学研 学校教育ネット

教育ジャーナル

バックナンバー

学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。

教育ジャーナル Vol.20-1

■全国学力・学習状況調査

連自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。
── 令和5年度全国学力・学習状況調査より 第1回

■全国学力・学習状況調査

自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。

── 令和5年度全国学力・学習状況調査より

第1回(全4回)

調査結果を見るとき、平均正答率や授業改善の進捗状況以上に気になるのが、「対象児童生徒数」だ。
小学生を見ると、2023 年度は1,039,445 人。平成ラストの2019 年度は1,081,861 人。
調査が始まった2007 年度は(実施数。私立は全校ではない)1,139,492 人。15 年間で10 万人も減ってしまった。
そして、2022 年に生まれた子どもの数(出生数)は770,747 人(厚生労働省・人口動態調査)。
年度で区切ると少し違う数値にはなるが、12 年後にこの調査に参加する小学校6 年生は、約27 万人も少なくなる。
さらに今年度の学校基本調査によれば、2022 年度から23 年度にかけて公立小、中学校252 校が姿を消したとか(統廃合)。
この先、学校や世の中はどうなっていくのか。
とにかく、今、目の前の子どもたちをしっかり育てなければならない。
全4回の第1回はコロナと英語について読み解く。
※数値は基本的に小数点以下を四捨五入。「そう思う」を肯定の回答、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」を肯定的回答とする。今回は、基本的に肯定的回答の数値を使用した。また、Ⅰ~Ⅲは国・公・私立校の数値、Ⅳは公立校の肯定の数値


Ⅰ 今年度調査のトピック ――コロナと英語

学校行事はおおむね復活

 猛暑に耐えきれず、道行く人々の多くはマスクを外した。夏休み前後の子どもたちも、マスクを外して学んだり、遊んだりできたのではないだろうか。とはいえ、コロナは終息しておらず、新たに変異したという話もある。学校もまだまだ油断はできない。

●コロナ

コロナに関係する学校への質問は一つ。行事や教育活動の〝22年度の復活状況〟(8項目)を聞いている。
【運動会・体育祭】小学校の98%、中学校の93%が「コロナ前とは内容や方法を変更して実施」した。知徳体の全人教育を柱とする日本型学校教育には不可欠な活動。でもさすがに、20年度に中止や規模の大幅な縮小を経験して、教師も練習や準備に手間をかけすぎていたことに気がついた。そう思ってはきたが、保護者の期待も大きい伝統行事であるために、誰も言い出せなかったのかもしれない。コロナがいいきっかけになった。
【音楽会・合唱コンクール】中学校では合唱コンには力が入っており、「変更して実施」が78%、「同じ方法で実施」も5%。小学校は半数以上が実施していない。
【学芸会・文化祭】今は学習発表会として、生活科や総合的な学習の時間の成果発表を行う学校も多い。それは大事だ。小学校では56%、中学校では71 %が「変更して実施」をしている。
【遠足】小学校では「同じ方法」が22%、「変更」が61%。中学校でも「同じ方法」15%、「変更」が48%。中学生の遠足風景はちょっと想像がつかないが(「コロナ前から実施していない」34%)。
【芸術鑑賞】小学校の66%が、「同じ」か「変更」して実施。中学校でも43%がなんらかの形で実施(半数近くはもともと実施していない)。劇場も換気などの対策は取っていた。
【職場見学(職場体験活動)】中学校にとってキャリア教育の重要な活動が封じられてきた。20%が「同じ」、38%が「変更」して実施している。それでもまだ、「実施のとりやめ」が33%に上る(コロナ前は約90%の中学校が実施)。事業所側にもまだ警戒感がある。
【修学旅行を含む集団宿泊活動】「同じ」「変更」にかかわらず実施したのが、小学校98%、中学校88%。子どもたちにとっては、ほかの活動以上にうれしかっただろう。
【授業参観・学校公開】小学校の99%以上、中学校94%で実施(大半は変更して実施)。
 コロナの影響はどうやら薄れつつある。でも、コロナによって気づいた働き方改革に関係する部分(実施方法の変更など)は継続したい。転んだら、ただで起きてはだめだ。

