学研 学校教育ネット

教育ジャーナル

バックナンバー

学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。

教育ジャーナル Vol.15-1

がんばれ! 公立校!!

この困難の中でも、授業改善は進み、
子どもたちが主体的に学ぶ姿も見えてきた
令和4年度全国学力・学習状況調査より 前編

がんばれ! 公立校!!

この困難の中でも、授業改善は進み、
子どもたちが主体的に学ぶ姿も見えてきた
令和4年度全国学力・学習状況調査より 前編

渡辺 研 教育ジャーナリスト

コロナ禍だけでなく、ICT の対応にも追われた令和3年度。
中学校でも学習指導要領が全面実施になり、本務である授業改善を進めていかなければならなかった。時間がどれだけあっても足りない中で、どう課題に対処し、教育活動を停滞させない努力を続けたのか。足跡をデータから読み取りたい。
なお、コロナ禍に直接関係する質問項目(分類の16)は取りあげなかった。2年間、自粛された行事や授業参観などは、今年度は徐々に再開されつつある。
コロナ以上に気がかりな数字。調査対象児童数は1,057,660人、生徒1,087,289人(公・国・私立校計)。数字だけ見ると毎年約1万人減少していく。
公立小学校18,805校(令和3年度18,965校)、公立中学校9,437校(同9,475校)。地域のランドマークだった学校が、どこかで毎年なくなっている。

*数値は小数点以下を四捨五入。今回は、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」を肯定的回答とした数値を使用。また、Ⅲ及びⅣのICT関連は公立校の数値、それ以外は国・公・私立校の数値。

Ⅰ 子どもたちの事実――コロナ禍の影響はどうか

わかっているのに伝えきれない

 まず、児童・生徒の学力で気になったところを国立教育政策研究所による評価からピックアップする。
 小学校の平均正答率は3教科とも63~66%。巧みな難易度だ。
 中学校は国語69%、数学52%、理科50%。理科は前回(平成30年度)が67%だった。理科離れとか学力低下、コロナ禍で実験などに支障が出た……ではなく、きっと難易度が要因なのではないかと思う。
【国語】児童は「話すこと・聞くこと」で「互いの立場や意図を明確にしながら計画的に話し合い、自分の考えをまとめることに課題がある」として、「異なる意見を生かして自分の考えをまとめることができるよう、『~という考えもあるけれど』などの表現を話合いの中で用いることができるように指導することが大切」と助言する。児童の対話的な学びは活発に行われている。その態度に水を差さぬように配慮しながら、精度を上げていくために指導の工夫が必要だろう。
 生徒は、「自分の考えが伝わる文章になるように、根拠を明確にして書く問題」の正答率が47%。自分が言いたいことを正しく伝える、意図したとおりに相手に理解してもらう。これが不十分だからネット上の書き込みを巡って無用のトラブルが起きる。
 併せていえば、数学の「二酸化炭素削減量の目標である300kgに達成するまでの日数を求める方法を表、式、グラフなどを用いて説明する問題」の正答率が39%。グラフを描き、座標を読み取ることで正解が得られることを自分ではわかっているのに、それを記述できなかったようだ。
 これは国語や数学の学力とは別の課題。言語活動の充実といわれて久しいが、各教科の授業や活動全体を通して育てておかなければならない汎用的な力だ。
【理科】(小学校)「問題解決の力」を踏まえて出題された「『問題の見いだし』については、気付いたことを基に分析して解釈し、適切な問題を見いだすことに課題」があった。
 複雑な要因がからんで起きる実際の事象を整理して、何が課題なのかを見つけることは、本当は難しい。長い目で見て、学校教育を卒業するまでに育てたい。
(中学校)「科学的に探究する学習」を踏まえた「探究の過程における検討や改善を問う設問」について「他者の考えの妥当性を検討したり、実験の計画が適切か検討して改善したりすることに課題」。科学的リテラシー、読解リテラシーは大事。
 学力は、子どもたちの事実であるとともに、教師の成果と課題だ。

