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教育ジャーナル Vol.31-7
■国立教育政策研究所・戸上琢也統括研究官に聞く「誰もが行きたくなる学校」
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」
“支える”かかわりで誰もが行きたくなる学校へ
【全3回】(第1回)
■国立教育政策研究所・戸上琢也統括研究官に聞く「誰もが行きたくなる学校」
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」
“支える”かかわりで誰もが行きたくなる学校へ
全3回【第1回】
取材・文 今井美栄子
不登校の増加を止めるためには、魅力ある学校づくりを! そのために学校に求められている役割が「居場所づくり」と「絆づくり」だ。居場所・絆とはなんなのか? 何をしたらよいのか? その鍵は「発達支持的生徒指導」にある。ふだんの取組を“支える” 視点に転換することが、不登校の未然防止にもつながるという。研究校とともに実践・実証を重ねている「こどもの発達を支える生徒指導に関する調査研究事業」の取組をもとに伺った。
◆不登校の未然防止のために立ちあがった事業
――国の調査によると、不登校の児童生徒数は12年連続で増加。2024年度には増加率は低下したものの過去最多を更新し、新たに不登校となる子どもをうまないための対策が喫緊の課題となっています。
戸上統括研究官が主導されている「こどもの発達を支える生徒指導に関する調査研究事業」は、いじめ・不登校の未然防止を図るための取組と伺っています。まずは、事業の概要について教えてください。
戸上統括研究官(以下、戸上) 本事業は、令和4年の生徒指導提要改訂を受けて新たに立ちあがったもので、5年度から3年間かけ、全国11の指定校(9地域は小中学校、2地域は高等学校)で実施されています。
目的は、「発達支持的生徒指導」による居場所づくり・絆づくりを通し、すべての児童生徒にとって「魅力ある学校」を目指すこと。「魅力ある学校づくり」は、平成15年の不登校問題に関する調査研究協力者会議「今後の不登校への対応の在り方について(報告)」で示されました。「明日も行きたい!」と思える魅力を学校に見いだすことで、いじめや不登校等の未然防止を図ろうというものです。児童生徒にとって魅力ある学校は、教職員にとっても魅力ある、やりがいを感じられる学校であるはずです。
◆発達支持的生徒指導が問題を未然に防ぐ
――本事業のテーマである「こどもの発達を支える指導」とは?
戸上 「発達支持的生徒指導」と呼ばれるものですね。まずは生徒指導提要の「生徒指導の重層的支援構造の2軸3類4層構造」の図を見てください。

これは、今までの生徒指導を、すべての児童生徒か特定の児童生徒かという「対象」と、ふだんからやるものなのか、即応的・継続的に対応するものなのか、という「時間軸」で整理したものです。
第1層と第2層は、課題のあるなしにかかわらず、すべての児童生徒が対象です。第1層「発達支持的生徒指導」は、教育活動全般においてふだんから求められる生徒指導。第2層「課題未然防止教育」は、課題が起こる前から行う各種の取組。例えば「特別の教科道徳」「総合的な学習(探究)の時間」「特別活動」等の時間を利用して行う「いじめ予防授業」や「薬物乱用防止教室」などです。
第3層と第4層は、特定の児童生徒が対象です。第3層「課題早期発見対応」は、休み始めた子どもへの早期支援など。第4層「課題困難対応的生徒指導」は、不登校になってからの対応です。
この図からわかるように、「発達支持的生徒指導」はすべての基盤・土台になるというわけです。
――「発達支持的」とは、どういうことなのでしょうか。
戸上 令和4年の生徒指導提要改訂では、“支える”がキーワードになりました。生徒指導の目的にも次のようにあります。「児童生徒一人ひとりの個性の発見と、よさや可能性の伸長と、社会的資質・能力の発達を“支える”と同時に、自己の幸福追求と、社会に受け入れられる自己実現を“支える”こと」。
一般的に生徒指導と聞くと、「問題を起こした子を呼び出して指導すること」というイメージをもっている先生が多いようですね。そうではなく、問題が起こる前から成長や発達を“支える”ようなかかわりをして、集団づくりをしていくこと。それが「発達支持的生徒指導」です。これまで教師主導で何かを〝させる〟ことがメインだったのが、子どもたちが主体となって活動するのを“支える”かたちになったのです。
“支える=支持”とは、「ああしなさい、こうしなさい」という「指導」でもないし、SOSも出ていないのに助けるといった「援助」でもありません。日常的な挨拶、認めや励まし、称賛などの声かけ、積極的に対話をして一人ひとりの思いを聞こうとする姿勢、授業や行事での集団への働きかけ……そういった児童生徒と向き合うスタンス、身がまえといってもいいでしょう。
――そういった「発達支持的」なかかわりが、問題を未然に防ぐということでしょうか。
戸上 何も言わない、気づかれない子が、なんの働きかけもなく置き去りにされ、見えないところで問題が起きて対応に追われてしまう。だから、何事もない時点で子どもがはみ出しづらく、はみ出してもすぐに戻りやすい集団づくりをしておかないといけないのです。
