実践する側としては、「これはどんなことだ?」と、またその解釈から始めなければなりません。

平井 新しいものが出てくると、それをちゃんと理解して、しっかりやっていきたいという思いをもちますが、理解が難しいものも多いのですよ。観点別学習状況の評価にある、「主体的に学習に取り組む態度」、いわゆる第3観点なんて、どこの先生に聞いても、自分がやっていることが、本当にこれでいいのだろうかと、自問自答しながらやっていると言います。もちろん、子どもたちが書いた振り返りを見ながら努力はしていますが、なんかスッキリしない。そういうことが、いろいろなことについてあるのではないかと思います。

 ── 具体的に実践するとなると、会議室での議論どおりにはいかないものですね。しかもコロナ禍で研修や研究協議の機会が制限されました。

平井 かなりの打撃を受けましたね。

 ── コロナ対策も含めて、そういう環境で先生方は学校教育を少しでも先へ進めようと頑張っておられる。落ち着いて取り組ませていただきたいものです。

安心して働ける場であること

 ── ここまでも重大な課題だらけでしたが、改めて、中学校における一番の課題はなんでしょうか。

大字 人が足りない。全日中の研究協議会で三重県に行ってきましたが、そこでも「教員になりたいという人が少なくて、厳しい」という話を聞きました。東京都でも技術・家庭科とか英語科では人がいないと聞きます。産休代替の先生だってなかなか見つからない状況もおきています。
 そもそも、教職課程の学生の皆さんが、必ず教員を目指すかというと、そうでもない。彼らが1名でも多く目指してくれるような、安心できる環境をつくっていかなければいけないと思います。学校の自助努力だけでは苦しいものがあるというのが実情ですけど。
(記事をまとめているとき、ある県の来年度の教員採用試験・小学校の倍率が1・0倍という衝撃的な数字が報道された)

 ── 教師という仕事が魅力のあるものでないといけない。

平井 魅力と、不安がないことです。学生も不安が大きいと思うのですよ。「#教師のバトン」ではないですけど、ああいう感じに情報が流れますよね。

 ── 魅力を伝えるつもりが、不安にさせるほうが上回ってしまいました。

平井 教員を目指してきた学生にとって、教員の世界が、「自分はそこでやっていきたい」という気持ちだけでなく、安心して働ける場であることが大きいと思うのですよ。時間外手当は出ないとか、保護者対応は大変そうだとか、自分は本当にその世界でやっていけるのだろうかという不安を少しでも取り除くことをしないと、「よし、やるぞ」という気持ちだけでは難しいかもしれない。

 ── 時間外手当にしても、働き方そのものにしても、これまで学校教育は教師たちの「よし、やるぞ」という気持ちから生まれる使命感や献身的な努力に支えられてきた。もっと言えば、それに頼ってきたのではないでしょうか。その気持ちと実際の仕事のバランスが保てなくなってきたのが現状だと思います。学生の目には、「それはちょっと違うぞ」と映りますね。

平井 そういう環境に身を投じてよいのかと、不安になる人もいると思いますよ。
 学校には、これまでの歴史の中で抱えてきてしまったマイナスの面があると思います。本来的な仕事ではないのだけど、目の前に子どもたちがいるのだからなんとかしなければ、やらなければと思ってやってきたことが大きくなって、それをここまで引っ張ってきているから、変えるのはとても難しい。自分の、30数年の教員生活を振り返っても、勤務時間は関係ない、子どもたちのために一生懸命やりたいのだと、当たり前のようにやってきたのですね。そういう考えや思いの方はたくさんいました。それを当たり前だと思ってきたのが、いけなかったのかもしれません。

 ── 保護者や地域社会も、それを当たり前だと思ってきました。

平井 でも、子どもたちの成長に携わりたいという気持ちをもつ若い人が、今もたくさんいるとしても、現実問題として希望者が減っているわけだから、思いきったことをやって「学校は変わったね」と思ってくれるようにしないと、いくら仕事の魅力だけ伝えても難しい。

 ── また勤務実態調査が実施されるようですが、併せて「8時間の勤務時間の中に、教師がするべき仕事を収めるにはどうすればいいか」といった議論もしていただきたいと思います。

“部活動がない中学校教育とは?

