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教育ジャーナル Vol.14-4
職員室改造計画19
教師、学校が“自分事”として取り組めば、
成果は少しずつ見えてくる
静岡県「学校における業務改革プラン」が示す視点と実践より
職員室改造計画19
教師、学校が“自分事”として取り組めば、
成果は少しずつ見えてくる
静岡県「学校における業務改革プラン」が示す視点と実践より
渡辺 研 教育ジャーナリスト
ICT活用により会議資料の印刷、情報共有の手間を省く……といった取組では、とうてい解決できる課題ではない。だからといって、教師自身が何もしないわけにはいかない。
2016年度以来、段階を踏みながら継続されている取組には重要な視点がいくつも含まれ、成果も実感されている。全国の学校にも拡散したい。
ビルド&ビルド&ビルド…
「新学習指導要領が全面実施」というタイミング(2020~22年度)でいきなり示された個別最適な学び・協働的な学び(「令和の日本型学校教育」。21年)。コロナ禍によってあっという間にICT環境が整備されたとたん、教育DX(デジタルトランスフォーメーション)が登場(教育のデジタル化の推進)。
どれもが重要なことであっても、現実の問題として、教師の業務がどんどん増えていく。“それでも”なのか、“だからこそ”なのか、新たな課題に対応するには“業務改善”を進め続けなければならない。
19年の中教審答申(持続可能な~働き方~)では「教師の働き方はスクラップ&ビルドを原則として」とうたわれたが、それから数年ですでにビルド&ビルドの様相だ。
06年及び16年の勤務実態調査で、“自分たちの働き方”を目の当たりにして以来、学校や教育委員会では多忙化解消、負担感軽減、業務改善……と、地道に取り組んできた。しかし、一時的に改善されても、“日本型学校教育を担う”教師が、しっかりと本務に取り組める状況にはなっていない。
それでも、あきらめるわけにはいかない。まだ、できることがあるかもしれない。
日常業務の“見える化”
静岡県の取組は、(義務教育課・未来の学校「夢」プロジェクト。16~18年度)とモデル校・富士市立富士見台小学校で実践。静岡県の取組はその後も「学校における業務改革プラン」(19~21年度)、同(22年度~)と継続されてきており、以前教育ジャーナルで取り上げた。今回の記事はその“続編”。
最初の取材時、目を見張ったのが学校における校務一覧表。年間を通して教師が学校内外で日常的に行っている業務を網羅したものだ。その数は100を超える(中教審の答申でも業務の仕分けにふれていたが、そこにあがった業務は14例)。モデル校ではこれら業務の「やめる・へらす・かえる」に取り組んできた。この業務の“見える化”は、文字どおり極めて重要な視点だと思ってきた。
こんなことも含めて、改めて最新の取組を取りあげる。なお、現在の業務改革プランを担当するのは教育DX推進課(22年度新設)。時間は思う以上の速さで進んでいる。なぜこの部署が担当するのかは、現在の取組を紹介するときに説明する。
静岡県の取組は、「夢」プロジェクト等以来の成果や課題を踏まえながら現在の業務改革プランに至っており、そこには、この課題に向き合うための重要な視点がいくつも含まれている。成果が確認されて、すでに多くの学校で実施されている取組もある。まず、21年度までの取組を振り返ってみる。お話は教育DX推進課・大澤篤課長、担当者の方々及び義務教育課の担当者の方々に伺った。
やめる・へらす・かえる
【未来の学校「夢」プロジェクト】(16~18年度。義務教育課)
「夢」プロジェクト(以下、夢プロ)では、どんな取組が有効なのかを探るため(調査研究)、県内4校(小・中各2校)をモデル校に指定して、次のことに取り組んだ。
取組は、4校共通に実施する共通実施事項と、各学校・地域の実情に応じて実施する個別実施事項とを設定。共通実施事項は、①校務の洗い出し・分類と整理、②勤務時間の管理、③人的措置の活用状況の分析、④その他(教職員の勤務環境について、保護者・地域の理解と協力を得るなど)。内容を簡単に説明しておく。どれも重要な視点だ。
①は、4校で校務の洗い出しを行い、夢プロの事務局(当時)で仕事の内容別に分類・整理した。分類は「管理運営に関する業務」「指導に関する業務」「校内・校外行事」の3つ。そこからさらに、例えば指導なら、教務、学習、生徒、特別支援、進路などに細かく分かれる。その総数が107項目にも上る。なんとも衝撃的な“業務の見える化”だ。
