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教育ジャーナル Vol.20-2

■全国学力・学習状況調査

連自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。
── 令和5年度全国学力・学習状況調査より 第2回

■全国学力・学習状況調査

自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。

── 令和5年度全国学力・学習状況調査より

第2回(全4回)

2023年7月末に公表された令和5年度全国学力・学習状況調査の報告書・集計結果を教育ジャーナル視点で読み解く連載。
第2回は、挑戦心、達成感、規範意識、自己有用感、幸福感などのカテゴリーと学習習慣、学習環境等及び部活動について見ていく。
※数値は基本的に小数点以下を四捨五入。「そう思う」を肯定の回答、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」を肯定的回答とする。今回は、基本的に肯定的回答の数値を使用した。また、Ⅰ~Ⅲは国・公・私立校の数値、Ⅳは公立校の肯定の数値


Ⅱ 子どもたちの事実 ―― 正義感や市民感覚

幸せ感じる学校でありたい

 基本的な生活習慣にはこの10年、大きな変化はない。8割の子どもは毎日、朝食を食べているし、1~2%の子は朝食をまったく食べていない。気にはかかるが、さすがに学校の指導で解決できる問題ではない。
 挑戦心、達成感、規範意識、自己有用感、幸福感などというカテゴリーを見ていく。数値は肯定で、カッコ内が肯定的。
「自分には、よいところがあると思う」は児童43%(84%)・生徒37%(80%)。10年前の13年度は児童35%・生徒24%だった。この数字が年々上がっているのはうれしい。これは当然、次の質問「先生は、あなたのよいところを認めてくれていると思うか」とも密接に関係があり、児童50%(90%)・生徒40%(87%)が実感している。これも14年度には児童36%・生徒26%だったので、教師の意識や姿勢も上がってきている。
 ただ、よいところがあるとは思っていない児童5%・生徒6%という数値も事実だし、2~3%の児童・生徒が教師からよいところを認めてもらっていないと感じている。教師が子どもたちに及ぼす影響の大きさを認識しておいていただきたい。
 余談だが、子どもたちへの質問は、こんなふうにシンプルなほうがいい。パッと見て、直感的に回答したほうが〝本音〟が出る。
「将来の夢や目標を持っているか」は児童61%(81%)・生徒39%(66%)。19年度→21年度で明らかに下がって、まだ回復していない。タイミング的にはコロナ禍の閉塞感が影響しているように思われるが、本当はこんなことに影響されたくない。
「いじめは、どんな理由があってもいけないことだ」は児童83%(97%)・生徒80%(95%)は当然だが、気にかけたいのは次の二つ。
「人が困っているときは、進んで助けているか」が児童46%(92%)・生徒38%(88%)で、コロナ禍(21年度~)で数値は上がった。子どもたち同士で自分たちの問題を解決できれば、それが一番いい。
 もう一つの、「困りごとや不安がある時に、先生や学校にいる大人にいつでも相談できるか」は児童33%(69%)・生徒31%(66%)。同時に「できない」児童が10%、生徒が11%もいる。この10%が重大事案につながらないようにしたい。近年、学校に取り入れられている教科担任制や学年担任制は、子どもたちの相談相手を増やすという観点でも有効に働くはずだ。
「学校に行くのが楽しくない」子どもが毎年5%前後(中学生は少し減少)。すべての子どもにとって学校が楽しい場所であるのが理想ではあるのだが、現実的には難しい。
「自分と違う意見について考えるのは楽しい」は児童32%(77%)・生徒32%(78%)。増加傾向にあり、授業での対話的な学びとの相乗効果だろう。
 新登場の質問が二つ。「友達関係に満足している」児童は63%(90%)で生徒は55%(89%)。「普段の生活の中で、幸せな気持ちになることはどれくらいあるか」は、「よくある」児童50%・生徒41%、「ときどきある」児童41%・生徒46%、「まったくない」が児童・生徒1%程度。教師にも質問してみたい。

ガイドラインはどこへ?

