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教育ジャーナル Vol.12-2

がんばれ! 公立校!!/校長アンケート

この2年間を振り返って、思うことはなんですか?
~コロナ禍での学校経営~

がんばれ! 公立校!!/校長アンケート

この2年間を振り返って、思うことはなんですか?
~コロナ禍での学校経営~

渡辺 研 教育ジャーナリスト

まさか、丸2年も続くとは……。
一時は落ち着いていたものの、今年初めの第6波では、とうとう子供たちにも感染が広がり、休校や学級閉鎖の判断も求められた。
それでも、果たして悪いことばかりだったのだろうか。
ともに困難に向き合う教職員や児童生徒に、あるいは学校の在り方に何か発見はなかったか。
全国の校長先生アンケートから探る。

アンケートの質問は、以下の8問。

Ⅰ 学習指導要領の実施状況

Q1 資質・能力を育むための授業改善。順調に進んでいますか? 授業はどのように変わりましたか? 児童生徒の学び方や態度に変容はありますか? 先生方(授業者)はそこに手応えを感じているようですか?

Q2 小学校の先生に伺います。高学年の外国語の授業で、児童の様子はいかがですか? 先生方は指導力向上のために、どのような研修や勉強会を行っていますか?

Ⅱ 整備されたICTの活用

Q3 授業では、ICTをどのような場面に活用していますか? 児童生徒も教師も使い慣れましたか?

Q4 これから先、ICTを活用してどのような授業をしてほしいですか?

Q5 校務にICTを活用することで、一番楽になった業務はなんですか? 一番必要だと思う機能はなんですか? どの業務の負担が軽減されたらいいと思いますか?

Ⅲ 検討や対応を求められる今日的な課題

Q6-1 小学校の先生に伺います。小学校教科担任制(教科分担制)について、どのようなご意見をおもちですか?

Q6-2 中学校の先生に伺います。部活動指導の外部指導者への委託について、ご意見をおもちですか? 部活動指導は、やはり校内の教職員が行うべきでしょうか?

Ⅳ コロナ禍での苦心の学校経営

Q7 コロナ禍の2年間、苦心の学校経営を強いられたことと思います。この間を振り返って、率直に思うことはどのようなことでしょうか。制限の多い日常生活、行事などが中止・縮小されることに対して児童生徒の向き合い方など、この状況だからこその発見はありましたか?

Q8 コロナ対応(感染防止対策や教育課程の変更)、学習指導要領の実施、ICT環境の急激な整備、働き方改革など、学校経営上の重要課題が一気に押し寄せました。このような状況下、校長として一番学びたいことはなんですか? あるいは、後輩校長へのアドバイスとして、学んでおいたほうがよいことはなんでしょうか。

Ⅰ 学習指導要領の実施状況

 新学習指導要領はコロナ禍での全面実施となった。それでも、さっそくタブレット端末を活用して、対話的な学びを工夫して、授業改善の妨げにはならなかったようだ。

Q1 授業改善の進み具合は? 学習者・授業者の変容は?

手応えを感じつつある

 田村学先生の話(前号インタビュー)によれば、授業改善は滞ってはいないようだ。現場の実感を伺う。

◆校内研究を進める中で教師の指導観の変換を図り、子供一人一人の主体的な学びに焦点をあてた研究を行うことができた。子供たちの90%以上は自ら課題を見いだし、85%以上 の子供が課題解決を進められたとアンケートに回答しており、これまで以上に子供の学びが変容していることを感じている。(小学校)

 “学校全体で、子供も教師も一丸となって”という空気が伝わってくる。

◆授業改善は少しずつ進んでいます。特に授業の目的意識や、評価意識の変容を感じています。単元を通した学習過程――「出合い」「課題の設定」「見通し」「追究」「整理」「分析」「学び合い」「まとめ」「振り返り」などの問題解決的な学びについて大切にすることが浸透してきています。児童の学び方にも「教えられる」受動的な態度から、自ら課題を見つけ、興味・関心に応じて「主体的」に学ぶ児童が増えてきています。経験年数の少ない教員ほど手応えを感じているようです。(小学校)

◆子供の言葉で授業を創ることを大切にしている。研究授業だけではなく、日々の授業を変えていきたいと思っており、少しずつ改善されつつある。「学びの山を登ろう」という学校教育目標の実現に向けて、子供が単元のねらいを知り、ゴールへの道のりを歩んでいく授業づくりに手応えを感じているようだ。(小学校)