その上で、分類・整理には「個々の業務に必要とされる時間(3段階)」と「教員以外に当該業務を分担しうる主体(事務職員、業務アシスタント、保護者、地域)」という観点を設けた。教師でなくてもできる仕事を、教師たちは日々こなしてきていたことが、明らかにされた。これをどう“やめる・へらす・かえる”か。
②は、退勤時刻に上限を設定して勤務時間を把握した。ICカードによって出退勤時間を管理、設定時刻以降の学校への電話は自動的に教育委員会に転送される機能(ボイスワープ)などを設定した。教職員にタイムマネジメント意識をもたせるねらいもある。
③は、モデル校に加配教員、スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)を重点配置、17年度からは業務アシスタントも配置された。こうした人材をどう活用すれば有効なのかを検証した。
富士見台小学校ではこのほか、取組当初から教職大学院、民間のコンサルティング会社との連携も実施、加えて地域ボランティアが教師の業務支援にかかわった(支援を円滑に進めるため地域コーディネーターも配置)。これくらい徹底して人的資源を投入して、ようやく負担感の軽減や業務の改善が実感できるのかもしれない。
④では、PTAと連携して保護者の視点から校務の洗い出しを行った学校もあった。もはや学校だけで解決できる課題ではない。ある意味では保護者も一方の当事者であり、こうした形で教育現場の実情を理解し、協力を得ることは大切だ。
3年間、こんな実践研究に取り組んだ。
業務アシスタント(SSS)誕生
細部の話になるが、どんな取組に効果があったのか、富士見台小学校の取材時点(取組が1年半経過した17年10月)での先生方の実感として、箇条書き的に紹介しておく。
●モデル校として取り組むに当たっては業務改善の部会を置いたのだが、新設ではなく既存の特活部の中に位置づけ、会議も従来の特活部の会議(月1回)の中で時間をシェアして実施。業務を減らすために別の業務を増やしたのでは、取組の趣旨に反する。この課題にはこんな視点で臨まなければならない。
●水曜日を4時間授業として、児童の下校時間を13時半にした。減らした1時間は、月~木曜日朝の15分学習で補う。1日の時程の見直しは、放課後に余裕を生む。
●人的資源の活用では、地域人材の活用にも重点を置いた。「教師の業務支援(校務の見直しの一環)」をねらいとしたボランティア募集だったにもかかわらず、80名ほどの登録があった。当然、「やめる・へらす・かえる」も実感できた。
●コロナ禍の現在は思うに任せないところもあるが、学校が「助けてください」と声をあげれば、こうして応えてくれる人たちがいる。ふだんから地域との良好な関係を築いておくことは大切だ。
●ボランティアと学校をつなぐのがコーディネーター(2名。1名は加配の臨時事務職員でもう1名は地域の人)。2名とも元教師で、さまざまな事情を理解した上で活動の調整を行った。この立場に人は不可欠。
もう一つの大きな使命が業務アシスタントの活用。具体的にどんな仕事を代わってもらったかは省略するが、最終的には、なくてはならない存在になっていた。
教職員の時間に対する意識改革のためには、細かな工夫を凝らした。カエルボードの活用(退勤時刻を自己申告する)、留守番電話の設定(18時以降)、会議におけるタイムテーブルの設定、カエルミュージックを流す(16時半、18時、19時)など。
自己申告した時刻の達成率は、1年目は41%だったが、取材の時点では90%前後。教職員個々が個人の事情(生活)に合わせた時間管理になるので、全員一律の定時退勤日を設けるよりも有効だろう。数値の変化を目にすると、「もっと何かできるのではないか」と意気があがったのだそうだ。また、“時間に縛られる”という圧迫感をなくすためにみんなが“楽しく取り組んだ”ことも、効果を上げた一因だ。意外に大切な視点だ。
夢プロ(調査研究)の結果、業務改善への有効性が認識された業務アシスタント(→スクール・サポート・スタッフ=SSS)は、全国に先駆けて県内全校に配置された。留守番電話の設置も、ほぼ一般化している。
教職員個々の主体的な取組
