SDGs実践紹介④ 自分たちの力で状況を変えていく意識を持ち、行動に移すことの大切さについて考える
(2022年10月6日更新)
広島県広島市立二葉中学校教諭 中山 舞
※肩書は記事執筆当時のもの。
学習指導要領にも盛り込まれているSDGs。SDGsの解説をはじめ、「取り入れたい!」と思えるような学校現場における実践などをご紹介します。
はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、生徒の間で新型コロナウイルスに対するネガティブな意見ばかりが横行し、行き場のない怒りや苦しみを感じているようだ。そこで、日本だけでなく世界に視点を向けると、感染拡大により様々な問題が発生しており、それらの問題がSDGsにも関連していることに気付かせたいと思い、本授業を含む単元を計画した。
生徒たちが、新型コロナウイルスに対してネガティブな気持ちを持つだけでなく「新型コロナウイルスをきっかけに、私たちが生きる地球を、より良い姿に変えていく」という態度を養い、自分たちにできることを一つ一つ行動に移していけるよう、本授業を行った。
授業づくりの過程と目的
本道徳の授業は、英語の全6時間の単元計画の間に組み込んだ、教科横断型学習の取り組みである。
英語の授業ではSDGsについて学習し、SDGsに関連する英文を読んだり、単元内の新出文法を用いて生徒が感じたことを英語で表現したりする取り組みを行った。
本授業の前の時間では、新型コロナウイルスに対する今の自分の気持ちをワークシートに書き、グループ内で話し合った。また、ヴィヴィアン・リーチさんが書いた「コロナウイルスから人類への手紙」を読み、世界で発生している課題がSDGsと関連していることに目を向けさせた。
道徳の授業では、身近な社会的課題を自分との関わりで考え、その解決に向けて取り組もうとする意欲や態度を育てることを目的とした。
授業の展開
【ねらい】
SDGs達成に向けて、自分たちの生活の中で改善すべき課題について具体的に考え、自分から動き出すことの大切さを自覚し、その解決に向けて取り組もうとする意欲と態度を養う。
【展開】
①放置された冷蔵庫、古タイヤを運ぶ男性、ゴミが散乱した風景など様々な角度から撮影された富士山の写真を提示。写真がどこで撮影されたものか想起させる。
②富士山が2013年に世界文化遺産として登録されるまでに、ゴミの不法投棄や山小屋のし尿処理など、環境保全の面で大きな問題があり、「自然遺産」での登録を断念 した経緯を説明する。
③登山家である野口健さんの手記を読み、野口さんの心の変化について発問をし、野口さんの気持ちを想像させる。
④「それぞれが『自分たちの力で、この状況を変えていく。』という意識を持ち、行動に移すことで、世界は確実に変わっていく。」と感じた野口さんが、富士山の清掃活動に参加したり、ヒマラヤ付近に住む子供たちへの教育支援を行ったりしていることを紹介する。(これらの問題がSDGsのゴールに関係していることにも触れる。)
⑤野口さんのように、SDGsにつながる日常にある問題を解決する意識を持ち、行動に移すために何ができるか、普段の自分たちの生活を振り返り、グループで話し合わせる。
⑥話し合いで出たアイデアが、SDGsの17のゴールとどのようにつながるか全体で共有し、様々な意見を聞き、自分の考えを深める。
生徒の発言・記述
※( )内の数字は、生徒たちが関連すると判断したSDGsのゴールの番号。
・料理をするときに食品を無駄にしてしまうことがあるから、計画的に買い物をして食品ロスをしない。(1、2)
・お菓子は消費期限が短く、捨ててしまうことになるので、食べないお菓子は買わない。(2)
・ご飯を残さないようにする。バイキングでは必要なものだけを取る。(2)
・授業中うっかり寝てしまわないようにする。(4)
・シャワーの流しっぱなしを止める。(6)
・ゴミの分別をきちんと行う。(12)
・エコバッグを持って行き、買い物のときはプラスチック製の袋を断る。(13、14)
・SDGsについて学んだことを家の人に伝える。(17)
おわりに
本道徳の授業は、1年生の全7クラスで実施した。終了後に各担任の先生とSDGsについて深めたり、生徒の意見を交流したり、有意義な時間を持つことができた。道徳の授業では、すべてのクラスで同じ題材を扱うことにしており、SDGsを学年や学校全体で考え、広めていく良い機会になると考える。
本授業の実践後、家庭科の授業でも頻繁にSDGsの内容を扱うことから、道徳での話が家庭科の授業で話題になった。また、「私のSDGsコンテスト」の記事をインターネットで見つけて家族で参加した生徒もいた。授業が終わってもSDGsに関連した話題について、学校内で頻繁に聞くことができた。
今後も、道徳の授業をきっかけとして、教科横断的にSDGsというものさしを使い、物事を多面的・多角的に考えられる授業をつくっていきたい。
広島市立二葉中学校の実践のポイント
広島市立二葉中学校の中山先生の取り組みは、世界で起きていることを自分事にする学びを、身近でイメージしやすい、コロナウイルスパンデミックというテーマから行なった、分かりやすい実践です。 コロナ禍は日本だけで解決できるものではない、地球規模の課題であるという視点からスタートしていることが、一つ目の重要なポイントです。
二つ目のポイントは、教科横断型の学習として、英語と道徳をSDGsという共通テーマでつなげたことです。他教科でその特性を生かした授業を行い、道徳では社会と自分との関わりを扱うという教科横断型学習の取り組みは、どの教科担当の先生にも参考になるのではないでしょうか。
三つ目のポイントは、同じ題材をそれぞれの先生が扱うことにあると考えます。先生によって興味関心や授業スタイルは異なります。しかし、「生徒一人一人が自分たちの力でこの状況を変えるために何ができるか問い、どのような行動ができるか考えられるようにする」というゴールを共有することで、それぞれのスタイルを生かした進め方ができます。さらに、教師間の振り返りの中でお互いの優れた取り組みを見つけたり、それぞれのよさを伸ばしたり、連携を強化したりするきっかけになると考えます。
授業の進め方や道のりは必ずしも同じではなくてもよいし、同じ型を同じように実践するのは現実的に難しいかと思います。ゴール(学習目標と評価につながる視点)を共有して、それぞれの先生のオリジナリティを生かせる仕組みをつくることで、大きな抵抗感なく、学年や学校全体で取り組むことができると考えます。
「持続可能な社会の創り手」の育成が求められている現在、パンデミックを学習の素材として扱い、社会の問題を見つめ、自分たちは何をすればよいのか、何ができるのかという大きな問いについて考えるチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。
一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT) 調査・研究統括 木村大輔