ゲームをしている時間が激増

 今さらコロナに翻弄されたくはないが、子どもたちの生活や態度に影響がないとはいえない。調査(児童・生徒質問紙)にはどのように表れているのだろう。経年変化から、目立った変化があったものを見ていく。
「朝食を毎日食べていますか」という質問がある。肯定的回答は小学生で94%、中学生で92%。ただ平成24年度調査でも小学生96%、中学生94%。この間、でこぼこもない。同時に、「まったく食べない子ども」が毎年1~2%いる。この質問から何を読み取れというのだろう。質問項目は70もある。少し精選してもいいのではないか。
 大きな変化があったのは、ゲーム(テレビやスマホ)の時間。コロナ禍前の29年度と比較すると「1時間以上」が小学生55%→76%、中学生59%→71%。そのうち「4時間以上」が小学生9%→17%、中学生11%→16%(令和3年度も同程度)。コロナが収まり、友達と接する機会が戻れば数値は下がるはずだが、習慣化してしまうと改善は容易ではない。
 久しぶりに目にとめたが、「携帯やスマホを持っていない」小学生は21%、中学生は5%。28年度の調査では小学生39%、中学生19%が持っていなかった。使い方は7割程度の小・中学生は家族と決めたルールを守っているようだが、心配ではある。

教師は信頼できる大人でいて

 子どもたちの態度や姿勢にもコロナの影響は見えるが、必ずしもネガティブなものばかりでもない。
「自分にはよいところがあると思う」。そう思っている小学生80%程度で、ここ10年、変わっていない。でも中学生は、コロナ禍をはさんで増えている(31年度74%→79%)。
「先生があなたのよいところを認めてくれている」と思う中学生も増えていて(同81%→86%)、きっと無関係ではない(肯定が31%→40%)。行事などが中止されても、そんな事情に対して子どもたちが思わず褒めたくなるような振る舞いを見せてくれたのだろうか。子どもたちが「こんな自分を好き」と思えるには、コロナよりも教師や身近な大人のかかわりが大きい。
 その点でいえば「困りごとや不安なことを、先生や学校にいる大人に相談できる」が小学生68%、中学生67%という数値は物足りない。子どもたちにとって教師は、もっともっと信頼できる大人でありたい。
「将来の夢や目標を持っている」「難しいことでも失敗を恐れず挑戦している」は、コロナ禍で数値が低下し、回復していない。世の中の無力感に感染せず、子どもたちには困難に果敢に立ち向かう大人に育ってほしい。
「やると決めたことはやり遂げる」小学生・中学生がともに87%。学校はそれに必要な意志を育み、知識や方法を身につける場だ。
「自分と違う意見について考えるのは楽しい」は小学生74%、中学生77%、「友達と協力するのは楽しい」は小学生、中学生ともに94%。大きなことをやり遂げるには不可欠な態度だ。こういう場であることも学校の意義。

解決してくれるのだろうか

 学習習慣については、“大人の姿”が気にかかるので、あえて取りあげる。
「あなたの家には、およそどのくらいの本がありますか」という質問が昨年度から登場した。選択肢は「0~10冊」から始まって「501冊以上」まで。ご丁寧に「10冊はこのくらい」「500冊はこのくらい」と本棚のイラストつき。子どもたちは誠実に回答しており「その他」や「無回答」はない。そして、学力とのクロス分析では、無情にも「家にある本の冊数が多い児童生徒ほど、教科の平均正答率が高い傾向が見られる」と結論づける。
 あからさまに言えば“予想どおり”の結果なのだろう。そんな結果を得るために、保護者の知的レベルや経済力などと安易に結びつきかねない質問を、無遠慮に子どもたちにしてもいいものか。結果を受けてなんらかの解決策を提案してくれるのだろうか。
 地域や社会とのかかわりでは、コロナ禍で地域行事そのものが減っているので、子どもたちが参加したり、地域の未来を考える機会も減少したりしている。せっかく積極的にかかわろうとする傾向にあったのに、残念だ。
(授業改善関連とICT関連は、学校の取組と対照する形で紹介する)

