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教育ジャーナル Vol.14-2

がんばれ!公立校!!

今、学校教育の課題はなんですか?
学校ができることはどんなことですか?
前編 全国連合小学校長会 会長インタビュー

がんばれ!公立校!!

今、学校教育の課題はなんですか?
学校ができることはどんなことですか?
前編 全国連合小学校長会 会長インタビュー

渡辺 研 教育ジャーナリスト

今、そこにある危機(トム・クランシーの小説のタイトル)。
全国連合小学校長会、全日本中学校長会の各会長のお話から、そんな表現を思い出した。
これまでも学校は幾度となく困難な課題に直面し、そのつど、なんとかそれを乗りきってきた。
でも、それにも限界がある。かつてなかったほどの危機が学校に迫っている。
ここで語られた課題を直視し、まだ学校の努力でできること、教師の使命感だけでは支えきれないことを、みんなで考えていかなければならない。
学校教育の今は、国の将来に大きくかかわっている。

先生を元気にしましょう。先生に元気がないと、困るのは子どもたちです
全国連合小学校長会 大字弘一郎会長(東京・世田谷区立下北沢小学校)

学校という器に何を入れるか

 ── 春に取材でお話を伺った校長先生がふと「このところの国の施策には〝肌感覚〟が乏しい」とおっしゃいました。現場に寄り添っていないという意味だと思いますが、大字先生は、校長会の会長というお立場で、どのように感じておられますか。

大字 私も中教審の委員(初等中等教育分科会)になって2年目なりますが、荒瀬克己分科会長(教職員支援機構理事長)は、非常に現場寄りの運営に努めてくださっているという印象をもっています。
 ただ、委員の方々はそれぞれご専門の立場で発言されるので、一つ一つはもっともだと思うのですが、その“部分最適”の積み重ねが、必ずしも全体の最適解にはつながらない。あれもこれも足し算で積み重ねていったら、そのうち器からこぼれてしまいます。
 学校という器に何を入れるか。その重要性や順番を、できるだけ現場に近いところで判断できるような制度設計であってほしいと思いますし、そういう趣旨の発言をするように、私は心がけています。

 ── 「確かにそうだけど、その議論は学校の実情に合っていない」と思うこともしばしばあります。

大字 器は決まっているわけですから、あれもこれも全部、詰め込むという発想はやめてほしい。大事なことはどれも大事だと思いますが、そこは各学校の実情に合わせて校長が判断して「学校に合ったものを取り入れていけばいい」と、国も言ってほしいですね。

 ── 代表として“盾”でいてください。

ダメージが大きいのは教員不足

 ── 学校の現状について総論のような質問になります。教育現場が実感しておられる小学校の課題はなんでしょうか。

大字 “山積した教育課題”なのですが、学校経営上、一番ダメージが大きいのは「教員の不足」だと感じます。数が不足すれば当然、質も下がります。これを根本的になんとかしないと。学校に欠員が生じたら教育委員会が補充してくれるということは、どの都道府県でもほとんどできていなくて、「学校のほうで探してください」というのが現実です。

 ── それもおかしな話ですが、知り合いの校長先生から「退職した人や免許を持っている人、誰か身近にいないか」と問い合わせを受けたこともあります。

大字 人を探すために管理職が何十本も電話をかけたと、そういうことがどこの学校でも日常的に起きています。特に年度途中は厳しいですね。名簿登載者も残っていない。やっと見つけても「学級担任はちょっと無理です」と断られる。仕方なく副校長、教頭が担任をする学校もあります。これが一番大きな課題だと思います。

 ── 副校長や教頭は、それでなくても山のような業務量でしょう。

大字 激務ですよ。この状態をなんとかしなくてはならない。全連小でも機会あるごとに、教員の質と量の確保のために、考えられることはすべて提案していこうという話はしています。行政も頑張ってやってくれていますが、根本的に人がいない状況が生まれています。とにかく、教員を志望する人を増やさないと、改善はしないですね。

 ── “根本的に”と考えると、教員不足や志望者減少の背景には、各論的なことがいくつも関係してくると思います。他業種や社会の動向も影響しますが、学校自身や教育行政が努力できる点もあるかもしれません。そのことを伺います。

よく食べて、よく寝て、よく学ぶ

 ── 今年度、全連小総会の開会挨拶の中で会長が「教職員を大切にする校長でありたい」と述べられました。それこそが現場に寄り添う姿勢だと思いますし、そういう学校であれば、教員を目指す若い人たちにも心強いことだと思います。

大字 子どもたちの前に元気な姿で立つことが教員の一番大事な仕事。そのためにはすごくシンプルですが、よく食べて、よく寝て、よく学ぶ。この三つでいいと思っています。

 ── そのシンプルなことすら困難なのが現実ではないでしょうか。

大字 それが十分にできる環境を、まずは校長が一生懸命つくるのだけれども、それだけではうまくいかないこともあるので、保護者や地域、当然、教育委員会や国にも、「先生を元気にしましょうよ、先生が元気でなかったら一番困るのは子どもですよ」と訴えかけます。このことを当たり前のように理解して、みんなで動いてほしいです。

 ── さすがに保護者や地域もその点は理解してきましたか?