 改善の取組による授業の明らかな変化によって、学習者(子供たち)にも「なんのために学ぶのか」「どのように学ぶのか」が身についてきている。

◆授業改善では、はじめの「振り返り」で前時の板書、ノートの振り返り、小テストを行い、前時と本時のつながりを意識してきました。また、ペアやグループによる考え、答え の確認、ノートの交流を通して「対話的な学び」で考えの共有を図る場面を取り入れた。児童は「伝える力」が伸びてきていると思います。授業者はその手応えを少しずつ感じているようです。(小学校)

 授業の進め方がややパターン化していた時期もあったが、今では各学校の個性も出てきた。授業者にも求められる授業づくりが身についてきている。

◆学習指導要領が全面実施となったからといって、大きく変わったことはない。これまでも生徒を主体とした授業を追求していたので、職員も意欲的に授業改善に取り組んでくれている。評価などについては、変更になったことで、多少、生徒にも戸惑いはあったが、しっかりと趣旨は徹底できたと考えている。ただし、検証は必要である。(中学校)

 授業づくりは、学校や教師にとって常に永遠の課題なのだろう。
 これも課題である評価については、こんな回答もいただいた。

◆資質・能力の3つの柱を評価の視点で校内研修を行った。評価を「(子供たちを)このような姿に」と見ていくと、「では、授業ではこう引き出さなければならない」というこ とが見えてきた。1回の研修だけではまだまだ足りないが、授業を改善していかなければ、という意識は高まった。「学びに向かう力・人間性の涵養→主体的に学習に取り組む態度」という視点は、これまでも学校として取り組んできたことではあるが、子供の意欲や、学んだことを生かして問題を解決していく、探究していくという態度は全学年で高まったと感じている。(小学校)

 やるべきことは尽きない。

粘り強く続けていけば

 順調に進行中ではあるが、“主体的・対話的で深い学びの視点による授業づくり”が完成したわけではない。

◆子供が主体の学習に授業改善を進めているが、まだまだ教師主導の授業になっていることが多い。一部の子供には学び方や態度に変容は見られるが、下位層の子供をどのように 指導したらよいのか試行錯誤していて、手応えは感じられていない。(小学校)

◆授業改善の意識はあるが、教員の個人差もあり、なかなか進まないところです。離島であり、児童生徒数が極端に少ないことから、子供同士の学び合う環境を作りだすことに工夫が必要となっています。(小中学校)

 教師が意識を変え、授業のスタイルを模索し、その授業を通して児童生徒が「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」に気づき、実行できる……それがこの授業改善の目指すところだろう。当然、各段階でタイムラグはある。教師に求められるのは粘り強く、我慢して続けること。そうすれば、日々の授業を通して子供たちはきっと変わる。

◆順調に進んでいる面と、そうでない面がある。新しい学習指導要領のもと、資質・能力の育成を目標とした授業デザインは本校が研究活動として取り組んできたこともあり、定 着してきている。一方で、主体的・対話的で深い学びをベースに進めていた授業が、コロナ感染拡大防止のために、対話的な活動が思うようにできない。思考ツールなどを活用して対話的な活動が充実していたので、今回の感染拡大が歯がゆい思いである。(中学校)

 どの学校も同様の事情を抱えたはずだが、次の小見出し以下の回答に打開策が見つかるかもしれない。

◆順調とはいえませんが、少しずつ進んでいます。まず、1年生の担任経験者の授業は改善が図られています。理由は、スタートカリキュラムの実践による指導観の変化があげられます。スタートカリキュラムにより、遊びを通して学ぶことの有意義さや子供一人一人の状況を丁寧に捉え、どの子も思いや願いに向かって主体的に取り組む授業展開が、どれほど子供たちを輝かせるかを実感しています。この経験が、どの学年担任、専科指導になっても生かされています。また、生活科・総合的な学習の時間を核にして、自ら学ぶ子供の育成を校内研究とし、主体的・対話的で深い学びを追究していることも役立っていると思います。
 今後は、これらに加えて、一般学級に配慮を要する子供が増えつつある中、どの子も学習に意欲的に取り組める授業のユニバーサルデザイン化を進めていくことも肝要だと考えています。いずれにせよ、子供たちの生き生きとした姿への変容は、授業改善の手応えを感じるとともに、さらによりよい授業づくりへのエネルギーになっています。(小学校)

 教師がスタカリから学べるものは大きい。

ICT活用が授業改善を支援

 この質問について、実は予期せぬ回答があった。しかも多数。

◆タブレットを活用した授業づくりを進めています。子供たちは興味をもって取り組んでいます。授業者にとっては、まず使い慣れることを大事にし、使い方を工夫している段階 です。手応えを感じるまでには至っていません。(小学校)