Ⅱ 学校の当たり前――授業改善

とにかく取り組まれている

 現在、教師の仕事の最優先事項は、資質・能力を育み、主体的・対話的で深い学びの視点による授業改善だ。個別最適・協働的な学びも要素はそこに含まれる。児童・生徒が主体的に学びに向かう力を伸ばしていけるよう、よい授業づくりに取り組みたい。
 アクティブ・ラーニングとして十分に準備運動ができていたためか、すでに当たり前に取り組まれていることも多い。
「児童生徒の様々な考えを引き出し、思考を深めるような発問や指導をした」は小・中とも97%が実行、「児童生徒自ら学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現するなどの学習活動を授業に取り入れた」も小90%、中87%で行っている。「習得・活用及び探究の学習過程を見通した指導方法の改善や工夫」も小・中とも87%で行われている。十分に実施はされているが、子どもたちは、授業を通してこうした問題解決的な学び方そのものを身につけていくわけだから、さらに精度を上げていきたい。
「地域や社会で起こっている問題や出来事を学習の題材として取り扱った」のは小83%、中80%。教科書にない題材を扱うのは大変だと思うが、子どもたちが主体的に学ぶ姿勢を育てるには大事な要素だろう。
 他の項目は、児童・生徒の回答と対照する。対話的な学びの前提になる「児童生徒は話合いなどの活動で、相手の考えを最後まで聞くことができている」は小91%、中96%。「話合いなどの活動で、自分の考えを相手にしっかり伝えることができている」は小84%、中87%。子どもたちの評価を信頼しよう。

中学生の成長が見える

 既習事項の確認→主体→対話→深いの順に並べる(◆は学校、◇は児童生徒。カッコ内の数字は肯定の回答率)。
◆各教科等で身に付けたことを、様々な課題の解決に生かす機会を設けた――小学校84%(17%)、中学校77%(14%)
◇各教科などで学んだことを生かしながら、自分の考えをまとめる活動を行った――小学生72%(28%)、中学生67%(22%)
 資質・能力、カリマネと言われ始めて、いったん数値は上がった(平成30年度)。コロナ禍で後退したが、また上昇傾向。学校卒業後の子どもたちには、教科ごとの知識以上に大切なことなので、子どもたちがこういう学び方を意識できるよう、指導も徹底したい。
◆児童生徒は課題の解決に向けて、自分で考え、自分から取り組むことができている――小学校87%(20%)、中学校88%(20%)
◇課題解決に向けて、自分で考え、自分から取り組んでいる――小学生77%(31%)、中学生79%(31%)
 この調査では開始以来、たくさんの項目で“小学生・小学校>中学生・中学校”という傾向が続いてきた。小学校が先行して取り組み、数年遅れで中学校が取り組むという構図だ。この質問でも当初は同様だったが、令和3年度調査で中学生・中学校が上回った。主体的に学ぶことが子どもたちの成長の表れだとすれば、これが自然な形だ。小学生の育ちが中学校にも受け渡されたといえる。
◆児童生徒は、自らの考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して、発言や発表を行うことができている――小学校75%(12%)、中学校81%(16%)
◇自分の考えを発表する機会では、自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫している――小学生66%(27%)、中学生64%(23%)
 ある意味では日本語力も含めた技術的な問題なので、中学生の習熟度が上がっているのが本来の姿。グループ対話や全体交流などにおいても、そこには教師の丁寧な指導や助言が必要だろう。
◆話合いなどの活動で、児童生徒は自分の考えを深めたり広げたりすることができている――小学校81%(15%)、中学校86%(21%)
◇友達と話し合う活動を通じて自分の考えを深めたり広げたりすることができている――小学生80%(38%)、中学生79%(34%)
 子どもたちにとっては「わかった!」「なるほど、そういうことか!」という実感。それが得られる授業はおもしろい。教師の的確な後押しで、いっそうの深まりや広がりを。
 なぜか、教師には内緒の質問。
◇学習した内容について、分かった点やよく分からなかった点を見直し、次の学習につなげている――小学生78%(33%)、中学生75%(26%)
“振り返り(リフレクション)”について聞いているが、子どもたちに質問の意味が伝わっているのかどうか。初出の昨年度とほとんど同じ数値だ。学校にも「そういう指導をしているか」と質問してもいいのではないか。
◇授業は自分に合った教え方、教材、学習時間などになっていたか――小学生80%(37%)、中学生75%(23%)
「学習者の視点に立った授業」なのか「個別最適な学び」なのか、質問の意図がまだ不明。数値は初出の昨年度とほぼ同じだ。もし「個別最適」の取組状況を聞いているのなら、あまり教師たちを急かさないでほしい。深い学びの実現にも、まだまだ改善が必要だ。