夢プロなど(同時期に高校教育課では「学校運営支援員」モデル校事業、特別支援教育課では「チーム学校」推進研究事業を実施)の結果を踏まえて、静岡県の取組は次の段階に進む。もちろんここからは、モデル校ではなく全県の学校での実践に展開していく。
なお、18年の文部科学事務次官通知により、このプランは県立学校が主な対象者になるが、引き続き市町立学校の業務改善も後押ししている。この記事でも小・中学校に関係する取組を取りあげる。
【学校における業務改革プラン―教育の質の向上と教職員の心身の健康の保持増進を目指して】(19~21年度。教育政策課)
業務改善の推進に向けて、次の項目が取組の柱にされた。
1 教職員個々の主体的な取組の推進
2 学校における組織的改善の推進
(1)人的資源の配置・活用
(2)校務の分類・整理と見直し
(3)教職員の働き方の見直し
(4)効率的・効果的な部活動の実現
(5)地域・家庭、関連機関等との連携・協働
3 教育委員会による学校の業務改善に向けた取組の推進
「教職員個々の取組」ではなく、あえて“主体的な”とされている。言いかえると「自分事として取り組もう」ということだろう。「仕事に優先順位をつけて、効率的に片づけよう」「ここは、それほどこだわる必要はない」「少しは自分の時間も大切にしよう」――まずは、教師自身がそういう視点をもたなければ、業務の改善は進まない。
この業務改革プランでは目標を以下のように数値化した(指標を設定)。一部、紹介しておく(カッコ内は17年度の数値)。
〈目指す姿〉自身の仕事にやりがいを感じている教員の割合=100%(小94%)/「児童生徒と向き合う時間」や「指導準備時間」が増えていると感じている教員の割合=100%(小31%、中40%、高27%、特支42%)
やりがいだけでは教師本来の仕事が十分には果たせないことを、数値は語っている。
〈活動指標〉割り振られた勤務時間以外に業務に従事した時間が月当たり80時間を超える教員の割合=0%(小16%、中62%)/多忙化解消に向けた研究成果を活用した学校の割合(校務分類整理表に基づく校務の削減等)=100%(小50%、中43%)/校内で業務改善に関して協議する場を設置している学校の割合=100%(新規)
まだ改善できる余地がある。教師個々の主体的な取組も含めて、それぞれ具体的にどのようなことが実践されたのか。
可能な限り、人を配置
◆1 教職員個々の主体的な取組の推進
学校にはこう呼びかけられた。
〈学校の業務改善の推進に向けては、教職員が自身のキャリア全体を見据えた上で、業務改善に関する目標を設定し、『自分ごと』として主体的に取り組んでいきましょう。取組を進めるに当たっては、教職員の提言等について、校内で管理職と協議する場を設けるなど、業務改善の目的等を含め、教職員が主体的に議論し、納得した上で進めていきましょう。〉
議論の観点が次のように示された(一部)。
●業務改善の目的を考えてみましょう。例えば自身のキャリア全体の中で、自己研鑽等の時間を生み出す業務改善には、どのような意味があるでしょうか。
●業務改善は「教育の質の向上」や「教職員の心身の健康の保持増進」とどのような関係があるでしょうか。
●学校の業務で削減や縮小するもの、ICTを活用して効率化できるものは何でしょうか。
校内で業務改善について意見を交わし合ううちに、課題が“自分事”になっていく。
◆2-(1)人的資源の配置・活用
人を増やして業務を分担すれば、負担は軽くなる。解決策はシンプルなのだが、現実はそう容易ではない。それでもこの取組では可能な限り人を配置し、現場も効果を実感できた。具体的にはこんな人的資源だ。
●生徒指導上の諸問題に対応するため、SCやSSWによる全市町支援体制の整備・充実。高校、特支は拠点校配置。
●SSSを全小中学校に配置。これにより、教員一人当たりの時間外勤務を週45分削減。また、特支にはコロナ対応対策業務スタッフを配置。
●ICT支援員、部活動支援の外部指導者、スクールロイヤーなど外部の専門人材との連携・協働による教員業務の適正化に取り組む。
●小中学校の学校事務において、20年より全市町に共同学校事務室を設置し、学校事務の効率化と人材育成強化を図っている。
学校事務については、22年度から新たな視点による取組が始まっている。
ワーキンググループの取組
◆2‐(2)校務の分類・整理と見直し
