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教育ジャーナル Vol.15-2

がんばれ! 公立校!!

この困難の中でも、授業改善は進み、
子どもたちが主体的に学ぶ姿も見えてきた
令和4年度全国学力・学習状況調査より 後編

がんばれ! 公立校!!

この困難の中でも、授業改善は進み、
子どもたちが主体的に学ぶ姿も見えてきた
令和4年度全国学力・学習状況調査より 後編

渡辺 研 教育ジャーナリスト

前回に続き、令和4年度全国学力・学習状況調査で読み解く小中学校の学びの姿を紹介する。
ICT活用の現状、学校運営、教職員の資質向上、そして平成30年度以来の実施となった「理科」の現状が今回のテーマだ。

*数値は小数点以下を四捨五入。今回は、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」を肯定的回答とした数値を使用。また、Ⅲ及びⅣのICT関連は公立校の数値、それ以外は国・公・私立校の数値。

Ⅲ 学校の当たり前――ICTの活用

授業で活用、家でも活用

先に学習者たちの意見を聞く。(カッコ内の数字は肯定の回答率)
「学習の中でPC・タブレットなどのICT機器を使うのは勉強の役に立つと思うか」と質問された小学生94%(66%)、中学生93%(57%)が「役に立つ」と答えている。今さらもう、授業はノートと鉛筆で、調べ物は図書室で……というわけにもいかない。ICTを拒む余地はなく、何はともあれ「どう使うか」を考えていかなければならない。実際、うまく使うほうが得策だ。
 学校への質問はほぼ「どの程度使っているか(毎日、週3以上など)」という聞き方になっているので、頻度の高い活用の仕方に視点をおいて紹介していくことにする。「他校では毎日使っています」とプレッシャーをかけるつもりはない。そう使うと効果があるとか、それなら無理なく使えるとか、そんな理由で頻度が高いのだと理解していただきたい。
 まず、使用頻度を聞いていない項目。
「教員がPCなどのICT機器の使い方を学ぶために必要な研修機会がある」は小学校95% (56%) 、中学校90%(50%)。
 教育委員会等が設定したもの以外にも、学校で自主的に研修している場合もあるのだろう。教員免許の更新制度が廃止になっても、教師は事あるごとに学び合っている。
「ICT機器の活用に関して、学校に十分な知識をもった専門スタッフ(教員は除く)がいるなど技術的にサポートできる体制がある」は小学校69%(34%)、中学校69%(36%)。
 令和3年度(小54%、中52%)と比較しても格段に整備されてきた。小・中の数値がほぼそろっているのは、各教育委員会の働きによるものなのだろうか。いくら日本型学校教育でも、教師の献身になんでも頼ってはならない。できればメーカーによるアフターケアも期待したいものだ。
 大きな変化があったのが「児童生徒一人一人に配備されたPC・タブレットなどの端末を、どの程度家庭で利用できるようにしているか」。3年度は「持ち帰らせていない」と「持ち帰ってはいけないこととしている」(両質問の違いがよく分からないが)とを合わせて小学校68%、中学校67%だったが、4年度には小学校14%、中学校17%に減少している。使い慣れた証拠なのだろうか。
「授業での活用」も、小学校では「ほぼ毎日」が58%、「週3回以上」が27%、中学校では「ほぼ毎日」が56%、「週3回以上」が26%。配布(2年度内)から丸1年で、もはや欠かすことのできないツールになった。
 また「家庭と連絡を取り合う場面での活用」では、ともかく活用している小学校が51%、中学校も49%。これは教師の働き方にもプラスになる。まったく活用していない小11%、中15%は、少なくとも検討くらいはしてみてはどうだろう。

小学校、中学校の数値が一致

 では、どんな場面で活用されているのか。細かい数値は挙げずに紹介する。「他校はこれだけ実施している」に惑わされず、自校の事情を考慮して活用していただきたい。使い方を誤ると、ネガティブな結果をもたらすツールでもある。
 まず「毎日」と「週3回以上」の回答が“多い(と思う)”活用例。
◆児童生徒が自分で調べる場面(インターネット検索)
 半数以上の学校で活用、「週1回以上」まで入れるとほぼ9割。ここで使わないと、それこそ“宝の持ち腐れ”だ。
◆児童生徒が自分の考えをまとめ、発表・表現する場面
 4割程度。「週1回以上」を入れても7割。思ったより少ない。ICT活用の授業例では、子どもたちがパワーポイントを使って上手に説明する場面がしばしば紹介される。使いこなせる教師も多いので、子どもたちにもっと活用の機会をあげてもいいのではないか。
◆教職員と児童生徒がやりとりする場面
「週1回以上」まで入れて7割。「教師が机間巡視しながら、自力思考や振り返りのノートを見て、声かけする」といった光景のデジタル版なのだろうか。
◆児童生徒同士がやりとりする場面
「週3回以上」3割、「週1回以上」まで入れて6割。考えの交流・情報共有だろう。
「外部(他校や社会教育施設、民間企業等)の人々とやりとりする取組」は半数以上が実施していない。ゲストティーチャーや取材の代わりになるのだが、現状はこう。コロナで制限されているが、「会って話しをする」ことも、児童生徒に必要ではある。
 ところで、回答結果を見ながら気がついた。小学校と中学校との回答の分布の数値がほとんど一致している。小中連携なのか教育委員会との連携なのか。何が出るのかわからないツールは、手探りで扱われているようだ。