「話す」に課題がありそうだが

●英語

 昔、大学受験関係の仕事をしていた(参考書の執筆など)。そのとき感じていたのが英語の〝偏重〟。受験英語の問題はどんどん難問化し(高度な英語読解力を求め)、挙げ句の果てに「入試科目は英語1教科+小論文」という形式まで登場。大学の授業がすべて英語で行われるわけでもなく、大学生に必要な基礎学力は英語なのかと大いに疑問をもった。
 21世紀になって、〝英語が話せる日本人育成〟が経済界の悲願となり、たぶん、それに応える形で小学校に外国語活動が創設され、高学年に外国語が誕生した。
 今年度、英語の調査を受けた中学生は、小学校外国語全面実施後の〝第1期生〟。こうした歴史からすると、今回の調査結果には、かなり衝撃的な事実もある。
「聞く」「読む」「書く」の平均正答率は46・1%。いいとはいえないが、驚くような数値でもない。「話す」は全員調査ではなく調査校として指定された500校、約4万2000人の結果で、平均正答率は12・4%、60%を超える生徒が正答数0(全5問)だった。
「話す」でメディアの話題になったのが「環境問題(レジ袋)についての英語のプレゼンテーションを聞き、話し手の意見に対する自分の考えとその理由を話す」問題。正答率4・2%、無解答率が18・8%。相変わらずスピーキングに課題が……と受け取れるが、それだけでもなさそうにも思える。
 英文を読んで、選択肢から選ぶタイプの問題には対応できているが、やはり「英文を読み、それに対する自分の考えを書く」問題では正答率20%、無解答率29%になる。
「書く」なり「話す」なり、英語による表現力に課題が認められるのであろうが、それ以前に「(たとえ日本語でも)自分の考え・意見を(論理的に)書く・話すこと」そのものにも原因があるのではないか。
 よく「重要なのは話の中身であり、流暢な英語でしゃべれるかどうかは関係ない」といわれる。学校はもっとその部分に着目してはどうか。どの授業でもそれは育てられるし、わざわざ小学校で英語の前倒し教育を行うことはないのかもしれない。実際にはどんな授業が行われているのかを見ていく。

明らかに昔とは違う学習

●英語―学校の当たり前 

 小・中に共通する質問を一つ。
「授業以外で、児童生徒が英語に触れる機会(イングリッシュキャンプ、EnglishDay、昼休みの英語での放送等)をどの程度設けているか」では、「ほぼ毎日」が小7%・中4%、「週に数回」が小8%・中6%。中学校でも、生徒に企画を任せて実施してみてはどうか。
 小学校には指導方法についての質問はないので、中学校の指導方法を学校と生徒の回答を対照させて見ていく。数値は肯定の回答。
 カッコ内は肯定的な回答。
「英語を聞いて(一文一文ではなく全体の)概要や要点を捉える言語活動を行った」は学校39%(94%)。生徒たちも33%(78%)がそういう活動が行われたと理解している。また、「英語を読んで(以下同)」は学校43%(96%)、生徒35%(80%)で、生徒にもおおむね理解されている。
「自分の考えを……」と書いたが、「原稿などの準備をすることなく、(即興で)自分の考えや気持ちなどを英語で伝え合う活動」は、学校では24% (77%)が行っており、生徒も26%(64%)が学習を自覚している。同種の質問「聞いたり読んだりしたことについて、生徒同士で英語で問答したり意見を述べ合ったりする言語活動」は25%(74%)の学校、生徒の42%(81%)が行ったと答えている(ギャップは大きい)。
 自分の考えを書く活動は、学校では当たり前のように行われているので、考えを話す学習の機会を増やしていけば、やがて、生徒たちの口から躊躇なく英文が飛び出してくるのではないか。
 それにしても、明らかに昔とは違って実用的な学習が行われているのに、なかなか課題が解決できない(悲願が達成できない)のはなぜなのだろう。

実生活を意識した学習を

●英語―子どもたちの事実

 では、子どもたちは英語を学ぶことをどう捉えているのか(肯定的回答)。
「英語の勉強は好き」児童69%・生徒52 %、「英語の勉強は大切」児童91%・生徒88%。「授業内容はよくわかる」生徒64%、「学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つ」生徒88%(3、4番目は中学生のみの質問)。授業については心配なさそうだ。
 しかし、これはあくまで授業での話。「将来、積極的に英語を使う生活をしたり職業に就きたいと思う」は児童53%・生徒37%。
 授業は楽しいし、将来、役に立つと思っていても、授業が現実につながらない理由は察しがつく。
「授業以外で、英語を使う機会があったか(外国の人と話す、手紙や電子メールを書く、オンラインで交流する、英語のテレビやHPを見るなど)」では、児童47%・生徒31%。中学生は21年度の数値からも低下している。身近に外国人が増えても、小学生、中学生が〝英語を使わなければならない場面〟はそうあるものではない。
 でも、必ずしも英語を使う職業に就かなくても、海外の取引先とのメールのやり取りやリモート会議を行う機会は日常的に訪れる。それをイメージすれば、学ぶモチベーションも上がるのではないか。その意味では職場体験はよい機会だし、実生活を意識した実用的な英語学習も必要だろう。英語は学問ではなく技能。子どもたちに育てるべきは、難解な英文の読解力ではなく、まずはシンプルな英語表現を気軽に使いこなせる力だろう。

【第2回へ続く】

次回の予定

12月25日(月)
令和5年度全国学力・学習状況調査を検証する 第2回

※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。