大字 だいぶ風は変わってきたと感じます。PTAや地域の方々には「まずは先生たちを元気にしましょう」と、機会があるごとに話しています。

 ── ですが、その一方で、教師自身がそれこそ寝食を顧みず“子どもたちのために”と頑張ってしまうこともあるのではないでしょうか。先生方にはどんなことをおっしゃっているのですか。

大字 教職員には、常に「なくしたいものはない?」「やめたいことはない?」「やらなくてもいいことはない?」と語りかけています。実行する先生方が「いらない」と思っているものは、きっと、本当に必要ないのですよ。
 でも、やめることやなくすことは苦手です。うちの学校では、1学期の所見はなくしました。「夏休み中に個人面談をやるのだからそれでいいよ」と言うと、反応は「えっ? 本当にいいんですか? 所見ですよ」。 

 ── 生真面目なのですね。教育活動にもスクラップ&ビルドが必要だとわかっていても、なかなかスクラップができません。だから強い後押しが必要だし、それが校長先生の重要な役割だと思います。

大字 東京都の校長会で幹事の方々に話すのは「とにかく引き算をしましょう。これを頭に入れて学校経営をやろう」と。これはこの2年、続けてきました。

年間の総授業時数を減らす

 ── 教員不足の要因のうちでも大きなものとして、どうしても「働き方改革」という話になってしまいます。根本的な改善には学校だけでできることはあまりないかもしれませんが、学校はこの課題をどう捉え、どう対応していくとよいのでしょうか。

大字 質問に正対しているかどうかはわかりませんが、たぶん先生たちは、物理的な部分より精神的な部分のほうが大きいので、そこを考えてあげます。

 ── 定時退勤よりも、仕事にやりがいをもてるかどうかということでしょうか。

大字 働き方改革を進めて業務量が少なくなって、時間外勤務が大幅に減ってそれで教員が生き生きするかというと、そうでもないと思います。時短よりも、目の前の子どもが喜ぶ顔を見ることができる仕事の仕方を実現できることを望んでいるのではないか。そういう環境をつくってあげることが大切ではないかと思います。
 自分の経験からいっても、教師の仕事で一番楽しかったのは教材研究でした。先生たちにその時間を十分に取らせてあげたい。そうではないことに時間を取られ、やりたくないことに時間を割かれて、メンタルをもっていかれるのが一番つらいのです。

 ── まさにそれが現場の肌感覚ですね。時間を忘れて教材研究に没頭できる状況が大事で、定時に帰宅しろと言われても、そうではないということですね。それが実現できるにはどうすればよいのでしょう。

大字 ぜひやっていただきたいのは、年間の総授業時数を減らすことです。
 今、小学校は週に29コマ授業があります。朝8時15分に子どもたちが登校すると15時45分まで、ほぼ毎日、授業をしているわけです。

 ── 本当に根本的な部分に切り込んでこられましたね。

大字 これは学校6日制の時代と同じなのですよ。(現行の学習指導要領における総授業時数は第4~6学年で1015時間。学校完全週5日制導入に伴って70時間減らされた平成10年改訂版では同945時間。合わせて学習内容の精選も実施された。2008年改訂版では同980時間)

 ── 学力が低下するという批判にさらされて、週5日制はそのままでしだいに学習内容は戻され、時数も戻されました。外国語が加わって、内容は増えています。“ゆとり”が子どもたちの学力を低下させると言われましたが、その後は教師からゆとりを奪う結果になったわけですね。

大字 少なくともそこまで(1998年時)減らさないとだめだと思っています。そうすれば週に3日くらいは5時間で終われる。空いた6時間目の枠は、学年でしっかり打ち合わせをしたり、教材研究をしたり、お互いの悩みを聞き合う時間にする。授業の腕を上げるためにみんなで研修しようよとか。あるいは、個別に子どもの勉強をみてあげようとか、困っている子の話を聞こうとか、校庭で遊ぼうとか、そういう時間にあてられます。

