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教育ジャーナル Vol.8-2

校長アンケート/働き方改革編

働き方改革のためになんでもできるとすれば、
何をどう変えたいですか?(1)
~学校の業務改善・働き方改革~

校長アンケート/働き方改革編

どんな出来事からも学ぶものがあるとすれば、2020年度の大変だった学校経営から何かを得なければならない。
本誌では、3月下旬に、ここ数年間に本誌にご支援いただいた小中学校の校長先生にアンケートを実施した。アンケートに記された校長ならではの苦労を共有しながら、業務改善の視点を見つけていきたい。

働き方改革のためになんでもできるとすれば、
何をどう変えたいですか?(1)
~学校の業務改善・働き方改革~

渡辺 研 教育ジャーナリスト

質問内容は、以下の6問。

Ⅰ 学校の業務や働き方の改善について

Q1 2020年度はコロナ禍により、授業時間の削減や行事の中止・縮小など、教育活動や学校経営に様々な制約を受けました。

① 仕方なく取りやめた行事や業務のうち、「なくても支障がなかったもの」や「(今後も)縮小が可能だと思ったもの」はなんですか?(いくつでも)。

② 様々な制約を受けた2020年度の1年間を、「業務改善」「働き方改革」の視点で振り返ると、どのような気づきがありましたか? また、そうした気づきを職員間で共有する機会はありましたか?

Q2 多忙な現状、超過勤務の常態化の根本原因はなんだと思われますか?
 もし、なんの制約もなしに、業務改善・働き方改革のためになんでもできるとしたら、何をどう変えたいですか?(例えば、保護者対応のための人を増やす。何かの業務を丸ごと外部に委託する。学級担任の主・副2名体制にするなど)
 実現の可能性は度外視して、根本的な問題点を改善するためには何が重要なのか、お考えをお聞かせください。

Q3 何かにつけて「例年どおり」にはいかなかった2020年度。ともすれば「これまでどおり」になりがちな学校文化において、何かを変えるには校長のリーダーシップが欠かせません。「 何かを変えざるを得ない」場面で、教職員の意識を変えるために、どんな工夫をされましたか? また、教職員の意識改革を図る際、キーパーソンにするのはどんな人ですか?

Q4 コロナの不安が解消されたら、思いきり取り組みたい教育活動(「やはり学校教育や子供たちにとって絶対に必要だ」と思う教育活動)はなんですか?

Ⅱ この状況でも進めていかなければならないこと

Q5 授業改善にはどのように取り組んでいますか? また、「学びに向かう力」や「深い学び」の実現に手応えを感じていますか? それはどのような場面でしょうか?

Q6 GIGAスクール構想で、タブレット端末などICT環境整備が急速に進んでいます。この環境をどのように活用していますか?

Q1 ①縮小しても支障のなかった業務や行事

儀式的行事の簡素化

 どんな業務にもなんらかの必要性があり、どんな活動や行事にも少なからず教育効果はある。だからどれも削れない……。それではスクラップ&ビルドどころか、ビルド&ビルド&ビルド……の悪循環を生み、多忙の主因になった。コロナにより、何をスクラップすることになったのか。

◆縮小が可能だと思ったものは、運動会。午前中のみの開催にした。団体演技、徒競走、団体競技、リレー、全校ダンスなどを当たり前のように行ってきたが、当然、練習にかなりの時間が割かれていた。教科担任制が導入される時代に、授業時数を確保していくのは大変である。半日開催のため、団体競技をなくした。応援団も1回。保護者は立ち見。朝早くからの場所取りもなく、よかった。令和3年度も半日開催。(小学校)

 半日開催と決めてしまえば、当然、種目を精選しなければならない。サイズを小さくした枠内に“〇年生には絶対に必要”と思える競技だけ入れていく。運動会の本質の見直しになり、練習や準備の時間の削減も図れる。
 運動会に限らず、業務改善のコツだ。

◆入学式、卒業式における当該学年以外の生徒の参列を取りやめた。体育祭の競技を精選した。いずれも支障はなかった。(中学校)

◆儀式的行事(入学式・卒業式)の簡素化。挨拶者を最小限にしたが、支障はなかった。(小学校)

◆式典の来賓招待を減らした。行事の事前準備や指導に係る時間を削減。(小学校)