可能性はあるが、扱いは慎重に

 少し踏み込んだ使い方も聞いているが、これはまだ今後の課題として参考までに。
◆家庭におけるオンラインを活用した学習
 ――「月1回未満」が小・中6割
◆児童生徒のスタディ・ログを活用した学習状況の確認
 ――同小学校5割、中学校6割
◆児童生徒の特性・学習進度に応じた指導
 ――これは「週1回以上」は小学校5割弱、中学校4割弱。やがては個別最適な学習には欠かせなくなりそうだ。
◆不登校児童生徒に対する学習活動等の支援
 ――小学校では「毎日」・「週3回以上」が23%、「月1回未満」が49%。中学校では同25%と41%。“保健室登校”の子どもがそこでリモートの授業を受けたり、同級生と交流したりするケースもある。可能なら実現したい。
◆特別な支援を要する児童生徒に対する学習活動等の支援
 ――前項と同様、小学校31%と34%、中学校28%と37%。「週1回以上」で区分するとほぼ半々。特別支援教育にICTが有効なことは、こういう環境になるずっと以前からいわれてきた。せっかく環境が整ったのだから、積極的に進めてほしい分野だ。
 有効に活用できたからといって、すべてプラスの効果が表れるとはかぎらない。慎重さは求められる。ただ、さまざまな可能性を秘めていることは間違いない。
 仙台市立若林小学校では、昨年度、インターネットを介してハワイの小学生と交流を行った。子どもたちは教室で自分の席に座り、それぞれタブレット端末を使用。設定も学校が自力で行った。その気になればこういうこともできる。工夫のしがいはある。

Ⅳ 学校の当たり前――学校運営、教職員の資質向上

ICT活用で業務負担の軽減を

 ここでもICT活用に関する質問がいくつもあるので、それを先に取りあげる。授業での活用を落ち着いて考えるためにも、業務の改善に活用しておくのが順序。
「ICTを活用した校務の効率化(事務の軽減)に取り組んでいる」のは小学校95%、中学校94%。すでに学校の当たり前だ。
 もちろん、有効性も回答されている(「ICT活用した校務の効率化で次の業務は軽減したか」という質問の仕方)。参考までに、「当該業務にICTを活用していない」の数値もあげる(カッコ内)。
◆児童生徒の出欠・遅刻に関する事務
 ――小学校64%、中学校60%(小13%、中12%)
 朝の慌ただしさが緩和される。
◆家庭への調査等に関する事務(個人面談の日程調整や学校評価アンケートなど)
 ――小学校61%、中学校62%(小13%、中12%)
 アンケートの集計は、人手よりも機械のほうがミスをしない。
◆学校からのお知らせ(学校通信等)
 ――小学校50%、中学校53%(小10%、中10%)
 今なら、保護者にもデジタル版のほうが好まれるかもしれない。
◆教職員等会議に関する事務――小学校72%、中学校68%(小5%、中6%)
 資料作成の手間、日程調整など、軽減されるはず。
◆教職員の書類作成等その他の事務
 ――小学校74%、中学校70%(小1%、中1%)
「あまり軽減していない」が小23%、中25%。軽減を実感できないのは、事務の絶対量が多すぎるからか。あるいは、入力など、人手の部分の作業手順が悪いのか。
 こうした業務改善の事例は、文部科学省ホームページの「働き方改革事例集」に載っている。
 子どもたちの使用に関しては急かすつもりはないが、業務改善に関しては早いにこしたことはない。準備に時間がかかっても、その時間は後になっていくらでも取り戻せて、やがてゆとりも生まれる。