 ── 中学校に関係する最もホットな話題である部活動について伺います。まず、働き方や地域移行以前の話として、そもそも部活動は中学校の先生にとってどんな意味がある活動なのでしょうか。日本の中学校にとって不可欠な教育活動なのでしょうか。

平井 中学校では、部活動がない状態での学校教育を誰も経験したことがないのですよ。当たり前に存在して、私も当たり前に顧問をもって練習や試合をやっていました。実は今も、家庭科部の顧問なのです。
 当然、部活動を通じての教育の意義や教育効果があるわけで、中学校の教員はそれを求めてきて、成功体験もあります。具体的にメリットを説明するまでもないでしょうが、先輩・後輩のつながりとか、ふだんの教育活動の中ではなかなか見られない子どもたちの姿や成長をたくさん見てきました。
 それから、技術向上や勝利を目指す子どもだけでなく、友達同士で放課後の時間を楽しく過ごしたいという子どももいるわけですよ。その子どもにとって部活動は癒しだったり、心のよりどころになっていたりするわけです。そういう役割もあります。

 ── 経験のない教師が無理に顧問を務めるより、外部の指導者に任せればいいとは、一概に言えないのですね。

平井 ですから、どこまで近づけるかわかりませんが、学校から部活動がなくなったらなくなったで、部活動で得られた効果をどうやってほかに見いだすかを考えていかなくてはならないわけです。

 ── 代わりになる活動はありますか? 癒しの部分は、放課後子どもクラブのような形で放課後の学校に居場所を設けるようなことは思い浮かびますが。

平井 例えば、縦のつながりとして、うちでは体育大会で昔ながらの応援団を組織して全校応援をやっていました。ここ3年間はできていませんが、学校の一体感を醸成するような取組です。全員が一堂に会して校歌を歌うこともできていません。合唱コンクールもそうです。昨年度は学校外の広い会場を借りたのでなんとか実施できましたが。
 ただ、コロナ禍で仕方がないとはいえ、今の生徒たちは体育大会での全校応援など行事のつながりも経験していないし、部活動に入っていないとより一層、上級生との縦の交流がなくて、かわいそうなところはあります。

 ── 部活動は、中学生にとって本当に濃密な時間だと思います。簡単に代わりが見つかるものではないですね。

思いきって学校から切り離す

(「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」の概要。令和4年6月【課題】「少子化・生徒数減少により持続可能の危機」「競技経験のない教師が指導、休日も含めた指導が教師の大きな業務負担」「スポーツ団体や指導者等と学校との連携・協議が十分ではない」⇒【改革の方向性】「まずは、休日の運動部活動から段階的に地域移行」「平日の運動部活動の地域移行は、できるところから取り組むことが考えられる」「地域におけるスポーツ機会の確保、生徒の多様なニーズに合った活動機会の充実等」「地域のスポーツ団体等と学校との連携・協議の推進」)

 ── まだ提言の段階ですが、この方向性についてはどうお考えですか。

平井 提言が出されたばかりで具体的にどう動いていくのかわかりませんが、その地域の状況によるのでしょう。後は、指導者がどれだけ確保できるのか。

 ── 教師の兼職兼業も言っていますね。

平井 結果的に、「先生たちにもお願いします」ということになると思いますけど、先生たちも校区に住んでいるわけではないので、居住地域の指導者として何かするのか、あるいは勤務校がある地域でお願いしますということになるのか。
 全日中の臨時常任理事会で各地区の副会長と意見交換したのですが、ある県の市町が行ったアンケートでは「指導を手伝ってもいい」という先生が約30%いたそうです。「子どもたちの活動の場を保障するためにご協力いただけませんか」と呼びかけているところもあると聞きましたけど、具体的なところまでは話が進んでいないところが多いようです。

 ── 教師にとっても、簡単に手放したくはない活動なのですね。

平井 でも、これを本当にやるのだったら、思いきって学校とは切り離して、子どもたちがスポーツや文化活動に参加できる場を地域に保障するという話にしていかないと成り立たない状況になっていると思いますよ。

