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GIGAスクール構想とICT活用

GIGAスクール構想環境における体育・保健体育の授業 ①

(2021年11月25日更新)

帝京大学教育学部教授
高田 彬成


1 GIGAスクール構想と体育・保健体育の授業

2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、一斉休校が余儀なくされ、各学校においては遠隔授業を含めた新たな教育方法の確立が迫られていた。そうした中、国が準備を進めてきたGIGAスクール構想が一気に加速し、児童生徒への1人1台端末(タブレット型・ノート型があるが、ここでは以下、「タブレット」と表記する)の授業での積極的な活用が求められるようになった。
この潮流は、これからの体育・保健体育の指導にどのような影響や効果をもたらすのであろうか。本稿では、GIGAスクール構想下での体育・保健体育の指導の在り方について改めて整理し、タブレットを「使用する(使い用いる)」のではなく、「活用する(活かし用いる)」ことの重要性を再確認する機会としたい。
まず第一に、タブレットは目的やねらいに応じて用いることが大前提であり、「使用すること」そのものを目的化しないことを確認しておきたい。タブレットを使わなくてもできることに、あえて用いる必要はない。タブレットを使うことで指導の効果が高まることに特化し、場面を選択のうえ適宜用いるという基本姿勢を忘れないようにしたい。
第二に、タブレットを使用することで運動に従事する時間や課題を解決するための時間が減少することは避けなければならない。運動領域・体育分野では、タブレットを用いることで動きや技能の理解が深まるとともに自己の課題が明確化し、運動に取り組む意欲が高まることを目指す。その結果、運動に従事する機会や時間が増加したり、動きや技能の習得につながったりすることなどをもって、「タブレットを効果的に活用した」と言うことができる。保健領域・保健分野では、タブレットを用いることで課題解決に拍車がかかったり、新たな課題追究の意欲へとつながったりすることなどをもって、「効果的に活用した」と言うことができる。
第三に、タブレットの活用場面の精選において留意が必要である。例えば、仲間と動きを確認し合いながら、課題等の明確化を図ろうとする際、タブレットがなければ肉眼でしっかりと動きを観察し、友達に改善点等を伝えようとする。一方、タブレットがあれば録画をした後でゆっくり再生すればよいため、その場でしっかり観察しようとする意識は働きにくい。また、タブレットがなければ、「手の着き方がこうなっていたよ」と身振りなどの実演を交えてさまざまな工夫をこらしながら相手に伝えようとすることが、タブレットでの撮影によって、そういったコミュニケーションの一部(または大部分)が省略されてしまうこともある。一見、タブレットがあれば便利に思えることも、児童生徒の集中力や観察力、コミュニケーション力の伸長を妨げるなどの負の要因になっては本末転倒である。どんな場合でも「使わないより使ったほうがよい」と考えるのではなく、タブレットを用いることの有効性を確かめながら、適切に活用することに留意することが大切である。
第四に、情報の管理に努める必要がある。タブレットに蓄積された情報が、児童生徒本人のものであれば大きな問題はないが、仲間の運動の様子や課題解決の過程・結果等がわかるデータも混在する場合には、たとえ学習目的であっても著作権や肖像権の侵害等につながることがあるため、細心の注意や指導が求められる。学習後は自分の画像や映像以外は消去すること、自分以外に関する映像や記録データなどは、勝手に転用したり他者に渡したりしないこと、学習中に得られた情報はむやみに外部に流さないことなど、情報モラルの周知徹底に努めることが大切である。