◆昨年秋、デジタル端末の児童への貸与があり、慣れることを念頭に授業で積極的に活用。児童も操作に慣れ、楽しんでいる。令和4年度、デジタル教科書、ドリルの活用の試行が始まる。端末の効果的な使い方の検証も合わせて行う。(小学校)

 思えば、予想していなかったことのほうがおかしかった。きっと、もうICTなしの授業づくりはあり得ないのかもしれない。

◆児童一人1台のタブレットが配置されたことにより、情報機器を使う機会が増えた。意欲や主体性に変化が見られるように感じている。欠席時のオンライン学習ができるように なった。(小学校)

 タブレットを使った学習の物珍しさや得られる情報が、子供たちに学ぶことへの興味をもたせている。これは想像できる。さらに、もうすでにここまできている。

◆ICT機器を活用した授業方法の改善は順調に進められた。コロナ陽性者、濃厚接触者、不安で欠席の児童たちにもオンライン配信をし、自宅でも授業を受けられるよう工夫した。 目の前で顔や表情を見ながらの授業が一番大切ではあるが、ICTを活用し、学びの保障をすることも工夫の一つ。教員には様々な準備への苦労はかなりあると思うが、これからの時代に必要なスタイルとして、手応えを感じることができた。(小学校)

◆授業のスタイルが変わった。「オクリンク(授業支援ソフト)」を使うことで、クラス全員の意見を簡単に見られるようになり、友達の意見をひと通り見てから、「質問」「反対」「この意見に納得」というところから話し合いをスタートできるようになった。
 そして、表現の幅が広がった。「スライド」「ジャムボード」「ドキュメント」などを使えるようになったことで、以前であれば画用紙や模造紙で発表していたが、そのときよりも簡単に見やすく、画像なども付けやすくなった。「クラウド」によって協働で作成できるところもグループ学習に適している。(小学校)

 この学校で子供たちは、友達の意見に「賛成」「反対」をハンドサインで意思表示していた。学び方の基本姿勢ができている教室では、ICTは極めて有効な道具になる。

◆日常的にICTが活用され、基本的なスキルも高まっている。ただし、「深い学び」となるような効果的な活用の在り方については模索中である(ウェブ会議ソフトの活用など)。 また、家庭や地域への周知・連携も課題である。(小学校)

 水を差すつもりはないが、スキルの獲得と本来の学びは別物。

◆“児童一人に1台の端末”による変化は大きいです。「楽にやれる」「便利になるツール」は自然と広がっていきました。授業でも、ノートを写真に撮って発表、データを共有して 発表と、どんどん進んでいます。授業者も使い方を完全に身につけています。後は、端末を使って育てる力の自覚と焦点化です。「つながるために」「学び合うために」ICTを使うという目的意識を明確にもちたいものです。(小学校)

 “主体・対話・深い”の授業改善そのものにも、進み具合に学校差はある。そこにもってきて、授業改善にこんな要素も登場してきた。しかも、これもまた求められる方向だ。焦りはあるかもしれないが、取りかかりの初期段階だからこそ、先を急がず、慎重に進めていきたい。

Q2 学校の外国語。子供たち、教師たちの様子は?

子供たちは楽しそうだが

 子供たちは「進んで取り組んでいる」「楽しんで学習している」と楽しそうだ(Q2の回答は全て小学校)。

◆英語(外国語)の勉強を「好き」という児童は77%、「英語で自分の気持ちを伝え合うことができている」は89%。全体的に授業に意欲的に取り組む姿がうかがえた。
 でも当然、「外国語の時間が好きではない児童がいる」のが現実だ。

◆中学校の英語の前倒し感がある。今まで、「外国語活動として楽しめていたのに、中学校に行くと急に英語が嫌いになる」といわれていたのが、小学校高学年で同じようになることが危惧される。

◆英語塾に通う子とそうでない子の温度差が激しい。音声言語学習を大切にすることは当然だが、子供たちにはまだハードルが高いと感じる。中学校との連携も図っておくべき。
 新設教科そのものの課題も見えてきた。

◆教科書があり、必要なツールも設備も備わってきました。だからこそ、外国語でどんな子を育てたいのか、目指す子供像の再確認が必要です。特に外国語の場合は、単元構成から1時間の授業にまで授業者の自覚が試されます。
 本校で指導いただいた教科エキスパートの先生の教えは、若手教員の力量向上に大きく貢献しました。

 教材や指導資料は手厚く用意されている。それでもやはり、結局は教師がどんな授業をするか。この点はスタート前から懸念されていたことで、教師の外国語指導力の向上に各校はどう対応しているのだろう。

