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教育ジャーナル Vol.31-6
■授業参観2025 授業を通して実現したいこと
こんな意図をもった授業づくり
教科分担制・チーム学年運営/若手教師の育成/教室に入れない児童の居場所
【全6回】(第6回)
■授業参観2025 授業を通して実現したいこと
こんな意図をもった授業づくり
教科分担制・チーム学年運営/若手教師の育成/教室に入れない児童の居場所
全6回【第6回】
教育ジャーナリスト 渡辺 研
学校内で“安心して過ごせる居場所”や“個に応じた学び”を提供する「しなやかルーム」。実際に授業を参観してみた。
横浜市立荏田東第一小学校・「しなやかルーム」の授業
◆「わー、めっちゃうれしい!」
3時間目から「しなやかルーム」で“授業”を参観した(~5時間目の途中まで)。
担任は松本洋子教諭(非常勤。8時半~14時半の勤務)。もともと“えだわん”(荏田東第一小学校の通称)に勤務しており児童支援専任も務めた。児童理解に長けた、まさに願ってもない人材だ。
この時間、登校していたのは4年生2名、3年生1名、2年生1名。3時間目には4名がそろっていたが、2時間目に自習をしていた子もいたし、校庭で体育(運動会練習)に出席していた子もいた。教科によっては在籍級で授業を受けられる子もいる。
「学校に来られなくなった理由がわかっている子もいれば、わからない子もいれば、なんとなくわかりかけている子もいます。松本先生はそこを把握して、柔軟に指導しています」
さて、3時間目の授業。この日は図工。つくるのはぶんぶんゴマ(びゅんびゅんゴマ)。紀元前5世紀頃から存在していたらしいので、説明は省略する。
「3時間目はみんなで勉強しようって話をしたよね。今日は図工です」と松本教諭が声をかける。「やりたくない」とマットから動かない子がいたが、見本のこまがシューシューとたてる音が聞こえると、すぐにテーブルにやってきた。
松本教諭が用意してきた台紙に色を塗り、十字形に切り抜き、たこひもを通す。
「ペンは譲り合って使ってね」と松本教諭。「カラフルにしよう」「全部形を変えてもいいの?」「この色とこの色を塗ったらどう見えるかな?」と、子どもたち同士も会話を交わしながら、この作業に夢中になって取り組む。20分ほどで一人が完成。ここから、空気を切る音が出るようにぶんぶん回す次の練習がスタート。でもこれが意外に難しい。
「そうそう、緩めすぎないのがコツ」「あ、音がする」と松本教諭もつい夢中になる。
コンスタントに回せるようになると、「塗ったところが丸く見える」「すごい」と子どもたちから声があがる。
二人目が完成して回す練習に加わる。一方で、丁寧に作成を続ける子。4人の教室でも個性は多様。そうこうするうちに4時間目が始まる。「4時間目は自由時間なのに図工の続き」と言いながら自主的に回す練習を続ける。枠はある。でもその枠内で子どもたちの個性は尊重される。
4人目の子が回すのに苦労していた。「できないよ」とくじけそうになっていたが、全員が集まって声をかける。「お、いった!」「できた!」「わー、めっちゃうれしい!」
「みんな、あきらめないで頑張ったね」と松本教諭が声をかけた。
◆ 多様な個性が穏やかに混在する
いつの間にか始まった4時間目だが、「しなやかルーム」には学習支援の児童が二人やってきた。この日は割り算のひっ算練習。4人は自由時間、松本教諭は仕切りの向こうで学習支援。「もしもし、声が大きいですよ」と時折、注意が入るものの、双方の子どもたちは互いを気にする様子もなく、それぞれの活動や学習に取り組んでいる。
やがて4人はマットに集まってゲームを始めた。会話しながら一緒に遊ぶ、ときには協力し合い、励まし合い、達成感を共有する。一人で自宅にいるより楽しい時間のはずだ。
給食をはさんで、5時間目も「しなやかルーム」を参観。午前中以上に多様な光景を見せてもらえた。
午後は3人。一人は在籍級の授業に戻った。2時間目に体育の授業に出ていた子は「今日は1回もしてないから勉強しよう」と自ら言って、自分のブースで黙々とドリルを始めた。その間、二人はマットでゲーム。間違っても、「こっちで一緒にゲームをしよう」とは言わない。集団生活の中で、個人の意思はみんなで尊重し合っている。
そして、学習支援のスペースにも児童が一人やってきた。学習内容は算数。在籍級でも算数の授業中で、この子にとって授業内容が難しいときは「しなやかルーム」で松本教諭と学習をする。
「ガンガン教えてできるようにしようとか、『頑張ってやってみよう』ではなく、『またこようかな』と思えるように指導をしています。ここで予習的な学習をして教室の授業を受ける場合もあるし、子どもによってはテストの読みあげをすることもあります。そのほうが理解できる子もいるので。系統立てて何かをするのではなく、子どもによって“そのときに必要なこと”をしています」(松本教諭)
算数の学習に来た児童は、楽しそうに学習とは関係ないおしゃべりもしている。
「この子は、教室で嫌なことがあると職員室や保健室に来て、話をしたり、学習したりしていました。養護教諭に『助けて』と言ってきたこともありました。当時の担任から相談があり、どんな居場所がいいのかを探ってきました。担任が早い段階で相談してくれて一緒に見取りができれば、スムーズにつながります」(北村校長)
この時間も時折、シュンシュンと音がする。「しなやかルーム」で子どもたちの姿を見ていると、本当にここは特別な教室ではないと感じる。多様性の包摂。それを学級だけに求めず、学年や学校全体で実現を目指せば、子どもにも教師にも少しゆとりが生まれる。
“締め切り”を設けない
参観の途中、子どもたちの様子を見に来た児童支援専任・川島恵信主幹教諭にお話を伺った。川島主幹教諭は昨年度、試行的にスタートした「しなやかルーム」の担任を務め、実践をもとに「しなやかルーム」の形や運用を提案した。川島教諭は「しなやかルーム」をこんな場所だと考えている。
「毎日、安定して居続けることができる居場所。ここに居ることの安心感がその先の支援につながるので、それをつくれたことが大きい。ここからどこに向かうかはわからないのですが、まずは、学校と家庭と社会をつなぐ、一つのステップかなと考えています」
小さなことだが、「約束事」もその成果。
「最初は子どもたちそれぞれに要求があります。でも、だんだん、どうすればみんなが安心して過ごせるかというところに、思いがいくようになる。なんでもしていい場所ではない。それをはじめから言ってもだめ。あの約束も、前期はその土台づくりを少しずつやってきました。今は、多少、一体感、結束感も生まれてきたと感じます」
参観して、確かにそう思えた。
「『しなやかルーム』は出口が不明瞭です」と北村校長もおっしゃる。
次の学年が始まったときに一般学級に戻れれば、それが一番いい。
「大事なファクターなので、それを目標にしたいのですが、そう簡単にはいかない。『あと1年で教室に戻らなければならない』といった“締め切り”があると、それはプレッシャーになる。そこをゴールにしないことが『しなやかルーム』のよさなのかもしれません」
名称のとおり、“えだわん”では子どもたちにしなやかに対応していく。
横浜市の場合、先に中学校で「校内ハートフル」の整備が進んだので、気持ちを少し楽にもてるはずだ。こんな連携が望まれる。
【了】
次回の予定
5月11日(月)
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」①