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教育ジャーナル Vol.30-4
■奈良県天理市の新たな取組
子どもにかかわる問題を、学校と行政の連携で解決する
天理市子育て応援・相談センター「ほっとステーション」の成果
【全5回】(第4回)
■奈良県天理市の新たな取組
天理市子育て応援・相談センター「ほっとステーション」の成果④
子どもにかかわる問題を、学校と行政の連携で解決する
第4回は、その成果や感想を紹介する。
全5回【第4回】
教育ジャーナリスト 渡辺 研
◆成果と感想
退職者・休職者は減少
取組初年度の具体的な成果を紹介する。
25年2月末までの217の相談件数のうち104件は解決している(約48%)。残りは「継続案件」として見守りを続けているが、児童生徒も保護者も落ち着いている。
相談員(スーパーバイザー。以下、SV)やコーディネーターが定期的に学校や園・所を巡回し、子どものほうも、不安があったときは教師以外の大人にもSOSを出せることを承知している。
でも、逆にみれば、子どもたちに起きている問題を解決や緩和するにはそれだけの人材がいて時間もかかるということで、とても学校だけで抱えきれるものではない。「学校に任せることは何か」を根本的に考え直してみなければならない。
ほっとステーション(以下、HS)にはこういう大きな利点もある。
「背景に家庭の課題がある場合も多く、家庭の自立支援や家事支援などいろいろ組み合わせなければならないこともある。市長部局がかかわっていることで、福祉部門と教育部門とが連携できます。だから、私も入ってチームでやることが非常に大事なのです」(並河市長)
開設のきっかけになった教職員の休職や退職にも大きな変化があった。
24年度の退職者は教員1名、保育士1名。教員は自己都合。保育士は、子どもと保護者の対応でストレスがたまり、自分の子どもにつらく当たっていたと反省し、一度家庭に戻りたいというものだった。退職とはいっても、HSによるサポートで少し仕事に余裕をもてたことで、自分の家庭を顧みる余裕がもてたともいえる。
休職者は3名。1名は自己都合。1名は指導力への自信喪失。もう1名は学級崩壊が原因だったが、休職中に心理士がメンタル面でのサポートを行った結果、現場復帰ができた。
また、7名が「保護者からの威圧的言動を受けた」と訴えたが、カウンセリングにより退職・休職には至らなかったため、保護者対応による退職・休職者はゼロだった。
一方、時間外勤務の実態にも変化があった。23年度と24年度とを比較すると、全学校の教職員一人当たりの時間外勤務時間の平均は11%強削減している。HSとの連携によって働き方改革を進めてきた学校においては30%以上も削減されている。
◆ 精神的な負担が軽減された
数値に現れない“実感”の部分はどうか。25年2月に全教職員へのアンケート調査が実施された。「保護者対応の精神的な負担が昨年度より軽減されたと感じる」と答えた教職員は33%。管理職では7割が「軽減された」と回答。おそらくこの33%の中には休職等のピンチを回避できた人もいる。
逆に昨年度より負担が大きくなったという回答が10%。内容は「保護者からの要求が課題になった」「教育的配慮を過剰に求める保護者が増えた」など。これは、HSができたことでもっときめ細かい対応を要求されたのかもしれない。
「まだ変化を感じていない」という人が56%。保護者対応で苦しんだ経験がないのなら、それは幸せだろう。それでも、「授業準備・教材研究にかける時間が増えた」は40%、「充実した授業を行うための新たな取組を行った」が76%。仮に自分が学級経営に苦労がなくても、同僚が苦しんでいれば見ないふりはできない。職場の空気も重苦しくなる。それが緩和されれば、本来の仕事に集中できる。
報告書は「HSの目的である「教職員が授業に集中できる『余白』を生み出す」という点では、さらに多くの回答者が前向きな効果を実感していることが初年度から明らかとなった」と書いている。
感想をいくつかピックアップする。
●保護者対応に同席してもらえたのが心強かった。
●学校が言いたいけど言えないことを第三者の立場から言ってもらえる。
●子どもの特性や発達状況を伝えることに担任としてためらいがあった。HSの心理士が巡回教育相談に来てくれたおかげで、保護者は小中学校でも継続的に相談できる人だと分かり、安心していた。
●学校への要望について「する/しない」を整理して伝えてもらえる。
●対応に悩んでいた保護者に第三者的立場からかかわってもらうことで、職員の心理的負担が軽減された。園(学校)が聞き出せなかった保護者の本音や背景を知ることができた。
●心理士の専門的視点から保護者の心理状況を聞くことで、心に余裕をもって保護者を理解しやすくなった。今まで自分が対応してきた部分が保護者にとっては、逆効果だったことに気づいた。
「教員は体制が変わることがそんなに得意ではないので、これだけドラスティックに変えるともっとネガティブな反応があるのかと思ったのですが、違いました」(並河市長)
天理市で勤務する教師たちは、仕事へのやり甲斐を取り戻せたのかもしれない。天理市で子育てをする保護者は、他人に言えなかった悩みに市ぐるみ(学校を含む)で寄り添ってもらえたことで、「子育て支援」を実感できているのかもしれない。
(第5回に続く)
次回の予定
1月5日(月)
天理市子育て応援・相談センター「ほっとステーション」の成果⑤