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教育ジャーナル Vol.21-1

■ 幼保小の架け橋プログラム

「架け橋」って何?
幼児教育や学校教育に何を求めているのか

■幼保小の架け橋プログラム

「架け橋」って何?
幼児教育や学校教育に何を求めているのか
~「幼保小の協働による架け橋期の教育の充実」に書かれたこと

【全4回】第1回

教育ジャーナリスト 渡辺 研

 「架け橋」という言葉に翻弄されてしまった。なぜ今、登場してきたの? 現場に何を求めているの?
疑問を解明してみると、決して目新しいことや、難しいことが求められているわけではなかった。
いやむしろ、「子どもたちの幼児期の育ちを、小学校に確実につなげていこう」という、
とっくに実現していなければならない、ごく当たり前のことだと思えた。
子どもの立場に立って、「大人にどうかかわってもらえると、子どもは幸せか、安心して自己発揮できるか」と考え、
実行する。
 「架け橋」の2年間は、子どものために設けられた時間。幼児教育と小学校との間に架かる、文字どおり架け橋だ。


「架け橋」はどこからきたのだろう

そもそも「架け橋」って何?

 この記事は、前号で扱うつもりで準備を進めていた。
「学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について~幼保小の協働による架け橋期の教育の充実~(令和5年2月27日。幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会)」を読み、田村学教授(國學院大學)にお話を聞き、架け橋のモデル19自治体の一つ横浜市の取組を聞き、小学校でお話を聞き、國學院大學で開催された教育実践フォーラム「令和の日本型学校教育を考える」で、幼児教育と小学校の取組としてはベストパフォーマンスだと思ったほどの幼稚園、小学校の優れた実践報告を聞いた。
 しかし、文章にまとめるにあたり、何かこうモヤモヤが残った。なぜ、5歳児と小学校1年生の2年間を架け橋期としたのか、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(以下、『10の姿』と表記する場合もある)」の見取りやスタカリの徹底だけではダメなのかなど、肝心な部分の理解ができていないことに気がついた。お恥ずかしい話である。
 仕切り直しにあたって、まず〝課題解決〟の過程を書いておきたい。実際は思い違いもあるかもしれないが、少なくとも「架け橋」にはどんな背景や意味があって、だから大事で、現場に求められているのはこんなことなのかなと理解した。
「架け橋期」に関係する先生方は「何を今さら」と思われるだろうが、「再確認」だと思ってお付き合いいただきたい。意外な見落としもあるかもしれない。

人格形成の基礎を培う時期

 架け橋特別委員会(無藤隆委員長)の第1回目の審議が行われたのは令和3年7月(すでに「架け橋」という言葉は登場)。この年の1月には中教審から「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」(答申)が出された。
 小学校の関係者は一瞬にして「個別最適な学び」と「協働的な学び」に目を奪われたはずだ。しかし、答申では「幼児教育」についても次のように述べられた(抜粋)。

【基本的な考え方】
〇幼児教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである。また、学校教育の始まりとして幼稚園では、義務教育及びその後の教育の基礎を培うことを目的としている。
【幼児教育の内容・方法の改善・充実】
②小学校教育との円滑な接続の推進
〇幼児教育施設で育まれてきた資質・能力を、小学校教育を通じて更に伸長していくためには、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を手掛かりに、幼児教育施設と小学校の教職員が子供の成長を共有するなどの連携を図るとともに、小学校ではスタートカリキュラムも活用しながら幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化を図る必要がある。

 そして、「幼児期から小学校への教育的なつながりを確保する」ためには、幼・小の教職員が「両者の教育について理解を深め、また、両者が抱える教育上の課題を共有しておくことが重要」であり、「合同研修等の継続的な実施」などが必要だという。
 ただ、これは「幼児教育の質の向上について」という柱の中でのメッセージであり、続く「9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について」では幼小の接続にはふれられていない。そのため、小学校側に見落とされてしまったのかもしれない。ただでさえ「義務教育」には個別最適・協働的な学びや不登校、ギフテッド、小学校の教科担任制、ICT活用などの重要事項が満載だった。
 それはともかく、「幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化を図る」ことが「架け橋」の出発点のようだが、そもそもの源はもっと昔にある。この際、少し振り返ってみる。

