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教育ジャーナル Vol.20-3

■全国学力・学習状況調査

連自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。
── 令和5年度全国学力・学習状況調査より 第3回

■全国学力・学習状況調査

自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。

── 令和5年度全国学力・学習状況調査より

第3回(全4回)

2023年7月末に公表された令和5年度全国学力・学習状況調査の報告書・集計結果を教育ジャーナル視点で読み解く連載。
第3回は、主体的・対話的で深い学びの視点による授業改善、個別最適、総合・学級活動・道徳の指導方法、ICT活用などについて見ていく。
※数値は基本的に小数点以下を四捨五入。「そう思う」を肯定の回答、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」を肯定的回答とする。今回は、基本的に肯定的回答の数値を使用した。また、Ⅰ~Ⅲは国・公・私立校の数値、Ⅳは公立校の肯定の数値


Ⅲ 学校の当たり前 ―― 授業改善や教師への支援

学び方を身につけさせたい

 どうも学校は今「個別最適な学び・協働的な学び」に気を取られているようだが、最優先は授業改善。アクティブ・ラーニングから始まって、ずいぶん長いこと取り組んできたような気がするかもしれないが、〝マスト〟の状態になってからまだ2年、3年だ。学校ではちゃんと当たり前に取り組まれているのか、そこから見ていく(肯定的回答)。

●主体的・対話的で深い学びの視点による授業改善

どの質問(取組内容)がどうのと、いちいち数字をあげる必要がないくらい、全10項目すべての肯定的回答は小学校、中学校とも79%以上。すでに当たり前に取り組まれており、後は精度を上げていこうという状況だ。
 最低ラインの79%だったのは、小学校では「自らの考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して、発言や発表を行うことができていると思うか」で、いわば、児童のプレゼン技能の習得の問題(中学校は82%)。同種の質問では児童も64%とやや苦戦。中学校では「各教科等で身に付けたことを、様々な課題の解決に生かすことができるような機会を設けたか」で、これは完全教科担任制では少し難しい課題(小学校は86%)。どちらもやや仕方ない要素がある。
 授業改善のメインともいうべき「課題の解決に向けて、自分で考え、自分から取り組むことができていると思うか」(児童生徒の姿をきいているが)は小学校89%・中学校88%。「自分で考え、自分から取り組んでいた」児童は79%、生徒も79%。
「学級やグループでの話合いなどの活動で、自分の考えを深めたり、広げたりすることができているか」は小学校84%・中学校86%。子どもたちのほうは、「できている」児童82%・生徒80 %。
 授業改善で重視される「振り返り」は子どもたちにしか質問していないが、「学習した内容について、分かった点や分からなかった点を次の学習につなげることができているか」は児童77%・生徒69 %。学んだことを子どもが自覚する取組は、さらに徹底したい。
 この授業改善では、教師は子どもたちが学習者として自立できるよう、それに必要な学び方を〝身につけさせなければならない〟。その点では「習得・活用及び探究の学習過程を見通した指導方法の改善及び工夫をしたか」の肯定的回答が小学校89%・中学校88%はともかく、肯定の回答がそれぞれ21%・20%というのは物足りない。〝自分から取り組む〟主体性が育っても、〝学び方〟というある種の技能がなければ次に進めない。指導を通して、「課題解決は、こんな方法で進めていけばいいのか」と子どもたちに教えたい。

個別最適とは、そういうこと?