 ── 勤務時間内にそれができますね。それが健全な働き方でしょう。

大字 今、それをあちこちで言っています。とにかくそこに戻して先生たちに時間をあげないと、教育はよくなりません。

 ── そんなふうに根本的なところに踏み込んで考え直していかないと、働き方の改革などできませんね。

“主体・対話・深い”はフィット

 ── 時間を減らせば、当然、学習内容も精選されなければなりません。98年時は、精選よりも“30減”が強調されて「日本の子どもたちの学力が低下する」と大騒ぎになりました。中堅、若手の先生方にとっては歴史上の出来事かもしれません。でも、少なくとも現在は、児童生徒の学び方を変えていこうとしているので、学習内容が減ったからといって、それが学力低下を招くことはないだろうと思います。“主体的・対話的で深い学び”を、小学校ではどう捉えているのでしょうか。

大字 私の感じ方かもしれませんが、主体的・対話的で深い学びは、久々に現場感覚にフィットしたのですよ。「確かにそうだよね。ここをちゃんと研究して、授業でこれを実践すれば前に進むよね」と言って。

 ── アクティブ・ラーニングといっていたときから、各校でずいぶん熱心に取り組まれていました。コロナ禍前の田村学先生の講演なども超満員でした。

大字 主体的・対話的で深い学びを通してアクティブ・ラーナーを育てようと、いいキーワードが出てきたなと思いましたね。アクティブに学ぶ子どもを育てよう……子どもが主語になっている感じがして、そこをメインに行っていくことが大切なのだと、改めて思いました。

 ── せっかく教育現場にフィットしていたのに、さらに“個別最適”などが出てきて、もう少し落ち着いて授業改善に取り組ませてほしいと思いましたが。コロナ禍があったのでGIGA(ICT活用の推進)は仕方ないですが。

大字 GIGAは、先生たちは楽しそうですよ。ベテランと若手が自然に融合しているので、いいと思いますよ。ベテランは引き出しが多いので、たくさん手立てをもっている。若手がそれをデジタル化する。職員室のあちこちでそういうことをやっています。これは可能性があるぞ、と思っています。

 ── 本当に、学校には受動的に“やらねばならぬこと”や、能動的に“こうやりたい”ことが次から次に出現します。学校で裁量できるものであれば、優先順位をどうつけるかが大切ですね。

教科担任制はメリットが大きい

 ── 小学校に関係する画期的な出来事は、高学年教科担任制の導入でした。これについては、現場ではどんな受け止め方がされているのでしょうか。

大字 うちの学校も、東京都の教科担任制推進校の1校として実施しています。
 先に全体の話をすれば、中教審で教科担任制導入が検討されているとき、私も委員として議論に参加していました。そこでは「“現場の努力で実施してください”みたいな話にはせずに、しっかり加配をつけた上で高学年での教科担任制を推進してほしい」「そのとき、加配は“この教科じゃないとだめ”といったしばりをかけずに、それぞれの学校の実情に即して柔軟に生かせるような配置にしてほしい」と、この二つは強く言いました。それは聞いてもらえました。

 ── まったく別の課題なのですが、ある地方で、働き方改革のモデル校になった学校が、加配に教員ではなく事務職員を配置してもらって、先生方の事務業務をかなり担ってもらったという例がありました。

大字 なるほど。現場には本当に独自の課題があるので、何かの答申が出されて「はい、このとおりにやってください」というわけにはいきません。学校に合ったやり方を支援してくれるのが大切ですね。

 ── 昨年度に、教科担任を実施している3校を取材しましたが、いずれも学校の事情や考え方を勘案した独自のシステムになっていました。都の推進校だと希望に沿った加配がついているのですか?

大字 理科に1名。それ以外は、学年でお互いの専門性や関心を大事にしながら受け持つ教科を決めています。6年生(3学級)で専科教員がついているのは理科、音楽、図工、家庭。学級担任が分担しているのは国語、社会、体育。国語の言語事項は学級担任が受け持つなど、調整はしています。5年生(3学級)では、分担しているのは社会、体育、外国語・日本語(日本語は世田谷区の独自教科)です。6年生の国語は、「国語をやりたい」という先生の思いを尊重しました。

 ── 国の会議では「この教科を専科で」と具体名が出ていましたが、学校に合ったやり方、現場感覚とはそういうことですね。
 やはりメリットは大きいですか。

大字 一つの教科を集中して教えることで、授業の精度が上がります。教材研究も深まるので、これは間違いないと思います。あと、学年のどの学級でも授業をしますので、学年の一体感は高まります。

 ── 学級担任同士、より緊密に話をするようにもなりますね。

大字 授業を通して学年の子どもたち全員を見る、という感覚は小学校の教員にはなかったので、これは大きいかなと思っています。子どもたちにとっても、思春期に入り、先生と合う、合わないがあるので、担任以外の先生と授業でふれ合えるのは大きいです。「隣のクラスの先生の授業を受けてみたい」という声もありましたし、導入に当たっては子どもたちにもしっかり説明しましたが、期待感をもっているようでした。