各学校では「教職員個々の業務改善提案の実現と普及・浸透」「学校行事や職員会議、校内研修等の精選・見直し」「家庭・地域やPTA等との役割分担を見据えた校務の分類・整理」「ICTを有効活用した授業改善と校務の効率化」などに取り組んだ。コロナ対応により、結果的に大きく進んだものもある(行事・会議の見直しやICT活用)。また、県教育委員会が実施する調査・照会の廃止や見直しも行われている。
日常的に行うものに加えて、ユニークな取組が実施された。
業務改革のいっそうの推進を図るため、学校と教育委員会が一体となって取り組む「学校の働き方改革推進プロジェクト」を立ち上げた(20年度~)。小中、高、特支、県立学校事務の4区分ごとにワーキンググループ(WG)を置き、各区分内の全校に共通する課題を設定して、下記の課題に取り組んだ。
〇学校と教育委員会が一体となったプロジェクト体制の下、各校種ごとの重点課題を抽出
〇中堅・若手教職員のボトムアップによる新しいワークスタイルの検討
〇大学や民間との連携、ICT活用を重点とした業務改善の推進
小中学校WGの取組は、県内全市町(政令市を除く)から各1校の「働き方改革推進校」を指定、その学校から各1名の「業務改善『夢』コーディネーター」を各市町の代表として選出し、各所属における業務改善を実践するというもの(業務改善「夢」コーディネーターによる新しい学校の働き方改革)。学校をあげて自分事として取り組んだことで夢プロジェクトは成果を上げた。これを全県に広げようというものだ(義務教育課が担当)。
夢コーディネーターの活動は、実際に推進校で話を伺い、制度の仕組みとともに次号(第15号)で紹介する。当事者の視点がどう生かされるのか、期待は大きい。
教職員人材バンクを稼働
◆2‐(3)教職員の働き方の見直し
「管理職のマネジメントによる業務量の平準化と時間外業務の縮減」「定時退勤日・定時退勤月間等の設定・拡充」「長期休業中の休暇取得促進」「校務の持ち帰りの廃止に向けた環境の整備」「教職員の健康の保持増進と快適な職場環境の実現」「育児プランシートの活用による出産・育児関連休暇の周知と取得促進」などに取り組んだ。19~20年でメンタルヘルス研修を延べ約4000人が受講した。
◆2‐(4)効率的・効果的な部活動の実現
18年に「静岡県部活動ガイドライン」を策定し、部活動の意義や適切な活動時間・休養日の設定などを示した。
専門的な知識・技能をもち、練習や大会での単独指導・単独引率が可能な「部活動指導員」を、20年には高校に30人、中学校に42人配置。
部活動の地域移行に関して試行的な取組を行っている市もある。可能性はあるが、課題も出てきているそうだ。まだまだ議論を重ねる必要がある課題だ。
◆2‐(5)地域・家庭、関係機関等との連携・協働
校務を分類・整理して、「これは教師の本来の仕事ではない」と分類した業務を、ではどうやって教職員の手元から離すのか。有償のSSSの配置にも限りがある。
期待されるのがコミュニティ・スクール(CS)だ。静岡県ではCSはまだ半分ほどの市町にしかなく、導入を促進している。ただ、コロナ禍により、協力体制が思うように整えられていないのが、全国的な実情ではある。
全国連合小学校長会と全日本中学校長会の会長インタビュー(記事:今、学校教育の課題はなんですか?学校ができることはどんなことですか?参照)では小・中学校とも最大の課題に「教員不足」が挙げられていたが、静岡県では21年度より「教職員人材バンク」を稼働させている。主な職種は教員(臨時的任用職員・非常勤講師を含む)、教員免許を必要としない職(小中事務、学習支援員など)、生涯学習分野。希望する人に登録してもらうシステムだ。22年6月時点で小・中学校のマッチング件数は31件。マッチング増加に向けて、登録者拡大に取り組んでいる(県民だよりや広報媒体Eジャーナルなどによる広報、採用試験受験者への登録依頼など)。
登録者を増やすには、業務改善を推し進め、学校を不安のない、魅力ある職場にしていかなければならない。
◆3 教育委員会による学校の業務改善に向けた取組の推進
これまで挙げてきた学校における取組への人材の配置や好事例の普及、研修などのサポートを行ってきている。
“残業時間”はずいぶん減少
こうして取組を継続し、成果の手応えを得ながら、22年度からは次の段階に進んだ。ここまでの取組の成果(前プランで設けた指標の達成率)を挙げておく(17年→20年)。