担任もAETや専科教員に学ぶ

 日常的に可能なのは「各担任がAETと気兼ねなく打ち合わせをして、とてもよいコンビネーションで授業を進めること」だろう。そこからもう一歩、進める。

◆市小学校英語教育推進コーディネーターと共同で指導案を考え、教材を作成する機会を設定した。また、学級担任と外国語活動支援員の打ち合わせ時間を毎週確保することで、見通しをもった指導がされている。

◆小中連携によりCAN DOリストを作成するなどして学んでいる。市教育委員会からの訪問指導も効果的である。

 中学校にとっても小学校との協力関係は、新入生を迎えるに当たって大いにプラスになることだろう。
 現実的にはそういう対応になるのだが、本来は外国語の新設が決まった時点で、専科教師の配置も並行して準備してほしかった。

◆町教育委員会所属の英語教育指導教員や、英語専科教員に加え、ALTの指導により、児童には意欲的な学習態度が見られる。担任がこうした授業から研修をすることで、指導力の向上につながっている。

◆本校では、英語専科を校内独自で配置しています。それにより、常にAETと細かな打ち合わせや教材作成を行えることで、高学年の子供たちは英語学習に積極的に取り組んでいます。学級担任も英語の授業を参観することで、指導内容と指導方法を学んでいます。

 いい授業には、子供たちも正直に反応するようだ。小学校の“専門性の高い教員による”教科担任制が進められ、教員も増員されている。なるべく早期に、外国語専科の優先配置を期待する。

Ⅱ ICTの活用――授業場面では? 校務場面では?

 想像以上に授業では活用されていた。子供たちに関係することには、教師の意欲はすごい。でも、ICT環境整備は授業だけでなく業務改善も想定されている。

Q3,4 授業での活用――現状と近い将来

活用例が積み重なってきた

【現状】授業での活用はQ1にも登場した。授業改善の重要部分を担ってはいなくても、どの学校でも使われているし、子供も教師もすっかり使い慣れているようだ。

◆まず様々な場面で使ってみる体験を重ねることが、昨年(令和3年)前期の活用の大きな目標でした。特に高学年の朝学習(10分間のドリル学習)では、個に応じて課題を選択して学ぶことができるようになりました。その後、学年に応じて情報収集や自分の考えや資料の交流、まとめのプレゼンテーションなど活用場面が増え、教師以上に児童が使い慣れました。後期はコロナ感染症のため自宅学習となる児童や学級が増え、オンラインでの活用場面が増えました。(小学校)

◆分散登校をきっかけに、一気に使用頻度が上がりました。教師も短期間で校内研修を行い、実践を通してかなり使いこなせるようになりました。あらゆる学年、教科で活用しています。(小学校)

◆言語能力の育成のためのツールとして活用したり、個別最適な学びのために学習履歴などを活用したり、タブレットドリルを取り入れている。校内の情報教育担当のリードのもと、児童も教師も使い慣れてきた。(小学校)

 全学年の活用例(23例)を添付してくださった校長先生(小学校)もおられた。活用の具体例を一覧的に挙げておく。
 意見の共有・交換。ワークシートの配布・提出。資料の提示。ドリル学習。記録用のカメラとして(作品の保存)。ボイスレコーダーとして(英語のスピーチ)。体育学習での動画資料活用。日常的な連絡。オンライン授業。黒板の代わり。プレゼンテーション。考えをまとめる場面。文章の推敲(ドキュメント)。植物の成長の様子を撮影、記録。調べ学習……未知の活用例にチャレンジを!

できなかったことが可能になる

【近い将来】使い慣れ、授業づくりへの効果が実感できると、さらに意欲的になれる。

◆学習の個別化に対応するとともに、協働的な学びにも活用できるようにしてほしい。(小学校)

「意見を交流させる活動」とか「学び合い」とか、表現は違っても、やはり子供個々の考えを共有し、協働的な学びへの活用という回答が多い。広くいえば「主体的・対話的で深い学びにつなげる授業への活用」ということになるのだろうか。
 Q1の回答の状況もきっとこういうことだった。意欲があれば先行事例に追いついていけそうだ。

◆ゲストティーチャーを招いた講演、インタビュー形式の授業。タイの大学の先生に授業に参画してもらった。(中学校)

◆離島のデメリットを補うような使い方。(小中学校)

◆ウェブ会議ソフトを活用した発信・交流活動。(小学校)

 ここ2年、学校の研究発表会はリモートが基本だし、昨年は日本とハワイの小学校同士の児童のオンライン交流も参観した。今年度はさらに多くの学校で実現しているはずだ。

◆特別活動など学校の教育活動全体を通して、児童から活用の提案があり、問題発見・解決能力の育成を目指して効果的に使えるようになってほしい。(小学校)

