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教育ジャーナル Vol.20-4

■全国学力・学習状況調査

連自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。
── 令和5年度全国学力・学習状況調査より 第4回

■全国学力・学習状況調査

自分にはよいところがある。
先生もそれを認めてくれている。

── 令和5年度全国学力・学習状況調査より

第4回(全4回)

2023年7月末に公表された令和5年度全国学力・学習状況調査の報告書・集計結果を教育ジャーナル視点で読み解く連載。
第4回は、都道府県・政令指定市の平均正答率で各教科をトータルして最上位だったのがさいたま市であった。さいたま市の学校の取組や児童生徒にはどんな特徴があるのか。連載最終回はこれを見ていく。
※数値は基本的に小数点以下を四捨五入。「そう思う」を肯定の回答、「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」を肯定的回答とする。今回は、基本的に肯定的回答の数値を使用した。また、Ⅰ~Ⅲは国・公・私立校の数値、Ⅳは公立校の肯定の数値


Ⅳ 「学校の当たり前」「子どもの事実」と学力との関係

授業内容はよくわかる

 新聞には都道府県・政令指定市の平均正答率に一覧表が掲載される。それを見ると、小・中、各教科をトータルして最上位だったのがさいたま市。さいたま市の学校の取組や児童生徒にはどんな特徴があるのか、少し見てみたい。肯定の回答が全国を顕著に上回る項目を〝特徴〟の判断基準にした。
 集計の表をその基準でチェックしながら、びっくりした。ほぼすべての項目で全国の数値をかなり大きく上回っている(特に子どもたち)。原則、数字はあげないが、あえて示す場合は「(さいたま市の肯定の数値/全国の数値)」と表記する(%は省略)。

●さいたま市の子どもたち

 小学生は、半数以上が自分にはよいところがあると思う。先生はよいところを認めてくれており(62/50)、学習で理解していないところはわかるまで教えてくれる。
 いじめは、絶対にいけないことで、困っている人は助ける。自分が困ったときは、学校でいつでも大人の誰かに相談できる。
 学校に行くのは楽しい。友達関係には満足していて、自分と違う意見について考えるのは楽しく、幸せな気持ちになれる。 
 こんな子どもたちだから、地域や社会をよくするために何かしたいと思い、外国の人と友達になり、もっと日本のことを知ってもらいたいと思っている。こういうことも学習の動機づけになっているのだろうか。
 学習面では、家で自分で計画を立てて勉強している。学習塾等に行っていない児童は半数以下(45/54)。
 授業では、課題解決に自分から取り組み、各教科で学んだことを生かして考えをまとめ(42/28)、資料や話の組立てを工夫して発表。授業は、自分に合っている。話し合うことで考えを深めたり広げたりでき、分かった点・分からなかった点を次の学習につなげている(46/31)。これは、総合、学級活動、道徳にも反映されている(道徳56/44)。
 国語、算数とも授業内容はよく分かる。基本的に学力の原点はここだろう(→分かる授業の実現)。国語の新規質問(前出の学校の質問と内容は同じ)も明確に肯定している。

そういう授業になっている

 小学生がすくすく成長したようで、中学生も同様だ。自分にはよいところがあると思い、先生もそれを認めてくれる。人が困っていれば進んで助ける。困ったことは学校でいろんな大人に相談できる。学校に行くのは楽しい。友達関係には満足しており、自分と違う意見について考えるのも楽しい。幸せな気持ちになれる日々だ。
 放課後は、部活動に参加。学習塾等に行っていない生徒は26%(全国39%)。
 主体・対話・深い(授業改善)については、どの項目もそういう授業になっていると実感している(全国を8~10ポイント上回る)。また、授業は自分に合っているという。総合、学級活動、道徳も同様。 
 中学生も、国語、数学、英語とも、授業内容はよくわかる。どの教師もその授業を目指しているのだろう。ゴールのない永遠の課題なのかもしれない。
 実は、英語の正答率は53%で、川崎市とともに最も高かった。どんな指導に力点が置かれていたのか、気になるところだろう。それは学校の取組として確認する。
 生徒には「こういう活動が行われていたか」と質問されたが、どの項目も「行われていた」と認識している。中でも「スピーチなどまとまった内容を英語で発表する活動」は67%(全国43%)。「自分の考えや気持ちを即興で英語で伝え合う活動」は39%(全国26%)で、例えば、授業のはじめに、生徒同士の挨拶代わりにこういう時間を5分でも設けて繰り返せば、無意識に英語が口から出てくるようになるのではないだろうか。