学習評価の精度を上げていこう

 もう少し授業に関係する質問があるので見ておく。
【学習評価】授業改善が進む中、まだ試行錯誤中なのが学習評価。
◆児童生徒のよい点や改善点等を積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにした――小学校97%(39%)、中学校96%(36%)
 こうすることで、学んだことが自覚化されるのだろう。
◆創意工夫の中で学習評価の妥当性や信頼性が高められるよう、評価規準や評価方法の教員間での明確化・共有化や、学年会や教科等部会等の校内組織の活用等、組織的かつ計画的な取組をした――小学校84%(22%)、中学校91%(34%)
 とにかく評価はしなければならないので、“どちらかといえば行った”状態だが、中学校は昨年度に比べて進んできた。テストの点数ではなく、子どもの変容をしっかり見とって評価しなければならない。研修はしばらく続くことになりそうだ。
【小学校教科担任制】小学校の教科担任制については、算数と理科の指導方法として聞いている。導入した学校は算数16%、理科54%。理科はもともと専科が担当する学校も多い。国の論議では対象にされなかった国語については聞いていないが、現実には交換や分担の形で実施している事例もある。
【個に応じた指導】算数・数学の指導形態として「少人数指導」「習熟度別」「TT」の実施状況を聞いている(いずれも熱心には取り組まれていない)。少人数や習熟度別が導入されたのは20年以上も前、TTはさらに前。これが伏線で、来年度以降に「個別最適な学び」の実施状況について、直接的な質問が登場するのだろうか。
【特別支援教育】これこそ「個別最適な学び」だ。「特別支援教育を理解し、児童生徒の特性に応じた指導上の工夫を行った」は小学校94%(42%)、中学校91%(42%)で、平成30年度以来ほぼこの数値だ。この機会にICTも活用して肯定の数値をもっと上げたい。

「考え、議論する道徳」が実現

【総合、学活、道徳】学校と児童生徒に同様の質問がされているので対照する。
◆総合的な学習の時間において、課題の設定からまとめ・表現に至る探究の過程を意識した指導をしている――小学校91%(33%)、中学校90%(36%)
 10年前(平成25年)は小・中とも81%で、28年度から上昇傾向。創設から20年、ようやく総合の価値が認識されたのだろうか。高校でも急に熱量が上がっている。
◇総合では、自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいる――小学生73%(32%)、中学生72%(29%)
 10年前に比べると年々上がってきているが、教師が「そうしている」と考えるほどは子どもたちの身についていないようだ。汎用的な学び方なので、教師はひと頑張りしたい。
 集団で過ごす子どもたちには、学級活動(学級会)は、学びや育ちにおいて授業と同等の意義がある。
◇あなたの学級では、学級生活をよりよくするために学級活動で話し合い、互いの意見のよさを生かして解決方法を決めている――小学生74%、中学生77%
◆学級生活をよりよくするために、学級活動で話し合い、互いの意見のよさを生かして解決方法等を合意形成できるような指導を行っている――小学校94%、中学校93%
 子どもたちの数値は31年度調査から急に上がり、中学生はさらに上がり続けている。自分たちで決めたことには責任が伴うことも理解すれば、主権者教育の入り口になる。
◇学級での話合いを生かして、今、自分が努力すべきことを決めて取り組んでいる――小学生74%、中学生71%
◆今、努力すべきことを学級での話合いを生かして、一人一人の児童生徒が意思決定できるような指導を行っている――小学校92%、中学校93%
 聞いているのは、社会の一員として自覚しているか、自覚を促しているかということなのだろうか。初出以来、よくわからない状態が続いている。子どもたちが理解して回答しているのなら、それでいいのだが。
◇道徳の授業では、自分の考えを深めたり、学級やグループで話し合ったりする活動に取り組んでいる――小学生80%(43%)、中学生85%(43%)
 中学生は、コロナ禍だったにもかかわらず、肯定の回答が31年度34%から令和3年度48%と大きく変化した。価値観の押しつけではなく、議論したかったのかもしれない。
◆道徳において、児童生徒自らが自分自身の問題として捉え、考え、話し合うような指導の工夫をしている――小学校97%(38%)、中学校97%(46%)
 中学校も同様に31年度の38%から変化している。「考え、議論する道徳」が実現しているようだし、教師がそう努めれば、子どもたちはそんなふうに育つ。道徳にかぎらない。どの項目にも、出てきた数字にとんでもない食い違いはなかった。

(後編へ続く)