◆全てのアプリをひと通り授業で使って、児童が「この学習・活動ではこのアプリを使う とよさそう」ということを、自分で選択できるようになってほしい。(小学校)

 これも子供たちに身につけてほしい汎用的な能力だ。
 ただ、“取り扱い注意”でもある。

◆主体的・対話的で深い学びの視点で、必要な場面(感染症対策をしながらの学び合いも含めて)での活用や、児童が主体的に必要に応じて文具のように使えることが望ましいで す。効果的ではない場面ではICTを使うような授業にならない工夫も必要だと感じています。(小学校)

◆あくまでも、授業のねらいを達成するための効果的で有効な道具として活用してもらいたい。使うことが目的になってはいけないと話をしている。(中学校)

 繰り返しになるが、慎重に進んでいきたい。

Q5 校務、業務改善への活用は?

効率化や負担軽減を実感

 教職員自身のためにはどのように活用されているのだろうか。

◆校務の情報化で楽になったことは様々あります。例えば、①出席簿、②連絡票に記載したことが指導要録に反映されること、③学校用グループウェア。①と②は事務量が大幅に削減されました。③は打ち合わせや職員会議などの会議がなくなりました。そして、教材研究や子供たちのための時間が増えました。(小学校)

 会議はなくせなくても、資料作成や印刷・配布の負担が軽減(時間の節約)されたことは、多くの学校が実体験している。業務の改善は教師自身のためであると同時に、教師が何よりも優先する“子供たちのため”でもある。このくらいは積極的に“楽”したい。

◆朝の健康観察のオンライン化で、8時30分には全校児童の出欠状況がわかる。(小学校)

◆アンケートや学校評価の集計作業、保護者への緊急連絡や毎朝の欠席連絡などが大変スムーズになった。(小学校)

 朝の慌ただしさから解放されて、子供たちとの対話をゆったり楽しむことができる。

◆自動採点システムが導入されて、採点の効率化と分析において大変役立った。(中学校)

 何に時間をかけるべきなのか、仕事の優先順位を再認識できるはずだ。
 使い慣れると欲が出てくる。

◆ペーパレス化に近づいてきた。それでも職員会議で教職員が一斉に情報共有できるよう高速化が必要。(小学校)

◆教材アプリを活用して授業に生かすことができたら、教材研究、教材準備がはかどると思う。無料で使える学校教育用アプリがたくさんあるといい。また、学年会計などのシステムがほしい。(小学校)

◆一番必要だと思う機能は、個別最適な学びが実現できるソフトウェアの導入。ドリル的なものと思考力を創造的に発揮できる自由度の高いものがいい。(小学校)

 新たな課題に取り組むには、まさにスクラップ&ビルドが必要。学校が苦手としてきたスクラップを、ICTの活用で実行したい。この機会に業務改善を進めて、教職を持続可能な仕事にしていただかないと困る。

Ⅲ 検討や対応を求められる今日的な課題

 想像以上に授業では活用されていた。子供たちに関係することには、教師の意欲はすごい。でも、ICT環境整備は授業だけでなく業務改善も想定されている。

Q6 ①小学校教科担任制 ②中学校部活動指導の外部委託

いくつものメリットがある

【教科担任制】(回答は全て小学校)
 本誌でも前号で横浜市の事例を紹介した。メリットは大きかった。アンケートでもほとんどが肯定的な意見だった。

◆子供にとっては、その教科の指導を得意とする教員の指導を受けることで、より満足感の高い学びとなる可能性が広がる。教員にとっても、教材研究の効率化が図られることで、 働き方改革の推進に結びつく。複数の教員が指導に携わることで、子供のよさを様々な角度から捉えることがより充実し、学校組織としてのよりよい体制づくりに資する。

◆メリットが大きいと思います。例えば、複数の教員が指導することで、心の悩みのケアや児童の学びの多様化、個別最適化を保障しやすくなると感じています。生徒指導や学習指導のチーム体制が進むことで、より個に応じたきめ細かな学びのサポートが可能になると思います。ただ、児童の情報共有をどのように行うか、指導者の当事者意識が低くならないように工夫が必要でしょう。

 ほかの回答も集約すると、ほぼこうしたメリットが挙げられる。

◆小学校は、担任として一つの学級の人間教育をする観点から考えると、教科担任制は一部の教科のみでよいかと思う。より多くの関わりを通して、自分の学級の個のよさや課題 を把握し、集団として学級全体を指導することが大切である。