授業に臨む〝環境整備〟の充実

 一方、学校も際立った特徴を見せてくれる。上位・下位といっても平均正答率では10ポイント以内の差で、子どもたちが1問多く正答したかどうかくらいの違いだ。でも、その1問の違いにはやはりなんらかの要因がある。市内の学校が、どんな指導をどのくらい確実に行ったのかを知りたい。

●さいたま市の小学校

 授業改善や教科の指導方法を主に見ていくが、その前段階としてこの取組が目につく。
「ICTを活用した校務の効率化の優良事例を十分に取り入れている」(43/29)、「ICTを活用した校務の効率化の一環として、クラウドを活用した効率化に取り組んでいる」(46/37)機械に任せればいいことまで自分たちで頑張っても、その気持ちだけでは子どもに学力をつけられない。ICTを授業でどう活用するか以前に、教師こそが授業力を存分に発揮できる準備を整えておきたい。
 もう一つ。「教育課程表について、各教科等の教育目標や内容の相互関連が分かるよう作成している」が50/42。こういうことを生かした授業が行われていれば、子どもたちも
「授業で学んだことを、ほかの学習で生かしている」(49/39)という姿になるのだろう。
 授業改善では、個別最適・協働的な学び(質問文前出)にもよく取り組まれている。
 習得・活用及び探究の学習過程を見通した指導が行われており、各教科で身に付けたことをさまざまな課題解決に生かせる機会も設けている。インターネットや図書館資料を活用した授業も計画的に行っている(55/43)。
 学級活動では、子どもたちが話し合って問題の解決方法を合意形成できる指導を行い(55/38)、話し合いを生かして、努力すべきことを一人一人の児童が意思決定できる指導を行っている(43/32)。こういう学級風土であれば、落ち着いて学習できることだろう。
 国語の授業では、新規質問(前出)はどれもよく取り組まれているが、中でも、異なる意見を自分の考えに生かして考えをまとめる指導や、「登場人物の人物像や物語の全体像を想像し表現の効果を考えて読む指導」がしっかり行われている。
 算数では、実生活との関連を図った授業が行われている(37/27)。子どもの立場に立つと、これは教師が考える以上に大事だ。
「個別最適」にはICT活用が一体となって考えられているようだが、「児童が自分の理解度・進度に合わせて課題に取り組む場面ではICT機器をどの程度使用させているか」では、「週3回以上」。決して「毎日」ではない(選択肢がおかしい)。自由進度学習に取り組んでいるからといって、その間ずっと使っているわけではないと読めばいいのだろう。
 授業ではないが、もう一つ。「保護者や地域の人が学校の美化、登下校の見守り、学習・部活動支援等に参加しているか」は(71/57)。
「教員でなくてもできる業務」をこんな形で他の誰かが代わってくれれば、結果、〝+1問〟につながっていくはずだ。これもクロス分析をやってもらいたい。

徹底できているかどうかの差

●さいたま市の中学校

 教師への支援(授業や学級経営)はよく行われている。校務の効率化に多くの校務でクラウドも活用し、家庭との連絡にもICTを活用。各教科を関連づけた教育課程表も作成(58/39)。おかげで、他教科の学びを目の前の課題解決に生かせる機会を設けることができるし、生徒も「各教科で学んだことを生かしながら、考えをまとめている」(33/23)。また、家庭や地域の支援(学校の美化、部活動支援など)も、中学校にしては熱心だ。
 授業では、生徒がグループなどで課題解決に取り組む活動が徹底されている(41/25)。これは総合にも生かされている。
 国語では、自分の考えが伝わる文章になるよう、根拠を明確にするために必要な情報を資料から取り出す指導がよく行われている(46/38)。そもそも、記述式問題に解答するにはこの力が不可欠だ。
 数学では、中学校でも実生活との関連を図った授業が行われており(36/22)、公式やきまりなどの指導では、生徒がその根拠を理解できるよう工夫した(66/48)。いずれもオーソドックスな指導だが、徹底すればやがてそれが生徒の事実となって表れる。
 英語については、ここまでに登場してきた指導のどれもが確実に行われている。中でも、スピーチなどまとまった内容を英語で発表する活動(58/32)や、聞いたり読んだりした内容を英語で書いてまとめたり自分の考えを英語で書く活動(44/19)は、全国を大きく上回る。また、即興で考えや気持ちを英語で伝え合う活動(36/24)も行われている。もっと精度を上げていく余地はあるが、調査問題で浮き彫りになった課題解決のためのヒントにはなりそうだ。
 指導方法のほとんどの項目は、7割方の学校で「どちらかといえば実行している」。示された活動を、教師は徹底し、子どもたちはそれを明確に自覚する。それができたかどうか。学力の上位・下位の差はその違いだと思う。

【了】

次回の予定

2月12日(月)
ゆとりの中で、新採教員はどう育っているか

※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。