 ── 「小学校はこうだ」と思ってやってきたことを、あっさり変えられて、しかもよりよくなったと、教師も児童も感じている。
 今まではなんだったのでしょうね。

大字 先生たちの精神的な負担も少し減るのではないかと思います。高学年の難しい時期なので、担任が1名で丸抱えして学級経営するのはプレッシャーがありますが、3名で学年経営をするという発想になるので、負担は軽減すると思います。
 本当にすばらしい学級経営をする先生にとっては物足りないかもしれません。それがデメリットです。それでも、メリットの部分を大事にして、これからはこの方向にシフトできるよう努力したほうがいいと思います。

学年主任に裁量を任せる

 ── 導入に当たって校長先生が配慮されたのはどんなことでしょうか。

大字 導入までにたっぷり時間をかけたのですよ。半年くらい、こちらの意図を話し、課題や不安を出してもらい、いろいろな話をしました。それで始めたら、後は先生たちに任せる。そうすると、いろいろなことを自分たちで工夫してやるようになります。

 ── 3名の学級担任はどんな組み合わせにされたのですか?

大字 5年生は20代が2名と、もう1人が“腕のいい”人。6年生は男性のベテラン2名と初めて6年生を受け持つ若い女性。

 ── このシステムのメリットを生かす意図が明確に伝わりますね。

大字 これはメッセージですよ。学年主任にほとんどの裁量を任せて、あなたが考える学年経営をこのメンバーでやってよ、と。そうすると、びっくりするようなことがどんどん出てきます。例えば、5年生の宿泊体験の主担当は一番の若手でした。学年主任が、これを通して彼を育てようとしているのだと思って見ていました。主体的というか、教員が自分たちで学年をつくっていくのだと思ってほしいので、任せて見ています。
 ただ、「不安があるときは早めに相談にきてよ」と言っています。だからいつ声をかけてくれてもいいように、校長室はフリースペース、扉は全開にしています。

子どもの姿を通して話をする

 ── 最後の質問になります。大字会長からご指摘があった小学校の課題とも関係しますが、現職にとっても目指している若い人にとっても、教職が魅力ある仕事であるために、校長先生がするべきことはどんなことでしょうか。

大字 「やりたいようにやっていいよ」と言ってあげることですよね。先生たちは思いをもってこの仕事に就いていますから、その思いを全面的に出せるように。ただ出せるだけでなくて、成功体験につながるように、適切なフォローもしつつ。
 やっていいよと言っただけではうまくいかないので、校長が直接的にフォローするのか、副校長・教頭に「あの先生、今こういう感じだから、ちょっと支えてあげたら?」とか、あるいは学年主任に「学年として、ここの見方を変えてくれない?」とか。そういうサポートはしますが、基本は先生たちに「やりたいことが、本当にやれている」という思いをもってほしいと思います。

 ── 働き方に関係する調査を見ても、先生方自身が重視しているのは、「早く帰れる」ことよりも「やりがいをもって働ける」ことでした。先生方に的確なサポートができるように、“教職員の見取り”はどのように心がけておられるのですか?

大字 見取りというか、とにかく続けていることは、時間のある限り学校中を歩き回って、教室に入って授業を見ることと、職員室でみんなに声をかけて回ること。当たり前のことですが、これをずっと続けています。
 そうすると、例えば、ある子どものことで「あの子、最近こうだよね」と担任と話ができるわけですよ。そういう話をすることで、担任の人となりや学級経営観がわかる。毎日、授業を見続けていないと変化はわからないので、それは当たり前にやっています。

 ── “授業を通して”というところに意味がありますね。

大字 私たち教員の仕事は子どもを成長させることなので、だったら話題は子ども、子どもの姿を通して話をしなければいけないと思います。
 口はばったい言い方ですが、私たちはプロの集団でありたいので、子どもをどう成長させるかということが話題の中心であってほしいし、そうありたいと思います。
 教師は本当に楽しい仕事なのですよ。私は心の底からそう思っています。教材研究を十分にやって、自分が仕組んだ授業で子どもたちが喜んだら、たまらない喜びです。若い先生たちも、やはり子どもが好きで教員になってきているので、私たちの時代とそんなに変わらないと思います。

 ── あえて教師を選んでくれた若い先生たちに、やりがいを感じさせてあげてください。これからも日本の学校教育をよろしくお願いします。貴重なお話、貴重なお時間をありがとうございました。

大字 後に続いてくれる人に少しでもいい環境で仕事をしてほしい。自分がいい思いをさせてもらった分は、彼らに返したいですよね。

(中学校編へ続く)