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GIGAスクール構想とICT活用

道徳授業 私の実践 子どもが思わず話したくなる授業 〜発問構成×ⅠCT活用の工夫〜

(2023年10月12日更新)

宮崎県延岡市立東小学校教諭
宮田 諒

はじめに

私は、子どもたちが自ら考えたり、議論したりすることを楽しむ道徳授業を目指しています。そのためには、子ども自らが話したくなる工夫が大切です。
今回は、発問構成とICT活用を工夫することにより、子ども一人一人が自分の考えを持った上で、思わず話したくなる道徳授業を目指して授業に取り組みました。

授業の概要

○主題名 権利と義務のバランス
○内容項目 規則の尊重
○教材名 「お客様」(『新・みんなの道徳 5』学研)
○ねらい 登場人物の心情を考えることを通して、自分の権利ばかりを主張すると他人の権利を脅かす可能性があることに気付き、自他の権利を尊重し、義務を果たしていこうとする態度を育む。
○教材について 主人公の「私」は遊園地のショーを楽しみにしていたが、ショーが始まると前に立っていた男の人が自分の子どもを肩車したせいで、見えなくなってしまった。係の人が注意するが、男の人は自分が客であることを主張し、注意を聞き入れようとはしなかった。ショーが終わった後も「私」は気持ちが晴れず、きまりについて考え直す。

授業における工夫

【発問構成の工夫】
今回の実践では、さまざまなアプローチで価値に迫っていく発問構成を考えました。実際の発問構成は以下の通りです。
①子どもの実態把握と価値への方向づけを図る発問
②主人公への共感的アプローチを図る発問
③男の人の言動を分析的に問う発問
④男の人の言動を批判的に捉え、自分の考えを示させる発問
⑤主人公のモヤモヤした気持ちを分析的に問う発問
まず、権利と義務について子どもがどんなことを知っているか、実態把握を行い、価値への方向づけをする意図で、発問①「権利と義務についてどんなことを知っていますか」を設定しました。
教材では、目の前で肩車をされショーが見えなかった主人公のモヤモヤが描かれています。そこで発問②「目の前で肩車をされた私はどんな気持ちだったのだろう」を設定し、主人公への共感的視点で考えさせ、男の人への批判が子どもから出ると予想しました。
その後すぐに男の人の言動に共感できるかと発問すると共感できると考える子どもが少ないと考え、男の人に焦点をあて、なぜ肩車をしたのか分析的に考えさせる発問③「目の前で男の人はなぜそんなことをしたのだろう」を設けました。
その後に、男の人の言動に共感できるか否か、自分の考えを示させて議論できるように発問④「男の人の『お客様なんですよ』の発言に共感できますか」を設けました。③を入れたことでこの発問で、男の人の言動に共感できるところもあるのではないかと考えを揺さぶり、子どもが自由に話せるきっかけをつくりました。
最後に、自分の権利ばかりを主張すると、周囲の人の権利を奪ってしまうことに気付かせたかったので、主人公のモヤモヤした気持ちを分析的に考える発問⑤「なぜ私はモヤモヤして遊園地を後にしたのだろう」を中心発問としました。

〜発問構成の工夫から見えたもの〜
この発問構成で、自分の考えを伝えたいという思いが高まったと感じます。発問③を入れたことで、「確かに男の人の気持ちも分かるけど」という発言が見られ、一方的で表面的な発言にとどまらず、子どもが自ら納得解を導き出そうとする姿が見えました。
【ICT活用の工夫】

Google Jamboardで子どもの考えを示させる。(名前は加工済)

前述の発問構成の中で、発問④では、ICTを活用して自分の考えを示し、自分と友達との考えの違いが視覚的に分かるようにしました。
実際の子どもの様子と発言を紹介します。
T:男の人の「お客様なんですよ」の発言にどれくらい共感できますか。
C全:(ジャムボードで考えを示す)
C1:絶対いちばん右はしだ。
C2:全然共感できない。
C3:私も共感できない。
T:共感できない人が多いね。
C1:(真ん中に示したC4に向けて)何で真ん中の場所に置いたの?
C4:スタッフの人の立場から考えたら守らせないといけないけど、見るために遊園地に来てるし仕方ない。
C2:みんなに権利があるからね。
C4:子どもが見たいって言ってたので真ん中に置きました。
T:なるほど。じゃあ共感できない人たちは、子どもが見たいって言っても我慢させるってこと?
C1:そうじゃなくて、一人だけっていうのはだめだと思う。
C2:どっちもお客様だし、同じ権利があると思う。
T:みんな同じ権利ってどういうことだろう。
C5:みんな平等で、その人だけが特別じゃないってことだと思う。

〜ICT活用で見えたもの〜
クラス全員の考えを示す位置が同時進行で見えることから、真ん中へ示した友達に質問する様子が見られました。私が話し合いを促さずとも、子ども同士で自然に議論が進められていました。友達の意見を聞いて、自分の考えを改めたり、納得したりしながら、権利という言葉を使って価値観を深めることができていました。

おわりに

子どもが思わず話したくなる授業を目指して、発問構成とICT活用の工夫を行いました。
登場人物に共感的に考えさせるだけではなく、分析的に考えさせたり、批判的に考えさせたりすることで、中心発問が生きる発問構成が重要だと考えます。
また、ICTを活用することで、全員の考えが視覚化でき、子ども同士で質問し合ったり、考えを改めたりするきっかけになると感じました。今後も、自由に発言できる雰囲気づくりに励み、自分の考えを持ち、伝え合える工夫を取り入れていきたいです。そうすることで、子どもも教師もさらに楽しさを味わえる道徳授業ができるのだと思います。

(みやた りょう)