学研 学校教育ネット

SDGs×道徳

SDGs×道徳の今後 ~SDGs実践を振り返って~

(2022年11月25日更新)

一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)理事
木村大輔


学習指導要領にも盛り込まれているSDGs。SDGsの解説をはじめ、「取り入れたい!」と思えるような学校現場における実践などをご紹介します。

「SDGs×道徳」では、これまで4校の授業実践を紹介しました。今回は、各校の取り組みを総括し、学校現場における「SDGs×道徳」の実践の可能性について、課題と共に考えます。

各校の実践

奈良市立都祁小学校【すてきいっぱい都祁の郷:都祁の宝物で世界の宝物を】(道徳ジャーナル109号)

川や水源地を校区の宝物と捉えて水源地を訪れ、JICAルワンダの協力のもとで世界の水事情を学んだ。都祁の宝物である水と、地域の特産品である茶葉を組み合わせて作った「グリーンティー」を参観日に保護者に 販売し、ルワンダの井戸造りのためにその売り上げを寄附した。学習のまとめとして、鹿児島県屋久島市立八幡小学校と共に、水問題について考える「水サミット」を開催した。

実践の振り返り

都祁小学校では、管理職の先生とカリキュラム・マネジメントチーフ、そして現場の先生が連携できているため、全校(ホールスクール)での取り組みが実現できています。カリキュラム・マネジメントチーフが管理職の先生と一緒に6学年の指導を計画し、教師間の連携を促す体制が整っています。失敗してもよいことを前提にしていて、経験の浅い先生が困難に直面しても、支えていくことができます。

福島県只見町立只見中学校【新聞紙レジ袋で地域を一つに】(道徳ジャーナル110号)

海辺のゴミ拾いをした経験から、地球環境についての探究心に火がつき、生徒が中心となって新聞紙レジ袋を作成し、プラスチックゴミを削減する取り組みを行った。中学生に刺激されて環境活動に関心を持つ地域の大人たちが増え、町民が協力して新聞紙レジ袋の作成に取り組んだ結果、町内の10店舗で使用されるまでになった。

実践の振り返り

只見中学校では、海洋教育を軸に、小・中学校で学習指導の目標(学習観)をしっかりと連携させています。海辺のゴミを拾う活動から「河川の上流地域で生活する自分たちが気をつけることが、 海の環境をよくすることにつながる」と考え、地域の河川から世界の海へというグローバルな視点に発展しました。学校の中で学習を完結させず、地域やコンビニ店舗とつながり、課題解決を地域との連携で考えています。

北海道江別市立江別第二小学校【動物園のゾウを通して自然愛護を考える】(道徳ジャーナル111号)

小中連携のカリキュラムづくりを進める中で、SDGsを関連させた汎用性の高い道徳科の授業を考えた。低学年では発達の段階を考慮して、SDGsを掲げずに、その理念を学ぶことを目的とした。ミャンマーから日本の動物園にやって来たアジアゾウを題材に、ミャンマーで暮らすゾウ使いの少年の語りを通して、ゾウと人との共生から自然愛護を考える授業を行った。

実践の振り返り

江別第二小学校では、9年間の子どもの成長を捉えた上で、各ステージで生きる資質・能力の育成を意識した学習をデザインしています。課題について自分事として捉える仕掛けが多く用意されているので、どんどん視野を広げることができます。命について考え直すことで、SDGsの「平和で持続可能な社会」の実現に向け、変容を主軸に置いた「主体的・対話的で深い学び」につながっています。

広島市立二葉中学校【自分たちの力で状況を変えていく意識を持ち、行動に移すことの大切さについて考える】(道徳ジャーナル112号)

新型コロナウイルスに対するネガティブな気持ちが膨らむ中、それらがSDGsに関連していることに気付かせるため、英語と道徳を組み込んだ単元を計画した。英語の授業ではSDGsについて学習し、道徳では富士山の環 境問題からSDGs達成のために自分たちにできることを考えた。

実践の振り返り

広島市立二葉中学校では、世界で起きていることを自分事にする学びを、身近でイメージしやすい新型コロナウイルスというテーマで行いました。SDGsで英語と道徳をつなげた教科横断型の学習は、それぞれの教科特性を生かした取り組みとして、すべての教科担当の先生に参考になる実践です。

従来の学校活動や行事の中にSDGsは含まれている

各校の取り組みを見ると、SDGsの課題について従来から何らかの働きかけをしている先生の存在が、大きな原動力になっています。全国的に見れば先進的であるといえますが、その内容にはどの学校でも取り入れられる部分があります。それぞれの地域性や環境、状況などを基に、実践のヒントとして活用してほしいと思います。
SDGsの実践は、既存の指導内容にさらに加えるものと思われがちです。しかし、従来の学校活動や行事の目的には、必ずSDGsが目指す世界観や理念が含まれているはずです。まずはその共通点を探るとよいでしょう。
現在はSDGsを「知る」ことが中心になっているようですが、そこから学びを始めて、ゴール達成のために自分はどう考え行動すればよいかを意思決定するという過程を目指したいものです。指導者が子どもに課題を提示して考えさせるという受動的なものではなく、子どもが主体的に考えて課題を見つけ、行動につなげていくまでをセットとして考えたいものです。

広がる道徳科の可能性

学習指導要領では、育成すべき資質・能力を三つの柱(「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」)「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」)として掲げていますが、今までは先の2つに偏っていました。3つ目の「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」を授業で養うため、課題について考え、調べ、学んで、自分の意見を出し合える場を設けるには、道徳科は最適だと思います。自分の意見を自由に、安心して発言できるのは道徳科の特長です。
また、あるテーマについて、道徳科で関係する題材を扱い、自分ならどうするかという軸を形成し、他教科や探究学習につなげることができます。ここで紹介した実践を参考にして、学校の状況に合わせた学びをデザインしてほしいと思います。

SDGsの本質に気付くための学び

これまで紹介した実践は、SDGsのロゴや17のゴールを覚えることに重点をおいていません。私たちが社会の中でどう生きるのか、そのためにどういう人でありたいか、という考えを深める機会を大切にしています。初めからうまくいかなくていい、子どもも先生も、共にチャレンジしてみる姿勢が、学びそのものになっています。
その中で、当事者の立場を想像し、自分に置き換えてみる、社会的感情や個人の価値観もきちんと扱っています。これらは、「自分事につなげる問い」であり、行動やモチベーションの源泉になります。
子どもの変容を促す教育をしていることが、各校の共通点です。誰も取り残さずに世界を変革していく。そのために自分が変容する。この基礎がどの学校もできています。
現在、学習の4本柱である「知ることを学ぶ」「為すことを学ぶ」「共に生きることを学ぶ」「人間として生きることを学ぶ」が改めて重要視されています。その中核に道徳教育があると思います。

(取材・文/岡本侑子)