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道徳授業 私の実践 ChatGPTを教室のメンバーとして「使う」

(2023年11月30日更新)

山形県高畠町立和田小学校教諭
近野 洋平


2023年2月、たまたま見ていたネットニュースに「ChatGPT、史上最速でアクティブユーザー数1億人に到達か」という見出しがありました。そこで実際に使ってみたところ、間違いなく社会に大きな影響を与える技術であることを確信し衝撃を受けました。
そして現在は、「生成AIを使うか? 使わないか?」ではなく、「生成AIを使わざるを得ない時代において、その技術をどう使っていくか?」という段階に入っています。
ChatGPTは実際に物事を「理解」しているわけではなく、どの単語が特定の単語の後に続く可能性が高いのかを認識しています。そのため、出力する回答は基本的に「予測」に過ぎません。回答に誤りや納得できない内容が含まれることもあります。
私はこの部分に、「人間らしさ」を感じました。人間も手元にある経験や知識を頼りにして解決策を模索します。そう考えたときに「授業の中でChatGPTを教室のメンバーとして活用すれば、生成AIとの向き合い方に加え、生成AIとのやり取りを通して新しい視点や考えが生まれるのではないか」という仮説が浮かびました。 そこで、人間が開発した「人工物」であるという点を子どもたちに伝えた上で、道徳の授業で、「教室のメンバーとしてChatGPTを『使う』」という実践を行いました。

教材について

○主題名  正しいと判断したことは自信を持って行うこと
○内容項目 善悪の判断、自律、自由と責任
○教材名  「言い出せなくて」(『新・みんなのどうとく 3』学研)
○ねらい  人の考え、生成AIの回答を踏まえ、最終的に自分が正しいと判断したことは自信を持って行おうとする心情を育てる

授業の概要

【導入】
T:今日の授業には、ChatGPTさんにも参加してもらいます。以前、ChatGPTを見たときに、使ってみたいなと思った人?
C:(ほとんどの児童が手を挙げた)
T:どうして使ってみたいと思った?
C:なんでも答えてくれそうだから。
C:便利そうだから。
T:みんなは「学習」でChatGPTを、どんなことに使ってみたい? ノートに一つ書けたら教えてください。
C:算数の問題を出してもらいたい。
C:野菜の育て方を教えてほしい。
T:普段の「生活」でChatGPTを使うとしたら、どんな風に使う? ノートに一つ書けたら教えてください。
C:料理の作り方を教えてもらいたい。
C:足を速くする方法を教えてほしい。
T:ここまでChatGPT、つまり、AIはどんなことに使えそうかということを考えてみました。では、もしみんなが自由にAIを使えるとして、AIに頼る人? 頼らない人?
C:(挙手がおよそ半々に分かれた)

【展開】
T:次は、教科書を読みますね。主人公になったつもりで聞いてください。
T:(「学校に行く足取りが重くなった。」まで読んだら)教科書を閉じます。
T:かずやさん、悩んでいましたね。友達同士のトラブルって、なんだかお腹が重たくなる感じがしない? そういう経験ある人? うんうん、先生もあります。友達との関係に悩んだとき、ChatGPTさんは何かアドバイスをくれるかな? 相談してみますね。

入力した文章
友達に嫌なあだ名で呼ばれて困っています。でも嫌だと言い出せません。周りの人たちも、同じあだ名で呼び始めました。だんだん学校に行くのが嫌になってきました。僕はどうすればいい?

ChatGPTの回答(原文ママ)
友達に嫌なあだ名で呼ばれて困っている気持ちは、とても分かります。その問題を解決するために、次のステップを試してみることができますよ。

優しく話してみる:友達に、そのあだ名が嫌だと感じていることを伝えてみましょう。ケンカを売るつもりじゃないんだけど、そのあだ名が気に入らないことを伝えることが大切だよ。

先生や大人に話す:学校の先生やお父さん、お母さんに相談してみるのもいい考えだよ。みんなが楽しく過ごせるように手助けしてくれるかもしれない。

自分を大切にする:自分を大切にすることも大事だよ。あだ名のせいで嫌な気持ちになるかもしれないけど、好きなことをする時間を作ったり、素敵な友達と遊んだりして元気を出してみてね。自分を守ることはとても大切です。どうしても嫌なことは言わないままでいるのではなく、解決策を見つけるために試してみてくださいね。

C:こんなに詳しく答えてくれるんだ。
C:解決方法も一つじゃないんだ。
T:この物語にChatGPTさんがいたらかずやさんは頼っていたかな?
C:頼ってた。
C:頼ってなかったと思う。
T:じゃあ「自分が」友達との関係に悩んだとき、ChatGPTに頼る? それとも頼らない?
C:(3割ほどが「頼る」、7割ほどが「頼らない」に挙手した)
T:どうしてそう思いましたか? 理由をノートに1行で書けたら持ってきてください。(持ってきたら板書させ、後ほど全体で共有した)
C:私は頼ります。いろいろ解決策を教えてくれるから。
C:まずお父さんやお母さんに聞いて、解決できなかったらAIに相談する。
C:私は頼りません。だってAIに頼ったら、人生でずっとAIに頼ってしまうかもしれないからです。

【終末】
T:AIの回答を「そうだな」と思うのか「違うな」と思うのかは、最終的には誰が判断するの?
C:自分たち。
T:そう、自分だよね。みんなの発表を聞いていて、「頼る」のではなくて、「使う」という意識でAIとつき合っていってほしいと思いました。今日の授業の振り返りを書きます

おわりに

子どもが思わず話したくなる授業を目指して、発問構成とICT活用の工夫を行いました。
登場人物に共感的に考えさせるだけではなく、分析的に考えさせたり、批判的に考えさせたりすることで、中心発問が生きる発問構成が重要だと考えます。
また、ICTを活用することで、全員の考えが視覚化でき、子ども同士で質問し合ったり、考えを改めたりするきっかけになると感じました。今後も、自由に発言できる雰囲気づくりに励み、自分の考えを持ち、伝え合える工夫を取り入れていきたいです。そうすることで、子どもも教師もさらに楽しさを味わえる道徳授業ができるのだと思います。
授業後、ある子が次のような考えを発表してくれました。
人間にできてAIにできないことは個性を持つことです。人間は一人一人の個性があるけれど、AIは人の手によって作り出された物なので、個性を持てなくて〜(以下略)
人工物であるAIと人間との違いを「個性」という視点で捉えています。
道徳科に限らず、授業では子どもたち一人一人の個性を大切にします。その授業の中に「個性のない」AIをあえて登場させることで、「自分だったらどうするだろう」と、自分自身の個性に向き合いやすくなったと感じます。 道徳科の目標は「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」ことです。AIはその道徳性に少なからず影響を与える技術だと思われます。AIの判断も踏まえた上で「自分ならどうする」と考える機会は、今後を生きる子どもたちにとって必要な時間なのではないでしょうか

(こんの ようへい)