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教育ジャーナル Vol.8-3

霞が関発! NEWS FLASH

「いじめは増えていない」
~国立教育政策研究所が独自の分析結果を公表~

霞が関発! NEWS FLASH

 文部科学省が毎年、実施している「問題行動・不登校調査」では、小中学生のいじめの認知件数が過去最多を更新し続けているが、実際の件数は増えておらず、むしろ減っている可能性もあると、国立教育政策研究所が分析結果を公表した。

「いじめは増えていない」
~国立教育政策研究所が独自の分析結果を公表~

大久保 昂 毎日新聞記者

長期的ないじめの傾向を探るため、2010~2018年分の経年変化を分析

国立教育政策研究所(国研)が7月16日、小中学生を対象とした独自の標本調査に基づき、いじめの実際の件数はむしろ減っているとの分析結果を発表。文科省も「認知件数が増えているからといって、実際のいじめの増加を意味しているわけではない」と説明しており、いじめ対策を議論する際には数字の意味を正確に理解しておく必要がある。
 国研は1998年以降、大都市近郊にあり市街地と農地の両方を抱える地方都市を「日本の縮図」としてサンプルに選び、小学4年生以上のすべての小中学生(4000人以上)を対象として、6月と11月の年2回、いじめの経験について被害と加害の両面から継続的に尋ねている。
 今回は2013年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」の影響を含め、長期的ないじめの傾向を探るため、2010~2018年分の経年変化を分析した。
 国研によると、「仲間外れ」「無視」「陰口」の被害を受けた経験について、「全然なかった」と答えた小学生は、2010年6月は男子51・5%、女子46・3%だった。それが2018年11月には男子61・0%、女子54・9%に増えた。選択肢の中で特に深刻な「週に1回」と「週に何度も」を合わせた児童の割合は、男子が16・5%から9・4%に、女子は14・7%から10・2%にそれぞれ低下した。
 加害(いじめをした経験)についても同じ傾向だった。「全然なかった」が男子は54・9%から68・8%に、女子は54・4%から66・9%に上昇。「週に1回」と「週に何度も」を合わせた割合は男子が8・7%から6・2%に減り、女子は6・3%から6・2%とほぼ横ばいだった。
「ひどくぶつかる」「たたく」「蹴る」といった暴力を伴ういじめも、加害、被害ともに男女そろって減少傾向だった。
 中学生に関しては、明らかな減少はなかったものの、増加も見られなかった。
 こうしたデータから、国研は「いじめが全国的に増えている可能性は低い。小学生では減っているかもしれない」と推し量る。

認知件数が過去最多を更新しているのは、文科省の方針転換が原因

 一方、同じ10~18年度の文科省の問題行動・不登校調査では、小学生のいじめ認知件数は3万6909件から42万5844件と11倍以上に、中学生は3万3323件から9万7704件と約3倍に増加している。
 今回の分析とは異なる傾向を示していることについて、国研は「文科省の認知件数は教員が把握できた数であり、実際に起きた件数とは異なる」と説明する。その上で、「いじめ対策が進めば、把握できる数は増え、実際の件数が減るというのは起こり得ることであり、矛盾はない」と強調している。
 認知件数が増えてきた背景には、近年の文科省の方針転換がある。いじめがエスカレートする前に対処しようと、アンケート調査などを通じた積極的な掘り起こしを教育委員会や学校に求め、認知件数が多い学校をむしろ「評価」する姿勢を打ち出してきた。2016年3月の通知では、「認知件数に学校間で大きな差がある場合や、認知件数の少ない学校が多い場合、原因を分析し、認知に関する消極姿勢や認知漏れがないかを十分確認の上、正確な件数を計上すること」と呼びかけている。

いじめ認知はまだ改善の余地あり 求められるのは現場のマンパワー

ただ、これだけ認知件数が増えても、学校現場でのいじめの把握はまだ不十分だというのが国研の立場だ。今回の分析でも、「認知件数は現状の数倍まで増えてもおかしくない」と指摘している。
 国研の調査からは、小中学生の約25%(1000人当たり250人)が「仲間外れ」「無視」「陰口」を受けた結果、「嫌なことをされた」と訴えることが推定できるという。これに対し、19年度の問題行動・不登校調査では、小学生のいじめ認知件数は1000人当たり75・8件、中学生は同32・8件にとどまるのだ。
 名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)は「文科省が公表しているいじめ認知件数は、教育委員会や学校現場が努力するほど増えるものであり、実態を反映したものだと考えるのは無理がある」と指摘する。「問題はこの数字を額面どおりに受け取り、『子どもたちは以前よりも悪くなっている』という思い込みで、児童・生徒に対する管理や統制を強める動きがあることだ。いじめは実際には増えていないという分析が出てきた以上、立ち止まって考えるべきではないか」と話す。
 では、いじめ問題の改善に向けて求められている政策は何か。認知の精度を上げようとすれば、定期的な子どもとの面談や教育委員会への報告など教員の仕事は増える。こうしてたくさん把握できるようになると、今度は事実関係を調査したり、解決に向けて指導したりする仕事が増える。つまり、学校現場へのさらなる「人」の配置が欠かせないといえるのではないだろうか。