義務教育以降の基礎を培う

 平成18年(2006年)12月、新しい教育基本法が公布・施行された(昭和22年に制定されて以来の改正)。そこでは、「幼児期の教育(第十一条)」が新設されて「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なもの」と規定された。答申の「基本的な考え方」はこんなに前からいわれていた。
 さらに、幼児期の教育の位置づけをより確かなものにするよう、学校教育法が一部改正され(平成19年)、「第一条 この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、(義務教育学校)、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする」とされた(義務教育学校は平成27年の一部改正により追加)。そして、「第三章 幼稚園 第二十二条 幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする」と明記された(それまでの並び順は「小、中、高、中等教育、大学、高専、特支、幼稚園」)。
 これ以降、幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育保育要領(3要領・指針)は同時期に改訂・改定が行われるようになり、内容にも共通の記述が加えられるようになった。
 幼稚園が学校教育の始まりとして小学校以降の教育との連続性が明確になるよう学校種の最初に位置づけられ、「義務教育及びその後の教育の基礎を培う」ものとして目的及び目標が明確化された。「やっとこうなった」というニュアンスを込めて、こうした説明を当時の幼児教育行政の担当者から聞いた。
 しかし、現実にはスタカリの実施さえ十分ではなく、幼児教育が学校教育の始まりであることを、小学校が明確に認識しているかといえば、確信をもってそうだとは言いきれない。
 答申をきっかけに、今度こそ、その目的や目標を、幼児教育と小学校とのつながりの中にしっかりと実現していこうという意図をもって、「架け橋」の議論は進められたのだろう。ひとまず、そんなふうに理解した。
 今回はそこに、追い風が吹いた。

制度に切れ目はないが

 架け橋特別委員会第8回(令和4年5月)後の6月15日、こども基本法が国会で可決成立した。そして、令和5年4月1日、こども家庭庁が創設され、こども基本法が施行された。第一条にはこう書かれている。

●第一条(目的)この法律は、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり、次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、その権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して、社会全体としてこども施策に取り組むことができるよう、こども施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及びこども施策の基本となる事項を定めるとともに、こども政策推進会議を設置すること等により、こども施策を総合的に推進することを目的とする。

「こども施策」には、教育施策、雇用施策、医療施策なども挙げられている。当然、文部科学省や学校は大きな責任を担う。第二条には次のように書かれている(一部抜粋)。

●第二条(定義)2
 この法律において「こども施策」とは、次に掲げる施策その他のこどもに関する施策及びこれと一体的に講ずべき施策をいう。
一 新生児期、乳幼児期、学童期及び思春期の各段階を経て、おとなになるまでの心身の発達の過程を通じて切れ目なく行われるこどもの健やかな成長に対する支援
二 子育てに伴う喜びを実感できる社会の実現に資するため、就労、結婚、妊娠、出産、育児等の各段階に応じて行われる支援
三 家庭における養育環境その他のこどもの養育環境の整備

 言うまでもなく、保育や学校に関する制度は切れ目なく整っている。でも、制度があれば支援が行き届くわけではない。
 子どもの成長は〝各段階〟に関係なく切れ目なく連続している。「心身の発達の過程を通じて切れ目のない支援」とは、各段階(=子どもの成長過程の中の一定期間)に携わる保育者や教師に何を求めているのか。お気づきのように「生涯にわたる人格形成の基礎を築き(培い)」は3回も登場している。
 順を追ったことで、「架け橋」とはなんなのかが見えてきたように思えた。

【第2回へ続く】

次回の予定

幼保小の架け橋プログラム 第2回
※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。