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With Sports 「スポーツと生きる人」から、スポーツの今とこれからを知る

with Sports 歩さん(漫画家・イラストレーター、IMAGICA BRANCH代表)

(2021年2月10日更新)

「スポーツと生きる人」から、スポーツの今とこれからを知る

歩 さん

女子バスケットボール部を舞台に、努力や衝突を重ねながら仲間同士が心を通わせていく高校生たちの物語を描いた漫画『BREAK THE BORDER』を連載中の歩さん。主人公の揺れ動く心情や、バッシュやシュートの音が聞こえてきそうな躍動感を細やかなタッチで描く。自身の青春時代の経験を基にした構成となっており、歩さんに作品を通して伝えたいことを聞いた。【取材・文/荒木美晴】

2016年、宝島社が主催する第7回「このマンガがすごい!」大賞最優秀賞を受賞した『ECHOES』。高校の女子バスケットボール部を舞台にしたこの作品で、歩さんはデビューを果たした。現在は、その長編版である『BREAK THEBORDER』を自身が運営するサイトで連載するかたわら、バスケットボール女子日本リーグの「Wリーグオールスター」のポスターやグッズ制作、教育関連の媒体表紙を手掛けるなど、多方面で活躍している。

Wリーグオールスター2019-2020キービジュアル

歩さんとバスケットボールとの出会いは中学3年のとき。実は、小学校低学年から特定の場所で話せなくなることがあったが、漫画史に残る名作『SLAM DUNK』を読んだことで、高校ではバスケットボール部に入り、心身を鍛えてそれを克服しようと前向きになれたそうだ。ただ、入学は半年近く先だったことから、まずは幼い頃から好きだった絵でバスケットボールに触れてみようとキャラクターを描き始めたことが、漫画家としてのルーツとなる。 高校では、未経験者の歩さんを仲間が快く受け入れてくれた。共にボールを追いかけ、声を出していくうちに、いつしかチームメイトと自然に話せるようになった。“スポーツの力”を実感し、いずれ絵の道に進むという夢に、スポーツにも携わりたい、という新たな思いが加わった。ただ、この3年間はバスケットボールに夢中で、絵は描いていなかったという歩さん。自分の夢に改めて向き合うことになったのは、専門学校を卒業し、ゲーム会社のデザイナーとして働いていたときのことだ。
「20歳の頃、会社から帰る途中に、ふと『あれ、ずっとバスケ漫画のことを考えているな』と思ったことがありました。振り返れば、専門学校生のときも通学中に登場キャラや物語を頭の中で膨らませていたな、と。それでようやく、『そうか、これが一番やりたいことなんだ』と自覚したんです。ストーリーは中学生の妄想から始まったものだけれど、不思議なことに、自分が大人になるにつれて、漫画のキャラクターたちも頭の中でイキイキと成長していました。『これはもう描けるな』と、ストンと腑に落ちた瞬間を今でも覚えています。それを具現化したのが、『ECHOES』です」
そこからの行動は早かった。地元・北海道から東京に拠点を移し、新しい会社でデザイナーをしながら作品づくりに没頭。出版社に持ち込みをし、編集者のアドバイスを受けつつ、『ECHOES』を完成させていった。本格的なネームづくりやキャラクター設定のブラッシュアップ、賞レースのため短編に軌道修正する苦労などもあったが、歩さんは漫画家として確かな第一歩を踏み出したのだった。

それから4年、歩さんが大事にしていることがある。それはクリエイターとして“リアリティ”を読者に伝えることだ。「例えば、『BREAK THE BORDER』ではボールが体育館に響く臨場感を意識しますし、いろんな個性や体型の子を描いています。バスケ界に多いハーフの選手も今後登場させる予定です。また、主人公の青せいは自分の“性”について悩む高校生として描いていますが、トランスジェンダーとして生まれた僕自身の経験を反映させています。“多様性”がメインテーマではないのですが、スポーツはいろんな人に開かれた場であってほしいし、日常生活で何かと戦っている人に、読んでもらいたいと思っています」 最近ではスポーツのイラストを依頼される機会も増え、絵を描く、表現するという形でスポーツに携われるこの仕事にとても魅力を感じている、と笑顔で語る歩さん。最後に、学生のみなさんにこんなメッセージを寄せてくれた。「何でもいいので、ぜひ一生懸命になれるものを見つけてほしいですね。それが将来につながることもあるし、どうか自分の気持ちや好きなものに、正直にいてください」


PROFILE ● あゆみ
1988年生まれ、北海道旭川市出身。2016年、第7回「このマンガがすごい!」大賞最優秀賞を受賞したバスケットボール漫画『ECHOES』で漫画家デビュー。現在は、同作の長編版である『BREAK THE BORDER』を自身のスタジオIMAGICA BRANCHの看板作品として連載しながら、グッズ展開も手がける。また、スポーツ分野を中心としたイラストレーターとしても活動中。