先生のかかわり方が集団によい影響を与え、温かみのある人間関係が形成されると、子どもたちは安全・安心を感じます。すると、その集団は子どもたちにとってセーフティーネット、つまり〝心の居場所〟になっていきます。でも、かかわり方がうまくいかないと、セーフティーネットは機能しなくなる。そうすると、その集団(ネット)から漏れた子どもが悩みを抱えたり問題行動に走ったりして、いろいろな問題が起きてくるのです。
――「居場所づくり」のために、「発達支持的」なかかわりが必要だということですね。
戸上 はい。さらに、もう一つ必要なことがあります。それは「絆づくり」です。「絆づくり」とは、児童生徒が主体的に取り組む活動を通して、自らが「きずな」を感じとり、紡いでいくこと。そこに「きずな」が存在することは、学校に行く意味となります。
しかし、不安で自分の本音が言えないような場所では、友達と何かやってみようという思いにはなれないですよね。まずはその学年、その学級といった所属集団が安全・安心じゃないと。ですから「居場所づくり」をしっかりした上で、その土台の上に「絆づくり」をすることが大切なのです。
「絆づくり」とは、先生が「こうしなさい、ああしなさい」と示すものではありません。先生の役割は、子どもたち同士で話し合いながら、自分たちでつながりを感じられる環境をつくること。、全員が活躍して互いが認められるような「場」や「機会」の設定です。
“させる”のではなく“支える”生徒指導によって、教師が意図的に“場づくり”を仕掛けていこうということなのです。
――発達支持的生徒指導は「居場所づくり」にも「絆づくり」にも欠かせないということですね。
◆4視点で発達支持的生徒指導を授業に生かす
――生徒指導提要の「生徒指導の実践上の視点」では、4つの視点が示されています。この「4視点」と「居場所づくり」「絆づくり」「発達支持的生徒指導」の関係性を教えてください。
戸上 「いろいろな言葉が出てきたけれど、どうやって結びつくの?」と、現場としてはちょっと混乱しているところはあるかもしれませんね。
4視点のうち、「共感的な人間関係の育成」「自己決定の場の提供」「自己存在感の感受」の3視点は、もともと改訂前に「生徒指導の3機能」と呼ばれていたんです。ただ、「居場所づくり」や「絆づくり」との関係性は明示されていませんでした。そこで、新しく加わった視点「安全・安心な風土の醸成」とともに、どう結びつくのか整理してみました。

例えば、授業中いつも同じ子どもたちが発言し、おとなしく座っている子どもたちが複数人いたらどう働きかけますか? 授業の中で、全員が参加しやすい雰囲気づくり、人とのかかわりをもてる場づくり・環境づくりをどのように促しますか? 4視点は、発達支持的生徒指導を行う際に、どういう視点でどういう取組をしていけばよいのかというヒントになります。
「居場所づくり」は、ルールのもとで気兼ねなく意見が言えて、わからないが言える「安全・安心な風土の醸成」の視点と、意見を否定せずに聴き合い、支え合う集団をつくる「共感的な人間関係の育成」の視点から、教師の指導性を発揮する取組。
一方、「絆づくり」は、安全・安心な居場所を土台にし、自分たちのことは自分たちで決められる場がある「自己決定の場の提供」の視点と、学校・学年・学級の一員として大切にされ認められる「自己存在感の感受」の視点から、子どもの主体性を発揮する取組。教師はあくまで黒子として、子どもが活躍できる舞台の環境づくり、働きかけをすることが発達支持的生徒指導につながります。
こうした環境づくりや子どもたちへの働きかけは、実はおそらく多くの先生方が無意識に、ある意味「感覚で」行っていることではないでしょうか。「居場所づくり」「絆づくり」とともに、そうした働きかけを改めて「4視点」を共通言語にして振り返ってみてください。「あ、こういうことが子どもたちの安全・安心になっているんだ」「この先生のこういう集団への働きかけが一人ひとりの自己存在感の感受につながっているんだ」などと意識化してほしいのです。
そして、それによって見えてきたことを校内で共有して話し合うことで、「では、こう仕掛けていこう」「こんな働きかけで生徒指導をやっていこう」と、全員で意図的に仕掛けていくことができるようになります。
すると、今まで当たり前にやってきたことに「なるほど確かに子どもたちの反応がいい」と改めて気づきがあるでしょう。そこをノウハウとして共有財産化していくのです。経験年数が短い先生にとっては、「指導がうまいとはどういうこと?」「この先生のクラスは何が違うのだろう?」などと、今までぼんやりしていたポイントの見える化にもなります。本事業の実践はそこがいいところなのです。
――研修資料の中では、4視点を生かした授業づくりの参考例を挙げていらっしゃいますが、これらも先生方が無意識のうちにやっているかもしれないということですね。
戸上 はい。参考例ではありますが、絶対ではありません。もちろん新たな取組につながる気づきもあるでしょうが、たぶん似たようなことをすでにやっていらっしゃる先生もいると思うので。
4視点を生かせているのかを改めて確認するなら、子どもの声を参考にするとよいかもしれません。これらの声に応えられる授業こそが、発達支持的生徒指導と4視点が意識されている授業だといえるでしょう。
(第2回に続く)
次回の予定
5月25日(月)
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」②