2 運動領域・体育分野における活用
●動きを撮影し、再生する

運動場面において、タブレットが最も活用されるのは、自分や仲間の動きを動画で撮影し、その動きを再生して課題の発見や解決につなげる場面であろう。撮影した動画を後から見返すことにより、気づかなかったりわかりにくかったりした動きが映像として具体化され、自己や仲間の課題がより明確になることが期待できる。また、自分の動きを客観的に捉えることができるようになることも利点として挙げられる。
GIGAスクール構想下では、全ての領域において、タブレットを用いて運動に取り組む自己や仲間の様子を動画で撮影し、その場で再生して確認し教え合うという活動を展開することができる。その際、運動場などの直射日光下ではタブレットの画面が見えにくいため、厚紙を用いて画面を日陰にしたり、水泳においては水がかからないようビニールケースを準備したりするなど、運動領域や活用場面に応じた配慮が必要である。
撮影された動画は、本人の許可を得つつ必要に応じてモニターなどの大画面でクラス全体に共有化を図ったり、学習の軌跡としてタブレット(またはクラウド上のフォルダ)に保存して蓄積し、後に振り返りや学習評価に用いたりするなど、指導と評価の両面からさまざまな活用が期待できる。また、児童生徒にとっても、学習のbefore‐afterを視覚的に捉えることができるため、自己の学習の成果や課題を確かめたり、さらなるモチベーションにつなげるきっかけとなったりすることも期待できる。
児童生徒同士が動画を確認し教え合う活動においては、タブレットは映像を何度も再生したり、スロー再生や一時停止したりできるため、より具体的で明確な感想やアドバイスを伝え合うことができる。そのため、仲間と協働して学習する態度の指導や、気づいたことを互いに伝え合うなどの言語活動の充実にも効果的である。
また、動画撮影モードにしたスタンド付きのタブレットを用意することで、仲間の手を介さずに、自分の動きを撮影し、映像を再生して見ることもできる。その際、遅延再生機能のアプリケーションを用いることにより、さらに便利になる。例えば、マット運動で遅延再生を「〇秒後」に設定しておけば、技や動き(同時に自動撮影)をした後に、自身の映像が再生されるタイミングまでにタブレットのところに移動すればよい。その間、タブレットは、次の人の動きを撮影し蓄積しているため、「運動する→映像で確認する」という流れが途切れることなく、学習の効率を高めることが期待できる。
その際、特に留意しておきたいのは、タブレットを用いた撮影や再生等の操作に児童生徒があらかじめ十分に慣れておくことである。学習時間中にタブレットの操作に手間取ると、肝心の運動従事時間が削られてしまうことにつながりかねない。つまり、GIGAスクール構想下での学習の充実は、タブレット操作の熟達の程度にかかっていると言っても過言ではない。児童生徒のタブレット活用のためのスキルアップの機会は、教育活動全体で養われていくことが前提であり、体育・保健体育の授業時間とは別に確保しておきたいところである。タブレットの活用スキルが十分でないうちは、授業の効率性や運動機会確保の点から、体育・保健体育での使用に慎重にならざるを得ない。

●目標とする動きを可視化する

映像資料は、児童生徒が模範となる動きを理解する際に、紙による図解資料より具体的であり、学習効果が高いと考えられる。教師や仲間が、その場で模範となる動きを披露しても、実演だけでは映像のイメージがすぐに消えてしまうため、瞬時に動きの詳細を理解するのは難しい。その点、映像資料であれば、スロー再生や一時停止はもとより繰り返しの視聴ができるため、学習者の理解を深めることが期待できる。
以前は、あらかじめ教師が自分や児童生徒による模範映像を撮影し、その動画をタブレットなどに保存しておくことにより、授業中に学習者が必要に応じて繰り返し自由に再生できるような用い方をしていた。この方法は準備に時間を要していたが、GIGAスクール構想下では、インターネットの動画サイトにある投稿映像を活用したり、すでに用意されている体育指導用のデジタル動画を用いたりすることが容易になった。
映像を活用する際の留意点としては、学習者が用いる映像資料が正確かつ効果的であるかどうかを、あらかじめ教師が吟味しておくことである。特に、インターネット上の動画の中には、必ずしも正しい動きや解説をしているものばかりではない。児童生徒の学習の段階を考慮し、適時性を踏まえた映像資料を選定することが肝要である。したがって、児童生徒に動画の検索を委ねるのではなく、あらかじめ教師がピックアップしておいた動画を共有フォルダ等で紹介しておき、その中から学習者が必要に応じて用いることができるようにするとよい。

●映像資料の例 ※『中学体育実技』に掲載のQRコードから見ることができます。

『中学体育実技 動画&参考サイト』(学研教育みらい)