 こうした意見もあるが、それでも、“小学校文化”を大きく変える取組にもかかわらず“絶対反対”が出ないのは、もはや現状維持では学校は運営していけないと、現場の先生方が痛感しているからなのだろうか。
 もちろん、注文はある。おそらく一番は人材の確保。

◆人材的にそのようにできない場合があり、人材確保を整備していかなければ、どの学校でも可能にはならないと思う。

◆文部科学省が示す理科、外国語、体育を専門とする人材育成・確保が課題だと思う。

◆教員不足によって、現場はとても苦労しています。教科担任よりもなんでもできる教員のほうが必要です。

 単に専科による授業だけではなく、学年間での授業交換や分担を組み合わせると、チーム体制はより強化され、若手教員の育成にもつながる。

望ましいが、人材確保が難しい

【部活動指導の外部委託】(回答は全て中学校)
 中学校で“時間外勤務”の最大の要因は部活動の指導。授業(学力)とは違う側面から生徒の成長を実感したいという教師の気持ちは理解する。だからといって、“聖域化”してしまっていいわけでもない。

◆部活動を早く地域へ移行すべきと考えている。教職員も、地域の一員として関わるように、必要な条件を整えてもらいたい。

 実現の可能性は度外視して、“ありえない”くらい発想を変えて考えないといけないのかもしれない。

◆部活動のメリットは大いにあるが、教員の時間外勤務の対策として見直しをする必要がある。外部指導者の活用は賛成だが、競技人口の少ないスポーツでは指導者が簡単に確保 できない。部活動を、学校単位から地域単位として活動する形態に改革する必要がある。また、全国大会などはなくすべきと考える。

 チームワークやあきらめずに努力する姿勢は、教師でなくても育てられる。
 全国大会は、アスリートからも否定的な意見が聞こえる。中学生にそこまでのレベルを求めると、どうしても指導者が“やらせる”ことになり、その結果、「燃え尽き症候群」に。これは教育的ではない。
 難しい課題だが、何か糸口を見つけたい。

Ⅳ コロナ禍での苦心の学校経営

Q7 この2年間を振り返って思うこと

職員の努力と熱意に支えられてる

 突然の休校から始まったコロナ禍での学校経営は、苦労や苦心ばかりだったのか。

◆コロナにより人と人とのつながりが弱くなりました。子供たちの人間関係形成能力も低下しています。このことが原因で対人トラブルも増えています。さらには、人と人とがつ ながることを面倒に感じ始めています。行事なども中止選択に進む勢いが強くなっています。(小学校)

 有形無形の“後遺症”は大きいのだろう。でもまだコロナ禍は終わっていない。

◆離島のため、ほかの地区の学校ほどコロナに感染することはなかったが、島の人々の意識が教員に向くことがあり、苦労することが多かった(教員が島外に研修などで出張したり、長期休業中は家族や友人に会うために出島したりすることをよく思わない人もいる)。
 一方、研修などがオンラインで行われることが多くなったため、ほかの地区の学校とのその点での格差は小さくなった。(小中学校)

◆コロナ対応が様々あり、教職員はかなり負担を強いられている。行事などの精選こそ行ってきたが、コロナ対応のための多くの業務があり、疲弊している。これを機に、本当に必要なことを考え、スクラップ&ビルドのスクラップを中心に考えられたことはプラスではあるが、より働き方改革を推進していかねばと、強く思った。(小学校)

◆学校はよく対応してきたと思う。保健所が行うような業務を担い、感染対策を工夫した授業も行ってきた。学校行事の延期・中止の判断や代案で苦労した。生徒は不満も言わずによく我慢したが、生徒のストレスにならないように代案の工夫をした。プラス面は少ないが、教職員の結束力は高まった。(中学校)

「コロナに負けてたまるか!」だ。

◆教育活動は制約を受けましたが、創意工夫を生かして授業を展開でき(オンライン授業、タブレットの活用)、また、行事のスリム化ができました。(小学校)

◆コロナ禍での学校経営においては、状況を受け止め、今できることを考えて取り組むようにしてきました。そのことで、改めて学校の価値を問い直すことができました。子供たちには、行事の実施について、ぎりぎりまでなんとかしようと努力していることを知ってもらうとともに、中止や延期と判断した場合は、その理由と別の形での取組について説明しました。プラスになったのは、職員に新しいことを生み出す創造力が培われたことや、「今までどおり」という考え方がなくなったことなどです。(小学校)