 それによって、式が味気ないものになったわけではないし、行事の質が著しく低下することもなかったのではないだろうか。

◆運動会を半日日程とした。学習発表会も半日日程とした。そして、感染拡大防止のため、各種行事への来賓の招待を取りやめるとともに、全校児童の参加の在り方を見直した。来賓を招待しないことで、接待や対応の簡略化が図られた。在校生の参加を高学年に絞ることで、各教科の授業時数の確保及び卒業式などに向けた練習や準備の効率化を図ることができた。(小学校)

 こんなことをいうと叱られそうだが、卒業式の練習は純粋に子供たちのためなのか、それとも見栄えをよくしたいという教師の事情なのか(教育的愛情だとは思うが)。この機会に向き合ってみたい。

子供からもアイデアが出された

 この方法でなければ教育効果は得られないのか、同程度の教育効果を得るには別のやり方ではダメなのか。以前からいわれている業務改善の視点だ(“こうでなければならない”を壊してみる)。半日の運動会もその例。コロナはそれが実行できる機会になった。

◆たて割り全校遠足の工夫。例年、徒歩50分ほどの公園に全校で行っていたが、密を避けるため学校近所の公園5か所に分散して「公園でたてわりあそび」という活動に変更した(たて割り班を5グループに分ける)。6年生が「やっぱりたて割りで遊ぶって楽しいなあ」と話していたのが印象的だった。他のたて割り活動も全校ではなく、1・6年、2・5年、3・4年など2学年の異学年交流を行った。
 また、全校集会をテレビ集会にしたが、これは子供のアイデアだった。(小学校)

 たて割り活動は大事。でも全校一緒の必要はない。「こうやってきたのだから、こうあるべき」と思い込んでいたら、こんな簡単なことも見えなくなる。
 教師たちが一生懸命工夫してくれている姿を見ると、子供たちからも新鮮な案が出てくる。学習者の視点、主体性など、予想外の教育効果も生んだようだ。
 学校としてはかなり思いきった策もあった。

◆給食の黙食を実施。食育の点ではよくないことだが、低学年ほど完食につながった。(小学校)

「それでも問題はなかったの?」と思ったものもあった。

◆職員朝会を終礼に変更。担任が朝、子供に向き合う時間が確保できた。(小学校)

 教師の「やらなくて大丈夫ですか?」という声が聞こえてきそうだ。
 ほかにも「地域行事(地区運動会、地域まつりなど)参加のとりやめ」(小学校)、「家庭訪問」(小学校)、「PTA活動」(中学校)などが挙がっていた。
 仮に活動の縮小であっても、改善の余地があったということだ。
 一方で、こんな学校もあった。

◆これまでに業務改善や行事の精選を進めてきたので、変更せざるを得なかった点は、全て支障がありました。(中学校)

 コロナは学校教育から大切なものも奪っていた。これも現実。

Q1 ②業務や働き方に関しての気づき

スクラップではなくビルドを

 前代未聞の1年を振り返って、そこから何か、この先に生かせる視点を見つけたい。いや、見つけなければ、平穏な日常が戻ったときに、中止したもの、縮小したものを、全て元に戻しかねない。

◆「行事を行うことより、生徒や教職員にその意義や歴史などを確認したり、理解してもらうほうが大切であること」「例年どおりに行ってきた内容を見直したり、確認したりすることの大切さ」。こうしたことを、行事後や職員会議で共有できました。(中学校)

 見方を変えれば、意義を明確に説明できない行事や共通理解を図れない活動は、無理に実施することはないのかもしれない。

◆コロナ禍における教育活動を推進していく中で、子供にとって、先生方(職員)にとって「本当に必要なもの(仕事)か」を考える機会となった。また、多くの行事が中止となってはじめて、子供の成長(の実感)のために、行事がいかに大切なものかを痛感した。職員会議や校長だよりなどを通して、子供たちの活躍の場を確保するために、大人(教師)の業務改善をどう図っていくべきかを話し合い、資料を提供している。 (小学校)

 改めて考えてみれば、何が大切なのかも見えてくる。

◆これまでスクラップ&ビルドをしてきたつもりだが、やはりビルドがあまりに多かったということに気づいた。これを機に、本当に子供にとって有意義なもののみにしていくことが、教員の負担軽減につながっていく。(小学校)