やるべきことはできている

 ICTフル活用で時間を生み出し、教職員という生身の人間集団が抱える課題にも、学校として組織的に対応したい。(カッコ内の数字は肯定の回答率)
◆教員が授業で問題を抱えている場合、率先してそのことについて話し合った――小学校73%(35%)、中学校55%(23%)
◆教員が学級の問題を抱えている場合、ともに問題解決に当たった――小学校84%(51%)、中学校69%(36%)
 教師は“個人事業主”ではない。授業づくりも学級経営も、学級や教科の担任個人の責任ではなく学校全体の責任。伝統的に学級担任、教科担任に任されてきたが、もうそういう時代ではない。若手も増えた。担任の問題はすぐに子どもたちに影響し、保護者も黙っていない。おまけに教師不足が深刻化している。今いる教師の資質向上も学校全体の課題だ。もっと徹底されるべきだ。
「指導計画の作成では、各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた横断的な視点で、目標の達成に必要な教育内容を組織的に配列している」、「児童生徒の姿や地域の現状等に関する調査などに基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPCDAサイクルを確立している」、「指導計画は、教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、外部の資源を含めて活用しながら効果的に組み合わせている」の3項目は、コロナ禍の影響を受けつつも、ほぼ9割の小・中学校が行っている。
 コロナ禍で打撃が大きかったのが校内外の研修。混乱の中で児童生徒を最優先し、自分たちのことは後回しにした。コロナ禍は続くが、回復しつつあるのか。
◆授業研究や事例研究等、実践的な研修を行っている――小学校98%(54%)、中学校92%(40%)
 ピークは平成31年度で、小99%(75%)、中96%(56%)と肯定の数値はすごかった。今年度は令和3年度調査よりも後退したが、3年度はICT対応が優先されたようだ。本来は、このタイミングでは最優先事項だった。
 ただ、「校外の各教科等の教育に関する研究会等に定期的・継続的に参加している(オンラインでの参加を含む)」は小学校76%(19%)、中学校73%(17%)。“オンライン”にはもどかしさもあるが、それでも授業参観も双方向の研究協議も可能。すでに新たな研修スタイルになっている。
 その他、小中連携や学校・家庭・地域連携も、まだ回復していない。
 子どもたちも学校もコロナ禍でも決してくじけてはいない。そんな姿は見えた。

Ⅴ 子どもたちの事実、学校の当たり前――理科

決して特別なことでなく

 平成30年度以来の実施となった理科を見ておく。平均正答率の上位県・市の子どもや学校にはどんな特徴があったのか(数値は「YES」。カッコ内は全国・公立)。
【児童・小学校――A秋田県、I石川県、F福井県、T富山県、K鹿児島県の5県】
 理科が大好きなのは秋田県の児童。大好きではなくても理科は大切だし、授業もよくわかる。理科を日常生活の中で活用できないかと考え、将来も役に立つと思う。
 学校では、「自然の事象・現象から問題を見いだす指導(28%)」や「実生活の事象との関連を図った指導(31%)」をよく行っている。特に顕著なのが、前者は石川県34%と鹿児島県40%、後者は石川県39%と福井県39%、そして鹿児島県43%。
 特に理科の場合は、授業のテクニカルな部分よりも、「なぜ?」「どうして?」という疑問や驚きが学習への動機づけになる。5県の児童は「自然の中で遊ぶことや自然観察をする(28%)」ことも多く(秋田県は36%)、そこでの気づきをうまく授業に取り入れているのだろうか。
 テクニカルな部分は学校と児童を並べる。
◆自ら考えた予想や仮説をもとに、観察、実験の計画を立てることができる指導(37%)=A37%/I43%/F37%/T37%/K49%
◇自分の予想をもとに観察や実験の計画を立てている(41%)=A53%/I40%/F43%/T43%/K40%
◆観察・実験結果を整理し考察する(43%)=A42%/I50%/F51%/T43%/K52%
◇観察や実験の結果から、どんなことが分かったのか考えている(47%)=A58%/I48%/F50%/T51%/K45%
◇観察や実験の進め方や考え方が間違っていないかを振り返っている(33%)=A45%/I33%/F36%/T38%/K31%
 言うまでもないが、「実験、楽しかった!」で終わらせたのでは学習にならない。
 観察・実験の授業は5県とも週1回以上行うことが多い。教科担任制(専科)による授業(54%)も秋田県は71%、福井県65%と、かなり多くの学校で実施されている。
【生徒・中学校――I石川県、F福井県、S仙台市、H浜松市の2県2市】
 やはり、生徒は理科が好き。3年生ともなると、この要素は大きい。日常生活の中での活用も考えているし、将来、役に立つとも思っている。科学的リテラシーを育てたい。
◆実生活における事象との関連を図った授業(42%)=I51%/F53%/S51%/H58%
 かなり徹底されており、このことから育つ部分も大きいのだろう。
 中学生ともなると、「自然の中で遊ぶことや自然観察をする(21%)」は、この県・市でも全国並みの数値になるので、意図的に「自然の事象・現象から問題を見いだす指導(31%)」も必要になってくるだろう。福井県は37%、浜松市も42%と力を入れている。
 実験結果の考察はしっかり行われている。
◆観察や実験の結果を分析し解釈する指導(43%)=I52%/F57%/S52%/H53%
◇観察や実験の結果をもとに考察している(36%)=I40%/F36%/S43%/H37%
◇観察や実験の進め方や考え方が間違っていないかを振り返っている(25%)=I28%/F30%/S32%/H25%
「観察・実験を週1回以上(47%)」は、福井県では75%の学校が実施。観察・実験を省いたら、理科を学ぶ楽しみが半減する。
 特別な取組ではなくても、徹底すればちゃんと子どもたちの学力となって表れてくる。改めてそんなことに気づく。先生方には希望をもっていただきたい。