これが新規の質問として授業改善に紛れ込んでいた。

個別最適な学び・協働的な学び

 21年度調査から、子どもたちには「授業は、自分にあった教え方、教材、学習時間などになっていたか」と質問してきた。児童の肯定的回答は83%(肯定37%)、生徒は75%(23%)。子どもたちが自分に合っているかどうかを、どう判断したのかはわからないが、これだけの人数の〝個別(最)適〟になるものなのだろうか。「自由進度学習」などが全面的に取り入れられたわけでもない。
 そこで学校への質問。
「学習指導において、児童生徒一人一人に応じて、学習課題や活動を工夫したか」に小学校は93%(28%)、中学校は91%(25%)。「児童生徒が、それぞれのよさを生かしながら、他者と情報交換して話し合ったり、異なる視点から考えたり、協力し合ったりできるように学習課題や活動を工夫したか」は小学校94%(31%)・中学校94%(29%)。
 二つ目の協働は、総合的な学習の時間や対話的な学びという下地があるので、それほど驚かない。でも個別のほうは、確かにこれまでずっと「一人一人に応じた……」といわれてはきたが、こんなにできているものなのかと素直に驚く。中身の検証や精度は先生方にお任せするが、日本の教師の底力なのか。
 授業改善に伴う学習評価は、新規の質問が1項目。実践部分ではなく、学校の姿勢を聞いている。
「学習評価の方針を示した上で、児童生徒の学習評価の結果を、その後の教員の指導改善や児童生徒の学習改善に生かすことを心がけたか」。小学校90%・中学校96%。さすがに「心がけていない」とは回答できないだろう。ただ、肯定はそれぞれ28%・40%なので、もっと徹底されなければならないようだ。

道徳が中学校でも充実してきた

●総合、学級活動、道徳の指導方法

 大きな変化があったわけではないが、ここは〝学校でしかできないこと〟として、当たり前や事実を見ておきたい。
 変化ではないが、「総合的な学習の時間において、課題の設定からまとめ・表現に至る探究の過程を意識した指導をしているか」では、少なくともここ10年、中学校の徹底ぶりが小学校を上回っている。創設時を考えると隔世の感がある。高校でも探究に力が入ってきたので、文字どおり各教科を巻き込んだ総合的な学びとして、さらに充実していくことを期待したい。
 学級活動では、話し合いを通して多様な考えを出し合い、認め合って解決方法を探り、子ども自身が意思決定する活動が、ほぼ9割の学校で行われている。対話的な学びとの相乗効果もあるだろうし、いじめの起きにくい学級風土の形成にもつながる。
「考え、議論する道徳」は、小・中学校の9割で実現。児童84%・生徒86 %が「自分の考えを深めたり、学級やグループで話し合っている」と答えている。特に中学校・中学生は21年度から目に見えて充実しているし、議論を通して生徒の本音が語られるいい授業も見せてもらっている。

活用範囲は拡大、使い方は上達

●ICTの活用

 どの質問でも、活用は拡大している。機会や使い方、頻度などは、学校というより個々の教室で、教師と児童生徒、教科、追究課題などとの関係で決まることなので、この点は細かい数値を出してもあまり意味がない。
 何がなんでも使えばいいというものではないが、年々、上手に活用できるようになっていることは明らかで、数値からそれは読み取れる。最初は無理難題に思えても、それにいつの間にか対応している。これも日本の教師の底力なのだろう。
 子どもたちのほうは、「学習の中でPC・タブレットなどのICT機器を使うのは勉強の役に立つか」は児童95%・生徒93%が役に立つと答えている。21年度以来、ほぼ同じ数値だが、「役立てることができていない」児童・生徒が5~7%いることもまた事実。個別最適な学びを実現するための重要なツールとして想定されているはずなので、ここのケアも必要だが、それを教師に求めてもいいのだろうか。
「ICT機器を以下の用途でどの程度活用しているか」という質問があるので、それを紹介しておく。用途は5例(ほぼ毎日、週3回以上、週1回以上の合計の数値)。
①「不登校児童生徒に対する学習活動等の支援」小学校43%・中学校55%。このうち「ほぼ毎日」は小18%・中25%。オンラインで子どもの顔を見ながら状況確認ができるので、家庭訪問の頻度が減ったという声も聞いた。保健室まで登校できた子どもが、そこでリモート授業を受けるという例もある。推進することが正しいかどうか意見は分かれるが、現状はこうだ。
②「特別な支援を要する児童生徒に対する~」小67%・中62%(「ほぼ毎日」小31%・中27 %)有効性は、この状況になるずっと以前からいわれていた。好事例もたくさんあるはずだ。特別支援での活用は推進したい。
③「外国人児童生徒に対する~」小19%・中17%。7割の学校には該当する子どもがいないが、該当校だけで見ると小63%・中61%。各国語自動翻訳機能とか?
④「児童生徒の心身の状況の把握」小36%・中36%(「ほぼ毎日」小29%・中28%)。どんな活用がされるのかわからないが、さまざまな可能性があることは事実。〝使いこなせたもん勝ち〟ではなく事例の共有を。
⑤「児童生徒に対するオンラインを活用した相談・支援」小14%・中18%。相談窓口の選択肢としては有効だろう。例えば、いじめにあっている子が教師に相談していることを気づかれると、いじめがエスカレートする。電話相談の進化形かもしれない。
 これらも個別支援であり、一種の〝個別最適な学び〟だ。ICT機器の活用は、使い方次第で子どもたちにも教師にもメリットがある。校務の効率化にもぜひ積極活用を。