●学習習慣、学習環境等及び部活動

 気になったことを3つ取りあげる。
 こんな質問がある。「学習塾や家庭教師の先生に教わっていますか(インターネットを通じて教わっている場合も含む)」。
 全国では「教わっていない」(=塾などに通っていない)児童54%・生徒39%。「学校の勉強より進んだ内容や、難しい内容を教わっている」が児童25%・生徒20%。これが、首都圏のある指定都市では、「教わっていない」児童39 %・生徒22%、「進んだ内容を~」は児童39%・生徒31%に大きく変わる。
 この学力調査(平均正答率)の結果にも、これはきっと影響している。
 二つ目が中学生の部活動。外部移行等の状況までは読み取れないが、現状はこう。
「平日に平均して何日活動しているか」では「5日」が24%、「4日」が35%。「平日の活動時間」は「3時間以上」が7%。「土日の活動時間」は「4時間以上」が12%。ガイドラインが守られていないような……。
 もう一つが、本の話。「あなたの家には、およそどれくらいの本がありますか」という質問が今年度も登場した。
 なぜ、この質問項目が設けられているのか。国立教育政策研究所は「本資料では、国際学力調査も参考に、『家にある本の冊数』を家庭の社会経済的背景(SES*)の代替指標として用いている」と説明している。そして「家庭のSESが低い(=家にある本の冊数が少ない)児童生徒ほど、各教科の正答率が低い傾向が見られる」と〝分析〟する。

(注キャプション)
*SES=Socio-Economic Status

 昨年の記事ではここで憤慨してしまったのだが、今回は、こういう分析も紹介する。
 英語に「授業では、自分の考えや気持ちなどを英語で書く活動が行われていたと思うか」という生徒への質問があった。この質問に「家にある本が0~25冊だが、『当てはまる(肯定)』と回答した生徒の英語の平均正答率は46%」。一方、「家にある本が101冊以上だが、『当てはまらない』と回答した生徒の英語の正答率は37%」と分析(三重クロス集計)。そして、「言語活動に取り組んだ生徒は、SESが低い状況にあっても、英語の正答率が高い傾向が見られる」という。ただし、本が101冊以上で「当てはまる」と回答した生徒の平均正答率は57%。
「授業でちゃんと言語活動を行えば、SESなんか関係ない」といいたいのかもしれない。でも、両者が同じクラスで同じ言語活動を行う授業を受けているのなら、両者のSESによって生じる46と57という差はそのまま残る。やはり、配慮してほしい質問だ。

社会参画の機会を復活したい

●地域や社会に関わる活動の状況

〝社会に開かれた教育課程〟のもとでは、住んでいる地域、もう少し広く市町村への子どもたちの関心を促進したい。そのきっかけとなるのが地域行事などへの参加・参画。
「今住んでいる地域の行事に参加しているか」は、ちょっとした指標となる質問だった。コロナ前は徐々に数値も上がってきていたのだが、地域行事は学校以上にコロナ禍の影響を受けて子どもたちの参加も大きく減ってしまった。今年度は、小学生はやや復活してきたが、中学生は停滞したままだ。
 それでも「地域や社会をよくするために何かしてみたいと思う」児童は33%(77%)、生徒は20%(64%)。学校・地域の協働でその機会を設けたい。「してみたい」ではなく、10年も経ったら、彼らこそが現実に「何かする」ことの中心となる。
 地域とのかかわりを通して、こういうことも起こり得る。
「外国の人と友達になったり、外国のことについてもっと知ったりしてみたいと思う」児童41%(73%)・生徒35%(67%)。「日本やあなたが住んでいる地域のことを、外国の人にもっと知ってもらいたい」児童46%(78%)・生徒26%(63%)。意欲はある。ネパールやバングラデシュの言葉は無理でも、とりあえず英語でと、外国語を学ぶモチベーションとしてはこれが一番だ。
 学習の状況は学校との対照で見ていく。

【第3回へ続く】

次回の予定

1月15日(月)
令和5年度全国学力・学習状況調査を検証する 第3回

※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。