 変な表現だが、いったん“更地(全ての行事・活動をゼロ)”にして、絶対になくしてはいけないものから順に戻していく。“捨てる(スクラップ)”ことができないなら“戻す(ビルド)”。それも業務改善の視点だ(スクラップ&ビルドの変形)。
 もう一つ。業務改善を、“教師自身のため”と考えずに、“子供たちのため(それによって自分のパフォーマンスを向上させること)”と捉えると、「働き方を改めなければ」という動機づけになるのではないか。「子供たちのために」は、教師にとって何かと重要なキーワードだ。

◆縮小してもねらいは達成できると感じたのは、運動会等の行事。今年(令和2年)は検討に時間をかけましたが、次年度以降はそれを生かすことで業務改善につながると思います。検討するときは「何を育てたいか」ということを根っこに置いて議論をしたことが、「本質は何か」を見つめる目につながったと思います。本質を見る目を磨くことで、業務改善、働き方改革につながることがあると思いました。(小学校)

 本当に“こうでなければならないもの”など、極端にいえば何もない。

◆中止・縮小によって、勤務時間にゆとりが生まれた。職員の誰もが実感している。(小学校)

 令和2年の4月、5月は多くの学校で児童・生徒がいなかった。その期間は教育課程を見直す“ゆとり”になった。全員が手を止めて、何かを考えることができた。

◆臨時休業中に、環境整備を丁寧に行うことができた。会議を連日入れるのではなく、すき間時間があるといいアイデアが浮かび、それを形にしていけることがいいねと、話し合った。(小学校)

 業務改善の目的は、こんな時間を1時間でも多く、生み出すことだ。「忙しくて考える余裕がない」は、褒められたことではない。

3月にゆとりを持たせる

  たくさんの視点を得た校長先生もいる。

◆子供たちの資質・能力を育むことがねらいであることを共通認識した上で、各種行事や教育活動の目的を見直すことによる内容の精選化を図った。
 新学習指導要領の趣旨にのっとった授業づくりと、初任研や年次研修の機会ともリンクさせて、効率的な研修となるようにした。
 毎週の職員打ち合わせや特設の打ち合わせ、校長、教頭、教務主任、研究主任、養護教諭、生徒指導主事などによる配布資料を通じて、共通理解を図った。
 業務量縮減や平準化及び働き方改革推進が、職員会議や炉辺談話でも話題となり、職員が自分ごととして捉えるようになった。
 このような状況下だからこそ、ホームページやブログを活用した情報発信を充実させた。(小学校)

 1点だけコメントをつけると、業務改善や働き方改革は他の誰のためでもなく、教師の自分ごと。この意識を持てば、“やらなくていいことまでしない”“効率的に進める”など、1業務当たり15分でも30分でも自分の時間を捻出することができる。
 昨年3月は、日本中の学校でいきなり休校になった。ここからユニークな視点を得た校長先生もいた。

◆年度末の中学校1、2年生の授業を無理に実施する必要はない。教職員の年度末業務の時間に当てることで、新年度の準備も含め、スムーズであった。(中学校)

 これを実行するなら、授業時数を計算した上で、あらかじめ、3月を緩めにした教育課程を編成することは可能だろう。生徒にも教師にも、3月にしかできない取組はある。
 そのためには年間に生じる“無駄な時間”を少しずつ省いて、行事の準備なども効率的に進めていく。この先生の学校では「全職員で共通理解した上で、年間の計画を立案した」という進め方をしている。“無駄を省く”とか“効率的に進める”には、共通理解は不可欠。併せて“自分ごと”の意識。
 大胆ではあるが、こうでも考えないと“改革”など進まない。年度のつなぎ目にゆとりが持てれば、かなり能動的に新年度を迎えられるのではないだろうか。

◆行事が減ったにもかかわらず、時間外勤務がそれほど減らない。休校分を取り戻すための授業準備に時間が割かれている。教師の仕事は際限ないと感じた。24時間をどう使うかを教師自身が考えないと、働き方は変わらないのかもしれない。(小学校)

 教師個々の努力で可能なことは意識の改革。他人の意識を変えるのは難しいが、自分の意識は変えられるはずだ。

◆工夫しながら代替の行事の企画をするなどの柔軟性や創造性を、教職員は備えていることに気づかされた。(中学校)

 本気になれば、自分の意識改革、自分の働き方改革もできそうだ。

(つづく)