道徳授業 私の実践 パワーポイントと、一人一台タブレット端末を活用した道徳科の授業実践
(2023年1月27日更新)
山形県上山市立南小学校教諭
我妻 友美
はじめに
GIGAスクール構想が本格化し、山形県上山市でも、通信会社が提供するクラウド型プラットホーム「まなびポケット」を導入し、様々な学習活動で活用している。
「特別の教科 道徳」では、答えが一つではない道徳的な課題を子どもたちが自分事として捉え、向き合うことが重視されている。また、「考え、議論する道徳」への転換により、道徳性を養うことが求められている。一人一台端末の時代が到来した今、道徳科の目標に示されている学習が、より効果的に行われるようにするための手段として、ICTの有効活用が必要と考え、授業実践に取り組んだ。
授業の概要
〇実践学年 上山市立南小学校4年生
〇主題名 本当の友達
〇内容項目 友情、信頼
〇教材名 「泣いた赤おに」(『新・みんなの道徳 4』学研)
〇教材の概要 山形県高畠町出身の作家、浜田廣介氏が1933年「おにのさうだん」という題で発表した物語をもとにした教材である。人間と仲良くなりたい赤おにが、自分を犠牲にして手助けしてくれた青おにの思いに気付き、涙する内容となっている。「友情、信頼」の教材として、小学校の低・中・高学年、中学校での実践例があり、発達段階とねらいに応じて多様な指導方法が工夫されている。
〇ねらい 赤おにと青おにの思いを多面的・多角的に捉えることを通して、本当の友達について考え、友達と思い合う大切さを理解し、よりよい友達関係を築こうとする態度を育む。
授業の実際
【導入】
○事前アンケートの活用
ねらいとする価値に関わる実態を把握するため実施していた「あなたの考える友達とは、どんな人ですか」の事前アンケート結果を紹介し、価値への方向付けを行った。アンケートでは、
・仲がいい人。
・よく遊ぶ人。
・話が合う人。
・一緒にいて楽しい人。
・優しくて相談できる人。
・困ったときに助けてくれる人。
などの意見が多く、自分の気持ちや都合を優先して捉えている実態を把握することができた。
○パワーポイントを用い、紙芝居風の読み聞かせで内容の理解を助ける。
次に、学習課題「本当の友達とは、どういう人かを考えよう。」を提示し、赤おにと青おにの会話や挿絵を紙芝居風にしたパワーポイントを使用して教材文の読み聞かせをした。長文の教材文では理解が難しい児童も、電子黒板の大きな画面に映し出される教材に集中し、作品に入り込む姿が見られた。
【展開】
○赤おに、青おに、それぞれについて考えさせ、相手に対する友情の深さを多面的・多角的に考えさせる。
発問 二人についてどう思いましたか。
○赤おに
・素直で優しくて、人間に親切。
・人間が好きで人間思い。
・青おにをもっと大切にしてほしい。
○青おに
・とても友達思いで優しい。
・赤おにをすごく大切にしている。
・いつも友達の赤おにのことを考えている。
子どもたちは、二人とも優しいおにだと考えていたが「青おにの方が友達思いだ。」という意見も多かった。また、「赤おには、人間と仲良くなるより、自分を大切にしてくれる青おにをもっと大切にした方が良かった。」という意見も出た。
○まなびポケットの「SKYMENU」ポジショニング機能で、考えの揺れ動きを可視化し、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めさせる。
発問 自分が赤おにだったら、この後、どうしますか。
子どもたちは、課題を自分事として捉え、「そのまま暮らす」か「青おにを探しに行く」のか、自分の考えをマーカーで示し、理由をコメント欄に書き込んだ。その後、子どもたちの考えを重ねて表示し、共有しながら、互いの考えに基づいて議論した。
○青おにを探す
・青おににつらい思いをさせたまま、自分だけが幸せになるわけにはいかない。
・村人たちに本当のことを話し、だましたことを謝って、青おにを探しに行く。
・青おにが自分にとっていちばん大切な友達だったと分かったから、何年かかっても探し出し、また仲良くしたい。
・自分勝手だったことを謝り、一緒に戻ってもらいたいと伝える。
○そのまま暮らす
・青おにの願いは、赤おにが村人とずっと仲良く暮らすことだから、探さずにそのまま幸せに暮らす。
・青おにの苦労が全て無駄になるから、青おにのためにも幸せに暮らす。
・青おには「作戦がうまくいって、赤おにさんは幸せに暮らしている。」と、喜んでくれているはずだから、探さない方がいい。
・青おには「会えなくても友達の赤おにが幸せならぼくも幸せだ。」と思っているから、青おにのためにも、もっと幸せになるようにがんばる。
全体交流では、当初、「青おにを探す」という考えが多かったが(図1)「そのまま暮らす」という考えを聞いて、自分の考えが揺さぶられる児童の様子が見られた。(図2)
ポジショニング機能では、議論の中で考えが変わった場合、何度でもマーカーを再配置することができ、結果がリアルタイムに反映される。(図1・2)全員の立ち位置が把握できるだけでなく、議論を通して、迷ったり考えを変えたりしている考えの揺れ動きが可視化され、全体で共有できることが学びを深めるために効果的であった。
教員用端末画面でマーカーの移動量に応じた○の大きさを表示し(図3)変化の大きかった児童や、揺れ動きがありながらも当初の考えに戻った児童の考えを聴くことを通して議論を深めた。(図4・5)その中で、子どもたちは多面的・多角的な思考を通して、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めることができた。
【終末】改めて自己を見つめ、端末の発表ノートに「本当の友達」についての考えを書き、共有する。
子どもたちは「本当の友達」を、
・離れていてもずっと大切な人。
・会えなくても信じられる人。
・お互いに思い合っている人。
などと書き、考えを深めている様子が見られた。提出した発表ノートを画面で一覧表示し、スライドで紹介した。ノートはPDF形式で保存し、子どもたちと共有したので、授業後も友達のノートを読み、自分の考えを見つめ直す様子が見られた。
おわりに
ICTを活用し、互いの考えの揺れ動きの可視化や振り返りの共有ができたことは大変効果的であった。
今後も継続的にICTを活用し、子どもたちが自身の成長を実感できる授業記録の保存や評価にも生かしていきたい。
(わがつまともみ)