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教育ジャーナル Vol.31-8
■国立教育政策研究所・戸上琢也統括研究官に聞く「誰もが行きたくなる学校」
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」
“支える”かかわりで誰もが行きたくなる学校へ
【全3回】(第2回)
■国立教育政策研究所・戸上琢也統括研究官に聞く「誰もが行きたくなる学校」
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」②
“支える”かかわりで誰もが行きたくなる学校へ
全3回【第2回】
取材・文 今井美栄子
不登校の未然防止のために立ち上がった「こどもの発達を支える生徒指導に関する調査研究事業」。今回は、具体的な取組についてうかがった。
◆発達支持的なかかわりで「居場所づくり」を
――本事業の実践校では、具体的にどのような取組がありましたか?
戸上「居場所づくり」につながる「安全・安心な風土」「共感的な人間関係」の視点を生かし、生徒会や委員会で校則見直しや不登校を生まない魅力ある学校づくりに取り組んだ例があります(事例※1、2、3 参照)。
先生方も最初は不安なわけですよね。子どもたちに委ねると突拍子もないことを言い出すのではないかと。でも、意外と子どもたちはルールの意味を理解して、前向きな取組になっていると聞いています。それは活動の前段として、「道徳」の時間などを使い、規則やルールの意味や意義、遵法精神や公徳心といった内容を、きちっと押さえているからだと思います。「ルールはなんのためにあるのか?」というところから始まり、子どもたちが、自分たちで自分たちの学校をつくるんだという意識で取り組めているのではないでしょうか。
今、「こども基本法」でも、発達段階に応じた子どもの意見表明が大切だといわれています。それを居場所づくりにも生かしていくということですね。校則の見直しだけではなく、いろんな学校行事でもできます。例えば運動会の学年種目とか(事例※4)。
――学校づくりに子どもの意見を取り入れるということですね。ただ、自由な発言を促されても、意見を言うことはハードルが高いと感じている子どや、「これはこういうもの」と刷り込まれてしまっている子どももいるのではないでしょうか。
戸上 そうですね。わからないかもしれない、できないかもしれない、否定されるかもしれないなど、いろいろな不安がありますよね。先生たちがちゃんと自分たちの言うことを聴いてくれるという安心感がないと意見は言いにくいでしょう。そのためには「安全・安心な風土の醸成」が必要なのです。
――そのような風土を醸成するには、どのような方法があるでしょうか。
戸上 例えば、授業で振り返りをするとき、私たち教師は児童生徒によく「気づいたことやわかったことを書きましょう」や「わかったことをペアで話し合ってください」などと投げかけますね。でも、「今日の授業でわからなかったことはなんですか?」と聴くことはあまりないのではないでしょうか。
――そうですね。ネガティブな問いかけはあまり……。
戸上 先生にとっては授業評価につながる部分もあるので、なかなか聞きづらい面があると思うんです。わからないことに対してネガティブイメージをもっている子どもも少なくないでしょう。先生が「わからない」を拾う場をちゃんと設定して、受け止めているという姿勢をしっかりと見せることが大切です。わからない自分をさらけ出していい、自分の「わからない」はみんなの学びになる、という経験。それが安全・安心な風土の醸成につながっていくのだと思います(事例※5)。
校則の見直しでも同じ。意見を聴いたら、ちゃんと職員会議にも提案して、大人の意思決定ルートに乗せ、結果を共有する。そして結果を議題にしてまた話す。そういう「ちゃんとみんなの意見を聴いている」という姿勢に、安全・安心を感じられるのです。
――「居場所づくり」には、「安全・安心な風土」とともに「共感的な人間関係」も必要ですね。
戸上 共感的な人間関係を育成するポイントは、お互いに認め合い、励まし合える集団になるということです。
子どもたちは、当たり前なことが当たり前にできることがすごいということに気づいていないケースが多いんですね。大人も「こんなことぐらいは当たり前」と思っていたりしますしね。それに気づけるようにし、認め、励ます声かけをしていくのです。
――確かに、その気づきが足りていないお子さんが多いような気もしますね。
戸上 周りの期待が高くて、やってもやってもまだ自分が認められないと感じているのかもしれません。
だから、家庭学習のノートでも、丁寧に字が書けていてすばらしいと、ちょっとしたことでも認め、励まして、「自分はできているんだ」という気づきを与えてあげたいですね。マイナスではなくプラスのところに目を向けて。
集団なら、例えば、教室が整ったときの写真を掲示して、「当たり前を当たり前にできていて気持ちがいいね」と見える化するのもいいでしょう。自分たちで決めたルールで行動できていることは、当たり前だけれど、とっても大事なことなんだよと価値づけてあげるのです。
クラスの成長年表などを掲示するのもおすすめです(事例※6)。見返すことで、子どもたちに充実感が生まれます。
――写真を撮るというのは、先生のまなざしがそこに向いてるよ、ちゃんと見ているよということですから、説得力がありそうですね。
戸上 もちろん声かけだけでも有効です。「チャイムが鳴っているのになんで飛び出しているんだ?」ではなく、「チャイムが鳴ったら座っていて偉いね」といった「前向き行動支援」を意識したいですね。課題のある子に注目しすぎて、いわゆる「何もない」子どもたちを置いてきぼりにするのではなくて、「何もない」子どもたちにこそ焦点を当てて、見ているよと伝えていくこと。それが、発達支持的生徒指導で大事なところです。
「ちゃんと見てくれていた」「こんな言葉をもらってうれしかった」という経験から、子どもは「自分もそうやればいいんだ」と気づき、今度はそれを友達にもやってみようとする。友達のいいところに目を向けてみようとする。それが「共感的な人間関係の育成」につながるのです。
――課題のある子も「自分もそうしよう」と思ってくれるといいですね。
戸上 このような集団づくりをしないで、いきなり「じゃあ、みんなで次のレクリエーションを考えてごらんなさい」と言ってもできないでしょう。「安全・安心な風土」と「共感的な人間関係」が土台になって、誰もが自分の思いを気兼ねなく言えるという関係性ができている「居場所」。まずは、それをしっかりつくっていかないといけないということです。
――不登校の多さを考えると、今はまだ、この「安全・安心な風土」や「共感的な人間関係」が足りていないという現実があるということですよね。それはなぜでしょうか?
