with Sports 津端 裕さん アキレス株式会社(足育カウンセラー/上級シューフィッター)
(2023年6月2日更新)
「スポーツと生きる人」から、スポーツの今とこれからを知る
津端 裕 さん
「もっと速く走りたい」「子どもに安心・安全な靴を履かせたい」―。それぞれの願いを叶えるべく、子どもたちの成長に合わせた足型を設計し、靴を作るアキレス社。人気シリーズ「瞬足」の開発を手掛けてきた津端さんに、履く人の心と身体が喜ぶ靴作りへの想い、そして「足育」の大切さについて聞いた。【取材・文/荒木 美晴】
「コーナーで差をつけろ‼」とうたったテレビCMが子どもたちの心をつかんだ通学用靴「瞬足」。2003年の発売から20年が経つ今も、根強い人気を誇る。大きな特徴は、靴底の左足外側と右足内側に滑り止めを多めに施した左右非対称のソールだ。通学履きが、左回りで走る校庭のトラックを攻略できるとして、保護者の間でも話題になった。「瞬足」の開発にあたり、津端さんはまず、小学校で子どもたちの足元を定点観測した。写真に「きつそう」「留め具がゆるい」と細かなメモを記し、撮影した20年分のデータをシリーズの改良に生かした。左右非対称が身体に悪いのではないかという声も届いたが、順天堂大学スポーツ健康科学部のバイオメカニクス研究室と共同で「瞬足」の動作解析を行い、一般の靴の足圧データと違いがないことを証明してみせた。
「瞬足」は、靴業界で開発が後手になっていた上履きにも革命を起こした。昭和のままのデザインは、足が細く、足囲が狭くなっている現代の子どもにはフィットしない。調査によって、脱げないよう靴の中で足の指を曲げてしまうため、足趾(足の指)の機能が衰えている子どもが多いことがわかり、成長期の足に配慮し、足囲や屈曲性にこだわった上履きを企画開発。そして、2018年に「瞬足@スクール」が誕生し、こちらも好評を得ているそうだ。
脚には全身の筋肉の3分の2が集まり、歩くことで血液を心臓に送り出すポンプのような役割を果たしていることから、「第二の心臓」と呼ばれる。だが、近年は生活スタイルの変化により歩く機会が減少。特に、子どもの外反母趾や浮指、偏平足といった足のトラブルが増えており、放っておくと身体全体に不調をきたす可能性がある。アキレスは靴メーカーとして発達過程にある子どもの「足を守る社会的責任」があると考え、2013年に「アキレス足育宣言」を発表。同時に「足育の出前講座」を実施し、小学校で子どもや教員に、正しい靴を選び、正しく履くことの大切さを伝えている。津端さんも足育カウンセラーとして都内の小学校に赴き、子どもたちの足を計測したり、保護者に子どもの足の成長を見越した靴の選び方などをレクチャーしたりしている。
「足の不具合を放置すると、最悪の場合は歩けなくなる。でも、正しく足が成長すれば、財産になるんです。すごく大事なことなので、学校の先生方には子どもの足元も見守ってもらえるとありがたいですね」と、津端さんは話す。現在は、日本ゴム履物協会が推進する足型測定事業にも取り組む。競合他社を含む、靴メーカー11社が参画し、購入した高精度計測器を各社持ち回りで保有し、さまざまな足型を計測する共同プロジェクトだ。蓄積したデータから日本人の足の特徴を読み取り、各社共通の靴の木型を作れたら、メーカーによってサイズ表示や足入れ感、フィット感が違うということが起こりにくくなる。「お客様が困らないような靴を作っていければ」。津端さんはこれ からも理想を追求していく。
PROFILE ● つばた ゆたか
1960年生まれ、新潟県出身。中央大学卒業後、1986年にアキレス株式会社に入社。35年間にわたりシューズ事業部に在籍し、営業を経て、企画開発事業に携わる。2003年に発売した子ども用運動靴「瞬足」は、年間最高650万足を売り上げる大ヒット商品となった。2021年に定年退職し、現在はアキレスの足育カウンセラーや、シューフィッターとして、靴選びの大切さを広く伝えている。