●児童生徒と向き合う時間等の増加の実感=小31%→54%、中40%→60% ●月80時間超の時間外在校等時間=小16%→3%、中62%→15%(20年は教育活動や部活動に休止・縮小など大きく制限がかかっていた。コロナ禍前の19年は小6%・中26%、教育活動等が少し復活した21年は小5%・中20%で、成果は見える)
●多忙化解消の研究成果の活用(学校)=小50%→92%、中43%→89%
他校の好事例を取り入れ、意識して取り組めば、ちゃんと成果は実感できる。学校は、子どもにも教師にも、努力が報われる場所であるはずだ。
【学校における業務改革プラン―教育の質の向上と教職員の心身の健康の保持増進を目指して】(22~25年度。教育DX推進課)
新たなスタートに当たっては、全体の構成はこれまでのプランが踏襲されている。具体的な5本の取組の柱も同じ。ただ今後は、取組状況などを踏まえて更新される。
重点取組に追加されたのは「教職員人材バンク」の学校での活用促進、校内事務や保護者連絡等の校務のICT化の推進、新たに導入する健康管理システムの効果的な活用など。なかなか人を増やせない上に、欠員を抱えたままでは業務改善どころではない。人材バンクが有効に機能するか、注目したい。
また、せっかく校務を整理したのだから、“機械(ICT)でもできる業務”は機械に任せてしまう。効率はもちろん、人間よりも機械のほうがミスしない業務もある。「やっぱり自分で……」とこだわらず、割りきる。SSS導入時には“他人にものを頼む”ことに遠慮があったようだが、機械に遠慮は無用だ。
引き続き地道な取組を重ねる
もう一つ、新たに加えられたのが「重点取組を下支えする3つの施策」だ。
■重点取組を下支えする3つの施策~ICT化の推進/業務改善への行動変容・横展開/実効性を高める組織体制
具体的にはどんな取組が行われるのか、少しずつ説明を加えておく。
〇ICT化の推進=単なる授業改善や校務効率化へのICTの活用にとどまらない。「デジタル技術を活用して、学習、働き方、学校運営を効率化・高度化させ、県下全体の変革を促進させる『スクールDX』を推進していく」としている。
DXは、単にアナログをデジタルに置きかえることではない。トランスフォーメーションとは変身、つまり形態や外観が変わることだ。この話は、記事の最後に取りあげる。
〇行動変容・横展開=モデル校や先進校の取組が広く共有されるように、教育委員会では情報共有・発信の仕組みを整備していく(教育広報紙Eジャーナルのデジタル版は県のホームページで見ることができる)。
〇組織体制=教育DX推進課を中心に、ICTを最大限に活用し、学習指導や校務、働き方の改革を一体的に推進する。
「16年度以降、世間的にも業務改善の必要性が認知され、取組も進んできたことで、長時間勤務の実態や学校の組織的な取組には改善が見られてきました。でも、まだ目標は達成していません。特効薬がない課題なので、引き続き現場レベルでの地道な取組、重層的な取組を積み重ねていくというのが、本プランの基本的な考え方になります。一人ひとりの教職員、学校組織、教育委員会、それぞれの役割に応じて着実に取り組んでいこうということで、やってきているところです。今年度、教育DX推進課という部署が新設されましたので、義務教育課、高校教育課、特別支援教育課がこれまで積み上げてきた取組に参画し、好事例を共有する取組をしていきます」(DX企画班・大杉昭吾主査)
あきらめずに改善の努力を続ければ、“変身”が実現するかもしれない。その兆しがうっすらと見えてきているようにも思う。
課題を俯瞰する形で取り組む
取組の成果は中間報告等を待つことにして、重要な取組、視点について伺った話をまとめる。なお、部活動についてはここではふれない。
まず、なぜ教育DX課が業務改革プランを引き継いだのか。
「今まで個々にワーキング(取組)があって、その活動を継続しながら、そこに例えば、ICTを活用することを前提にして考えると、仕事の仕方そのものも変えていかなくてはならない。つまり、DだけでなくX、トランスフォーメーションしていかなければならないという中で、課題を俯瞰する形で取組を進めるために、教育DX推進課が設置されたという認識でいます」(大澤課長)
業務の「やめる・へらす・かえる」については、こんな話をされた。