 子供たちがこの状況をしっかり受け止めてくれたことは大きい。

◆いかに学びを止めないか、いかに子供の心の健康を保てるか、いかに経験・体験の機会を確保するか……そのようなことを柱にしてコロナ対応での学校経営をしてきました。子 供の姿を常に見て、子供の将来を見据えてということを職員が共通理解し、知恵を絞りながら学校経営を行ってきましたが、職員の努力と熱意に支えられ、乗りきることのできた2年間でした。将来を見据えれば、今できないことも形を変えればねらいとするところに迫れる教育活動はできると、子供の今と将来をしっかり結びつけて実践してきました。子供の振り返りの言葉を聞くと、その姿勢を貫いてきたことが、前向きに取り組もうとする子供の心と態度につながっていることがわかり、大人の姿勢の大切さを改めて感じています。(小学校)

 大人も子供も、お互いをしっかりと見合ってきていた。

“当たり前”を見つめ直す機会に

 あえてプラス面に目を向けると、共通していたのが「これまでしてきたことの見つめ直し」のきっかけになったことだ。

◆本当に必要なことは何かを考えることができた。(中学校)

◆教育活動を見直すという点から、プラス面が多かった。本当に大切なものが何かを学校全体で確認することができた。(小学校)

 例えば、こんなことだ。

◆学校行事を縮小せざるをえなかったが、逆に無駄が多いことがわかった。特に、学校行事(卒業式、入学式など)の準備に時間をかけ過ぎていたことがわかった。運動会は全日 実施から半日実施に変える機会となった。(小学校)

◆当たり前にやってきたことを見つめ直す機会になった。多様な子供たちを子供だけでまとめる危うさ(交通量の多い学区、狭い道路などの状況を考え、集団登校を個別登校に切り替えた)。アレルギー児童の増加に対応して宿泊行事の泊数、行き先を変更。見栄えのよい行事のために準備の時間をかけてきたところがあったが、限られた時間での準備や通常の授業と関連づけた活動を生かした行事を実施することができた。(小学校)

 保護者も地域も、学校の判断に口出しできる状況になかった。逆の見方をすれば、たとえ悪意はなくても、保護者・地域が行事や活動の見直しを妨げてきたといえなくもない。今後は三者がこの経験を生かしたい。

◆各種教育活動を実施するに当たり、子供の学びや成長のために本当に必要なことはなんなのか、目的や教育的意義を吟味し、実施方法を再検討する機会になった。前例踏襲でな い教育の本質についてチーム学校で考える機会になるとともに、子供にとっても自分事として捉えさせる機会にもなった。保護者や地域に感謝の気持ちを抱かせることにも結びついた。(小学校)

 日本型学校教育には、危うく転びかけても態勢を立て直せる強靭さがあった。

子供の規範意識の高さを見た

 教師の意識は変わったが、“人類の危機”を察して子供たちの意識や態度も変化した。

◆行動で培う態度や味わう自己肯定感や成就感など、発達段階で必要なものがある。そのため、これまでの行事のとおりにはできなくても、工夫しながらできるだけ行ってきた。 子供たちも、できることへの感謝の念をもったり、自ら工夫したりする様子が見られた。(小学校)

◆プラス面も多かったと感じています。教育活動のそもそもの目的について見つめ直す場面が増えたことです。これまで、何も感じずに前年度踏襲や継続していた行事や、手段が目的化していた活動について、削減も含めた必要最小限で何が必要なのか、、教職員や児童と考える場面が多くありました。このことは学校経営にとってスクラップ&ビルドの大きなチャンスであり、学校経営の軸がぶれないように教職員と対話できる機会となりました。学校教育活動を創造的に工夫するための必然的な機会は、児童にとっても主体的に考えて行動しなければならない貴重な機会となったと感じています。(小学校)

 子供とはいえ、大人から一方的に何かをしてもらうだけの存在ではない。それを教師が認識できた。

◆特に第6波での児童の感染、教職員の休みにより大混乱となった。きょうだい関係のある学年では感染を繰り返すなど欠席者が多く、その対応に追われた。また、数多くの学校行事が中止になったことで、これまでそれぞれの発達段階で身につけてきた力が十分につけられていないように思う。一方で、授業に大きな混乱が出ないことは、子供たちのもつ規範意識の高さを見たように思う。また、ICT機器をフル活用した教育活動の工夫がされ、できることが増えた。(小学校)

 そういう子供の姿勢があったから、危機を乗り越えてここまでこられた。

◆率直に思うことは「仕方がない」ということです。ウイルスには勝てません。でも、この状況だからこそ、子供たちにとっては大きな学びがありました。自分と世の中は密接に つながっているという実感です。感染状況に左右された体験は、つながりの強さを学んだ時間です。この体験は必ずや子供の人生にプラスになるはずです。(小学校)