バスケットボール(1対1)の動画例

●動きや課題の共有化を図る

児童生徒の個々の課題解決を学級全体に紹介したり、多くの学習者に共通する課題について取り上げたりする際には、大型スクリーンや電子黒板等による映像の再生が有効である。GIGAスクール構想下では、児童生徒が個々に撮影した動画を大型スクリーン等で容易に再生することができる。そのため、授業中に教師が撮影役にならなくてもよいという利点を生かしたい。

例えば、課題の解決前と解決後の動きの映像を、撮影者や被写体本人の了解のもと解説を加えながら大型スクリーンに映すことにより、学級全体で学習成果の共有を図るとともに、個々の課題解決の参考にしたり、児童生徒間の認め合いの一助にしたりすることができる。
また、ボール運動・球技において、ボールを持たないときの動きを説明する際、実際のゲームの映像を電子黒板に映し、マーカーペンを使って(コート上の)空いているスペースを書き示したり、「この人はこの方向に動くとパスを受けやすい」と矢印を書き加えながら、具体的な動きの例を説明したりする指導も効果的である。
さらに、表現運動・ダンスの集団演技において、発表の様子を録画し、終了後に映像を再生しながら感想を伝え合うこともできる。演技をした学習者が、自分やグループの動きを映像で振り返りながら、仲間から感想や意見を受け取ることができるため、成果や課題の明確化や学習者相互の認め合いの一助となる。

このように、ほぼ全ての領域や運動の場面において、タブレットを効果的に活用することが期待される。「習うより慣れろ」という言葉のとおり、授業のさまざまな局面で用いながら、児童生徒にとってより効果的な活用法を見いだしていきたいところである。

3 保健領域・保健分野における活用

保健領域・保健分野(以下、「保健」と表記する)の授業におけるタブレットの活用には、「課題を見つける」、「調べる」、「課題を整理する」、「学習をまとめる」等、学習の各局面に応じた効果的な活用が期待できる。
「課題を見つける」局面においては、教師が提示した資料や情報から、児童生徒が何を読み取り、何を感じ取り、何に気づくことを目指すのかなど、資料等の持つねらいや目的を明確にしておくことが大切である。提示する資料等は、統計資料であれば常に最新のものとするなど、使いまわしにせず、絶えずブラッシュアップすることを心掛けたい。
「調べる」局面においては、GIGAスクール構想下では特に、保健で活用できる膨大な資料の中から、児童生徒が情報を取捨選択できる力を養うことが必要となる。そのため、授業で用いる資料などの情報をあらかじめある程度絞り込んでおくことが求められる。
「自由に調べてみましょう」というのでは収拾がつかなくなるため、「〇〇について、国から出されているデータを調べましょう」のように、範囲を指定し、その中から選び調べられるようにしたい。
「課題を整理する」局面においては、児童生徒が各自で調べていることをグループチャットや掲示板等を用いて発表し合ったり、共有フォルダを用いて仲間同士で確認し合えるようにしたりしながら、課題解決の過程を確かめるとともに、教師から適宜まとめに向けた方向づけをすることが大切である。
「学習をまとめる」局面においては、本時のねらいを踏まえ、課題を解決できたかどうか、新たな課題や疑問等が生じたかどうかなどについて、授業支援ソフトにあるような投票機能を用いながら、児童生徒の学習の習得状況を把握するなどの活用法がある。紙ベースの学習カードからデータベースの学習シートに移行することにより、児童生徒の学習の進捗状況や習得状況をいち早く把握することができるようになった。GIGAスクール構想下でのこうした利点を活用することで、今までは授業中にフィードバックすることがなかなか難しかった児童生徒からの疑問などにすぐに答えることが可能となった。また、ミニテストによる知識の習得状況の把握についても、児童生徒が回答を入力すれば、その場で正誤が整理され、正答数や正答率がすぐにわかるため、児童生徒が自己の学習を振り返る際にも役立てることができる。
このように、タブレットを効果的に活用することにより、全ての児童生徒の学習への参加機会が広がるとともに、教師による学習状況の把握にも有効な手だてとなる。

【参考文献】
1)文部科学省通知「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」(文部科学省初等中等教育局長 令和3年3月)

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