 ── 学校とは別の野球のボーイズリーグみたいな形ですね。

平井 学校から外すのだったらすっかり外し、学校は行事なども含めて同じような教育効果が得られるものを模索していく。そう捉えて学校を変えていかないと、同じことの繰り返しになると思います。着手できるところからやっていこうということになるのでしょうけど、最終的にはこうするのだという形を示さなければ、なかなか進まないのではないでしょうか。
「中学校から部活動がなくなってもいいのか」とおっしゃる方もいます。でも中学校がこのまま同じ形を維持していけるだけのマンパワーもないし、若い人たちがこの世界に入ってきてくれない状況になっている。そうすると、教育活動の本来的なものとそうでないものとを切り分けて、「最終的にはこの形を」というところを目指して進んでいかないと、小手先だけでは変わったという印象はないと思います。
 先生方も「子どもたちのためならいくらでも頑張る」という思いをもつ人がたくさんいたし、それが学校の文化でもあった。今もその思いはもっていますよ。でも、これだけいろいろな声があがってくると、やはりどこかで線を引かなくてはなりません。
 部活動に限らず、こういう仕事の仕方をあまりにも長く引っ張り、肥大化してしまったということです。これを変えるのは大変だと思いますが、このままだと、これから先、学校が成り立たなくなってしまう。そうなるわけにはいきません。

 ── 授業スタイルが大きく変わり、小学校では教科担任制が実現しました。長く続けてきたことでも変えていいのだという空気になってきたように思います。部活動も含めて、それこそ学校を持続可能な方向へ変えていけるチャンスだと思いたいです。

貴重な3年間に携われる仕事

 ── ついつい課題のお話ばかりになってしまって申し訳ありません。最後に教師を目指してくれる若い人も、現役の先生方も、そして後輩の校長先生たちも、「よし、やるぞ」という気持ちになれそうなお話を聞かせてください。

平井 中学校生活の3年間は、子どもたちにとってとても大切な時期だと思っています。13歳、14歳、15歳で心も体も見違えるばかりに成長しますし、何よりこれから先の長い人生の基礎になる3年間です。この3年間を子どもたちがどのように過ごせるか、その重要性を思いながら、中学校の教師たちは仕事にあたっています。
 たった3年間ですが、貴重な3年間に携わることができる。そういう喜びを学生や教職を目指す皆さんに伝えていくことができればよいと思うのですけどね。
 反抗期の子どもたちですから、もちろん大変なこともいろいろありますが、それでもやっぱり喜びを感じてきましたし。経験した人でないとなかなかわからないだろうというところもあります。
(経験のない人たちのために、平井会長の部活動のお話の中に出てきた小さなエピソードを紹介する。忍岡中学校には子育てや介護といった事情がある教師も勤務している。そういう教師も部活動の顧問を務めているのだが、16時~16時45分で活動をしている部もある。個人の事情を抱えながらも「生徒たちに少しでも活動の時間を保障してあげたい」という思いから、こういう形態をとっている。生徒たちはそれに不満を言うのではなく、自分たちのために頑張ってくれる教師の思いをくんで、効率よく活動をしているのだそうだ。反抗期の子どもたちとこんな大人の付き合いができる。そんな仕事だ)

平井 私が教員になった頃は、子どもたちといろいろな話をしました。昼休みや放課後に、本当によくしゃべっていた。ムダな時間に見えても、大切な時間でした。この時期の子どもたちにはムダな時間なんてないのですよ。こんなささやかな時間さえ、今の教員はもてない。日常的に時間や心に少しゆとりがもてれば、何事にも対応しやすくなるし、気がつきやすくなるし、アンテナを高くすることもできます。そういうところが、今はちょっと大変だと感じています。

 ── 教育現場が望むことの本質は、部活動の地域移行がどうの、給特法がどうのという以前に、そういうことなのですね。

平井 先生たちの働き方改革や部活動の地域移行が前面に出ると、「先生たちが楽をしようとしているのではないか」と捉えられることもあるのですが、「いや、もう限界ですよ」と、そこを保護者や地域の方にもわかっていただきたい。そして、学校がよい方向に変わっていっていることもはっきりと見える形にして、「だったら、自分も」という思いをもって、この世界に入ってきてくれる人が1名でも多くなってくれることを願っています。

 ── これまで学校に多くのことを依存し、現状を招いた責任は保護者や地域にもあります。それを自覚してみんなで学校や教師を支えていかなければなりません。学校教育の在り方は国の未来に直結します。貴重なお話が生かせるよう、私たちもできることはします。