日本型学校教育の基盤は何?

 教職員自身は、どのくらい大事にされているのかを見ておく。使命感をもって献身的に働くばかりでは、持続可能とはいえない。

●学校運営に関する状況/教職員の資質向上に関する状況

「教員が授業で問題を抱えている場合、率先してそのことについて話し合うこと」を「週に1回程度、またはそれ以上行った」小38%・中26%。「月に数回程度」小39%・中35%。
「教員が学級の問題を抱えている場合、ともに問題解決に当たること」を「週1回以上、~」小56%・中43%。「月に数回程度」小31%・中32%。
 頻度の問題ではなく、そのつど、迅速に対応したい。それが教師のため、子どもたちのためだ。こうした取組と平均正答率とのクロス集計もぜひ見たいものだ。
 教師自身の〝教師力〟向上も、免許をもった専門職には不可欠。
「児童生徒自ら学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現するなどの学習活動を学ぶ校内研修」を行っている小89%・中84%。授業改善は、教師にとって本当は大変な課題だ。
「個々の教員が自らの専門性を高めるため、校外の各教科等の教育に関する研究会等に定期的・継続的に参加している(オンラインでの参加も含む)」小84%・中81%。教科担任(教科交換)がだんだん当たり前になってきた小学校でも、担当する教科のより深い教材研究は必要だし、教師だって自信をもって授業に臨みたいだろう。
 これもクロス集計を見たい。教師の努力が、子どもたちの知徳体・心技体の成長を支え、それが日本型学校教育の基盤であることを、〝何々委員の方々〟は、ぜひお忘れなく。
 唐突感があると思うが、付け加える。

●国語科の指導方法(新規の質問)

「国語の授業において、自分と相手との間に好ましい関係を築き、継続させるといった言葉の働きに気付くことができるような指導を行ったか(小学校)」93%(肯定30%)。
「互いの立場や意図を明確にしながら計画的に話し合い、異なる意見を自分の考えに生かして考えをまとめることができるような指導を行ったか(小学校)」93%(肯定28%)。
「自分の考えを分かりやすく伝えるために、聞き手の立場に立って効果的な話し方を工夫することができるような指導を行ったか(中学校)」94%(肯定33%)。
「互いの書いた文章に対する感想や意見を伝え合い、自分の文章のよいところを見付けることができるような指導を行ったか(小学校)」83%(肯定32%)。
「自分の考えが伝わる文章になるように、根拠を明確にするために必要な情報を資料から引用して書くことができるような指導を行ったか(中学校)」94%(肯定38%)。
 英語だろうが日本語だろうが、言葉はコミュニケーションのツール。自分が言いたいことを正確に表現し、なおかつ、相手がその意図どおりに受け取る。英語以上に日常語である日本語について、その基本的な力を子どもたちに徹底して育てたい。書いても話しても、対面でもリモートでも、どんな場面でも必要になる汎用的な力だ。

【第4回へ続く】

次回の予定

1月29日(月)
令和5年度全国学力・学習状況調査を検証する 第4回

※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。