◆コロナ禍にあってもできることを、子供たちとともに考え、工夫することで、できるだけ豊かな教育活動にすることを目指してきた。その結果、子供たちにも柔らかさや、問題を解決する力が育ってきた。(小学校)

 子供のそんな姿がとてもうれしい。つらいだけの2年間ではなかったのかもしれない。

Q8 校長として学びたいこと、学んでおいたほうがよいこと

教職員をどう育てていくか

 ICTが導入されたからといって、学校は、人が人との関わりの中で人を育てる組織。

◆今後の社会で求められる人材(資質・能力)をしっかり理解した上での経営戦略がないと、目先の対応に追われるスケールの小さい学校経営に終わってしまう。(小学校)

◆教育は人なり。令和の日本型学校教育を担う人材育成の在り方について。(小学校)

◆人材育成、働き方改革。教育の基本は教師が児童・生徒に教えることが基本だと考えます。(小学校)

◆本来、学校は人づくりの場ですから、人と人との関わりを大事にしたいと思います。ICTにより弱くならないようにしなければなりません。人と人とがつながるICT教育を目指したいと思っています。(小学校)

 管理職が直接育てる“人”は教職員。

◆管理職は、教職員が学校運営に参画する力や場を設けること。どんな困難があっても、意見を聞いて進めることができる。(小学校)

◆学校がチームとして、危機管理場面でも教職員個々が瞬時に判断し主体的に行動できる「学習する組織」となるための研修。年度初めにおける教職員の目的意識や学校経営方針の確実な共有化のための具体的な経営実践について学ぶ機会。職員会議や校内研修で対話を生み出すワークショップ型研修や会議について学び続けること。(小学校)

◆いかに教員と共通理解を図り、一致団結して課題を乗り越えていくかという経営方法や人心掌握法を学べると、教員との軋轢なく改善が図られるでしょう。(小中学校)

◆「学校の存在意義」をいろいろな角度から学び、教職員への周知、保護者・地域への啓発に活用したい。(中学校)

 子供たちのためにこうありたいとも願う。

◆①学びの本質を見失わないこと。学び手である子供の視点に立った教育活動の大切さ。②子供の内なる声を聞く教師の感性を磨くこと。③チーム学校で取り組む学校経営。④教 育行政と現場が連携して推し進める働き方改革。(小学校)

◆特別なことではありませんが、どんなときも、子供たちのためにどうあるべきかという軸をぶらさず、校長として判断することを大事にしています。(小学校)

◆変化の激しいこれからを生き抜く力をつける教育課程。向上心と意欲を高める指導。判断力を高める指導。(小学校)

◆とにかく教室へ。児童のもとに足を運び、そこで起こっている出来事(成長も課題も)を共に感じ、担任などに声を掛けたいと思っている。そして、カリキュラム・マネジメントにより全体を見て、他校の優れた実践に学ぶことを続けたい。(小学校)

 日々、小さなことの積み重ねが、やがて大きな力となっていく。

校長が“学び続ける人”であれば

 児童・生徒、教職員、保護者や地域の人たち……校長が担う責任は無数の人々に及んでいく。だからこそ、自分磨きもしたい。

◆メンタルヘルスの強化。レジリエンス(速やかに立ち直る力)。コーチングスキル。(小学校)

◆どのような状況でも、価値ある教育活動を創造できるポジティブな姿勢、スタンス、発想の柔軟性。(小学校)

 校内の人材育成に加え、学校を取り巻くのは未知の課題だらけ。コロナがそうであったように、直接は学校の課題ではなくても、家庭、子供を通して学校に持ち込まれ、その対応にも責任をもたなければならない。

◆このような(コロナ対策など)時代の要請や課題は今後も続きます。少子化があり、過疎化、貧困化、温暖化など、いくらでも起こりえるものです。その中で目の前の子供たち に実際の教育活動を実施するためには、校長の実感が大事です。本音でそれがやれるのかと、自分が納得できるかが大事です。(小学校)

 本当にメンタルタフネス、レジリエンスを身につけなければならない。
 でも、独りで戦うのではない。

◆全てについて、校長が先頭に立って学び続けることが大切だと考えている。(中学校)

 その姿を見て、教師たちが、子供たちが、共感してくれれば、一緒に困難を乗り越えていける。そして、力を合わせたからこその喜びを見いだせることだろう。それは校長先生ご自身が誰よりもよくわかっておられるはずだ。率先して学び続けるリーダーの姿を、教師たちに、子供たちに、保護者や地域の人たちにも示していただきたい。