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教育ジャーナル Vol.13-2

霞が関発! NEWS FLASH

「こども家庭庁」設置関連法が可決
~財源確保が課題~

霞が関発! NEWS FLASH

「こども家庭庁」設置関連法が可決
~財源確保が課題~

毎日新聞社 深津 誠

設置に向け、動きが加速

 子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」設置関連法が6月15日、参院本会議で可決、成立した。「こどもまんなか社会」を掲げる岸田文雄首相の看板政策。内閣府の外局に同庁を新設して、主に厚生労働省の子ども関係部署を移し、子ども政策の一元化を図るねらいだ。
 ただ、財源の確保はこれからで、子ども・教育関連の予算がどの程度増額されるのか、幼児教育やいじめ、不登校などの対応を引き続き担当する文部科学省との連携がうまくいくかなど、課題は残っている。
 同法の成立を受け、同17日には設立準備室が発足し、2023年4月の設置に向けて動きが加速する。同庁は、専任閣僚と長官を置き、約300人規模の組織になる見込みで、子どもの貧困や少子化対策、児童虐待といった課題に取り組む。幼児教育を担う保育所(厚労省所管)と幼稚園(文科省所管)の施策を統合する「幼保一元化」は長年の懸案で、今回も調整はつかずに見送られた。
 他の省庁に是正や説明を求めることができる「勧告権」を同庁に与えることで、「縦割り」の解消を図るとしている。
 いじめや不登校についても両省庁が連携して取り組む。これまで教育委員会や学校が行ういじめ調査は、学校側に都合のよい人選がされているのではないかと保護者や被害児童・生徒に疑念を生み、双方の関係が悪化するケースが相次いだ。同庁のカウンターパートとなる地方自治体の担当部署は、首長部局に設けられるとみられ、教委とは独立していじめ対応が可能になると期待される。

先行事例はあるものの

 参考になる先行事例はある。大阪府寝屋川市では、市長部局に19年、弁護士やケースワーカーの経験がある職員らで「監察課」を設置。21年度はいじめの相談が127件寄せられた。学校に直接出向いて被害者への聞き取りや加害者の指導に当たるなどし、すべての事案が1か月以内に解決に至るなど成果をあげている。担当者は、「学校で相談できない子どもが頼れる窓口がこれまではなかった。第三者的に対応できるメリットがあることが『127件』の数字に現れている」と意義を強調する。通常業務の多忙さゆえ、十分ないじめ対応が難しかった教員側にテコ入れした自治体もある。いじめを受けた市立中学校2年生の生徒が11年に自殺した大津市は、13年度から市立小中学校全55校に、学級担任をもたないいじめ対策担当教員を計約70人配置した。その結果、「いじめ疑い」と把握した件数は21年度、設置前(12年度)の20倍超の約8500件になり、早期の対応ができるようになった。22年度は市の予算で2億5700万円を計上。
 両市の事例は、市長の政治判断や過去の重大事案からの教訓を受けて、「ヒト」と「カネ」の両面にテコ入れした形だ。こうした取組を後押しする予算取りができるかに政権の本気度が現れそうだ。しかし、本丸の財源に関する議論は低調だ。岸田首相は子ども関連予算を倍増させる政府目標を掲げ、国会審議では「来年の『骨太の方針』(経済財政運営と改革の基本方針)に、道筋を明確に示す」と宣言したが、具体像を示せていない。参院選を前に「負担増の議論を警戒した」とみる専門家もいる。

日本社会での大きな一歩に

 そもそも、日本は子育てや教育にかける予算が世界的にみると低い。出産や育児、保育といった子育て世帯向けの支出は19年度で国内総生産(GDP)比1.73%にとどまり、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均よりも低い。教育費がGDPに占める割合もOECD平均が4.9%なのに対し、日本は4.0%で、下位25%に位置し、子どもへの予算は後回しにされている。財源が確保されなければ、組織の看板をつけ替えに終わったと言われかねない。
 ただ、同時に成立した「こども基本法」では、1994年に日本が批准した国連の「子どもの権利条約」にもとづき、すべての子どもが個人として尊重され、基本的人権が保障されること、意見を表明する機会が確保されることなどが基本理念に掲げられた。子どもが大人の言うことに従う対象ではなく、意見の尊重や最善の利益が優先される存在として明記されたのは大きな一歩だ。
 公益財団法人が3月、全国の小中高校などの教員を対象にオンラインで実施したアンケートでは、「子どもの権利を知っていますか」という質問に「まったく知らない」(5.6%)と「名前だけ知っている」(24.4%)と答えた割合は合わせて約3割に達した。同法は、理念法ではあるものの、ブラック校則や部活動での指導と称した暴力など、これまで軽視されてきた問題で対応を求める根拠になる。専門家は「子どもの権利が認識さえされてこなかった日本社会で、ゼロがイチになる意味で画期的」と評価している。