「ICTを入れることで、減らせる業務もあります。でも、全部ではない。先生でなくてもできる業務は事務職にいくのか地域にいくのか、いろいろな考え方がありますが、では受け手として、地域のボランティアや事務職に人がたくさんいるかといえば、現実にはそうではない。そうなると事務の仕事も含めて、ICT、外注、集約化など、そういうことをセットで考えていかないといけません」
校務を整理した、本来は教師がやるべき仕事ではない業務もわかった、では、誰がその業務を教師に代わって引き受けるのか。本当は、人を増やすか、または業務の全体量を減らしていかなければならない。でもここ20年、人は劇的には増えず、業務は“減ったら(それ以上に)増える”の繰り返しだ。
「ICTやそれ以外の手法を含めて、いろいろ考えていかなければならないと思っています」
大澤課長や大杉主査は行政畑の人だ。個々の取組を進めてきている義務教育課や高校教育課や特別支援教育課は、きっと学校籍の方がメインだろう。「学校における業務改革」を見る視点も、行政畑と学校籍の人たちとでは異なり、その上、DXという視点も加わる。多様な視点で推進されるこの業務改革プランは、もしかすると、思わぬ展開を見せてくれるかもしれない。
本来、学校はどうあるべきか
大澤課長のお話にあった“事務の仕事(学校事務)”について、今年度から取組が始まっているが、今回は考え方だけ紹介しておく。
「義務教育課としては、最終的には学校組織の在り方まで踏み込んでいきたいと思っています。『夢プロジェクト』の立ちあげのとき、未来の学校はこうあるべきだということを探りたいと思い、このネーミングにしました。業務改善とか意識改革はプロセスに過ぎなくて、決定打は学校組織をどう改編していくか。そこにつながっていかないと小手先だけのものでは、いつまでも歩みが緩いのです」(義務教育課・大根富木人事監)
取組は「教員の子供と向き合う時間の拡充及び学校事務再編のための研究指定校の取組(3年計画)」という。「学校事務のさらなる業務改善(スリム化やスクラップ等)を図りつつ、教員等の業務を学校事務職員へ可能な限り移管し、教職員の働き方改革を進めるとともに、学校事務職員が学校経営の重要なスタッフとして校長の学校経営を補佐できる体制づくり(学校事務職員の標準的職務の改定)を目指していきたい」というねらいだ。まず2校で研究を始めている。
「学校の教員が一番苦手としている学校事務を、研究校で“これは誰がやるのか”ということを試行してもらっています。教員がやっている業務を学校事務職員に移管し、そこから可能な業務を共同学校事務室に移管する。そんなふうにスライドさせて教員などの業務を減らし、“本来、教師がやらなければならない仕事はこうだよね”というものを見ていきたいのです」
「標準的職務の改定」は、「事務職には職階があって、この職務は主事ならできる、主査からできるとか、職階ごとに職務を規定していきたいと思っています」
こうしたことを進めながら、教頭や教務主任の手にも本来の仕事を取り戻す。
「本来、教頭の仕事は職員育成ですよ。職員指導、職員の育成に力点を置かなければいけないのに、教頭は授業を見て回ることもできず、PCとにらめっこしている。そういった職務全体を変えたい。研究にはDX課も入ってもらって、“これはなくしたほうがいい”、“ここはもっと簡略化できる”というものを出してもらっています。合理化を図りつつ、最終的には〝学校はこうあるべきだよね〟というものを打ち出していきたいです」
それこそが「未来の学校」か。トランスフォーメーションが切実に求められている。
話を大澤課長に戻す。
「今までは、“それがあること”を前提として、“どうすればいいか”と考えてきました。でも、やめても困らなければやめてもいいし、もっと楽にやれる方法があればそれに変えてもいい。5分、10分の余裕を捻出するため、地道に続けてきた業務改善はとても大事です。それを続けつつ、最終的にはどうありたいのかといったことを考えながら改革を進めていかないといけないと思います。“学校が変わったね”という実感は大事です。それを見える形にすることが必要であり、関係部署と連携をとりながら、そこに向けてアプローチしていきたい」
教師の本務が1日8時間の中に収まる、せいぜい月45時間以内の時間外勤務で収まる、そういう学校の姿を、イメージ図だけでも見せてもらえれば、実現に向けて希望をもってみんなで頑張ることができる。それまでは、生活とのバランスが取れて納得のいく仕事ができていると実感できるよう、地道な努力を続けたい。