戸上 一番の原因は、今まで「教える」や「何かをさせる指導」に主眼が置かれていて、教師の指導性がすごく強かったことではないでしょうか。生徒指導は問題行動を正すこと、ルールを提示して指導すること、そういうイメージが多分にあった。教師主導でやったほうが早いですから、集団が管理的なものになっていたわけです。
――そのように「上」から動かすのではなく「下」から支えるという、まさに、考え方の180度転換ですね。それをやろうと思ったら、職員室でも「難しいです」「うまくいきません」と言える風土が大事なのではないでしょうか。
戸上 子どもが正直に失敗を申し出てきたとき、思わず「何やってんの!?」と言ってしまったことはありませんか? そうすると、子どもは「もう怒られるから言わないでおこう」と思うようになり、そういう関係性になっていってしまうでしょう。
子どもの話を〝聴く場〟を設けて、きちんと受け止める。そういう関係づくりができれば、何かあったときもSOSが出しやすいですよね。
大人も同じです。失敗したとき、上司から「きみのここのプロセスはよかったと思うよ。次は一緒に考えてみようか」などと共感的な声かけをしてもらうと、もうちょっと頑張ってみよう、次はこういうふうに工夫をしてみようと、前向きな気持ちになりますよね。
■居場所づくり・絆づくりのための発達支持的な活動事例
❶「校則の見直し」を生徒会主体で行う ※1
「学校が楽しいと思えるときはどんなときか」「どんな学校なら毎日通いたいと思うか」をテーマに、生徒会が中心になって全校生徒で話し合い、意見を具現化した。
→「なぜそのルールがあるの?」「居心地のよい学校にするために、このルールをこういうふうにすればよいのでは?」などと意見を出し合い、子どもたちで自発的自立的にルールづくりをしていった。教師は環境づくりで支えた。
❷魅力ある学校づくりについて生徒が学校に提案する ※2
子どもたちから「誰もが行きたくなる、安心して過ごせる学校にするには?」という議題が出て、各学級で意見を出し合い、オンラインで全教室をつないで、子どもたちが授業者になって意見をまとめ、先生方に提案した。
❸委員会・クラブ活動について児童が企画書を出す ※3
委員会活動で子どもたちが企画書を書いて自らやりたいことを実現。クラブ活動の内容も子どもたちからの意見をもとに決定。
→「自分たちで決めたことだから」と進んで行い、よい表情が見られ、充実感を味わうことができた。
❹運動会のプログラムや種目を子どもたちが考える ※ 4
表現、ダンス、曲決め、振りつけを、子どもたちにある程度考えさせた。競技は、「運動の得意、不得意があっても楽しめるルールってなんだろう?」という視点で話し合った。
→自分たちで決めたものなので、練習もやろうという意識になった。応援団など異なる学年で教え合うことが、絆づくりになった。子どもたちの達成感がかなりあり、満足そうな表情を見て教師もやりがいを感じた。
❺わからなかったことを子どもたちに聴く ※ 5
授業で今日の学習のポイントを振り返ったあとに、先生から子どもたちに「最後に今日よくわからなかったところ、ちょっと不安なところはないですか?」「先生ならここがよくわからないと思ったのですが、皆さんはどうですか?」などと問いかけ、わからないところを出し合った。タブレット端末の振り返りアンケートに書いてもらって一覧化する場合も。「ここがわからないっていう人がたくさんいたから、次の時間の最初に、もう一度みんなで確認してから始めましょう」と声をかけ、次の授業に生かした。
❻クラスの成長年表で成長を見える化する ※ 6
クラスの年表をつくり、「こういう行事をやってきた」「こういうふうに準備を頑張った」「見えないところで、こんな活躍をしてくれた人がいた」といったことを書き込んだり、「全員が椅子と机をきれいに整頓できた」などの成果を写真掲示して見える化したりした。「できたね!」を価値づける言葉を添え、集団としての成長を振り返られるようにした。
(第3回に続く)
次回の予定
6月8日(月)
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」③