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教育ジャーナル Vol.31-9
■国立教育政策研究所・戸上琢也統括研究官に聞く「誰もが行きたくなる学校」
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」
“支える”かかわりで誰もが行きたくなる学校へ
【全3回】(第3回)
■国立教育政策研究所・戸上琢也統括研究官に聞く「誰もが行きたくなる学校」
「発達支持的生徒指導」で 今すぐできる「居場所づくり」「絆づくり」③
“支える”かかわりで誰もが行きたくなる学校へ
全3回【第3回】
取材・文 今井美栄子
不登校の未然防止のために立ち上がった「こどもの発達を支える生徒指導に関する調査研究事業」。最終回は、具体的な取組についてさらにうかがい、事業のポイントや成果についてまとめていただいた。
◆「絆づくり」は発達支持的に「仕掛けて、委ねる」
――安全・安心な風土と共感的な人間関係で、気兼ねなく自分の思いを言える居場所ができたら、次は「絆づくり」ですね。
戸上 子どもたち同士で学び合って成長していける「自己決定の場」と、「こういうことができた」「自分が何かの役に立った」という自己肯定感や自己有用感を育み、集団の一員として自己存在感の感受ができる「機会」。この二つがないと「絆づくり」はできません。そこで、教師の仕掛けが必要になってくるのです。
例えば、学級での活動や学校行事などで、一人一役で役割分担をするのもいいですね。お互いに自分の得意なところでクラスに貢献したり、自分のよさに気づいて自己存在感を感じたりできます(事例※7)。子どもたちの中から出てきた“やりたい”を受け止めて学級会で話し合ってみるのもいいでしょう。そのあたりの促し方は先生の工夫のしどころですよね。
――絆づくりの「場」や「機会」を生み出すための具体例はありますか?
戸上「この活動で何をしたい?」「これについてどう思う? 」といった自己決定を促すような働きかけは授業の中でもできますね。
「ここの部分だったら、あなたたちがやってもいいよ」という活動のフレームを決めて、そこを子どもたちに委ねてみてもいいでしょう。
特に、異学年交流などは絆づくりの場にぴったりです。小学校体験入学で園児に紹介する場所を、子どもと一緒に考えるのもいいですね(事例※8)。授業でわかったことを発表する、他学年に伝えるなどのアウトプットも自己存在感を高めてくれます(事例※9)。
――確かに「例年こういう段取りで、場所はここで」というふうに、なんとなく決まってしまっている行事ってありますよね。そこから一歩踏み出してみるのもいいですね。
戸上 活動に4視点が生かされているかどうか考えることは、前例踏襲でやっていたものを見直すきっかけになるかもしれません。
「本当に子どもたちのためになっているのか?」「先生が勝手によかれと思ってやっていないか?」「大変なだけで先生も児童生徒もただの我慢上手になっていないか?」。
もしもそう気づいたなら、その活動はバッサリ切るか、やり方を変えてみたほうがいいでしょう。
例えば、活動のフレームを昨年よりちょっと広げてみるとか、子どもの選択範囲をちょっと広げてみるとか。フレームを広げても、意外と子どもは混乱することはなく、自分で考えられるものです。ある程度の準備は必要ですけれども。なにより子どもを信じることが大事です。
例えば、異学年交流で6年生と1年生が一緒に昔遊びをするときなどに、1年生の先生が見かねて援助してしまうことがあります。それだと、せっかくの子どもたち同士の絆づくりの場が、教師主導の場になってしまいます。お世話をした6年生の子は自己存在感が感じられませんし、自己決定の場でもなくなってしまう。指導や援助になってしまったら、発達支持的生徒指導とはいえません。
見守るべきところはしっかり見守り、「こういうところがよいね」と声かけをしながら、あくまで子どもたちが何をしたいのかという思いを大事にする。それを支えるような働きかけをする。
逆にいうと、先生が手出しをせず、働きかけや声かけですむように、事前にきちっと環境整備をしておくということです。
――子どもから意見を引き出す工夫はありますか。
戸上 そこは、私の専門である道徳では特に大事にしているところです。私は意識して、誰でも答えられるような問いを用意します。
誰でも参加できるように活動設定をすることで、参加できた、何かに貢献できたと感じられれば、それは達成感につながっていきます。
ちょっとした発問や声かけのひと工夫をする。わからないという声も拾ってみる。子どもたちに聴きながらやる。そんなことだけでも、変わってきますよ。それなら、先生方も授業の中で明日からでもできるのではないでしょうか。
その取組を、授業レベルから学校行事レベルへ、地域連携レベルへと広げ、どのように学校づくりをしていくか、それぞれの学校で考えていってほしいと思います。
◆ 学校全体で取り組んでいくために
――学校レベルで取り組んでいく場合のポイントはあるでしょうか。
戸上 一つテーマを設けることでしょうか。先生方が取り組みやすい、その学校の実態に合ったテーマを設けることで、学校全体の取組にしていくのです。各先生、各教室でバラバラな取組だと、学校全体が安全、安心な居場所にはなりませんから。
なかなかよいテーマを思いつかなければ、ずばり「こどもの発達を支える生徒指導」でもいい。授業や特別活動との関連もわかりやすく、カリキュラム・マネジメントもしやすいでしょう。
――学校全体の行事などでは、クラスによって差が出てしまうことを先生が気にされて、“支える”からブレてしまうこともあるのではないかと思います。そういう場合は先生同士で支え合うことも必要なのではないでしょうか?
戸上「教職員集団の同僚性」は大切ですね。生徒指導の基盤とされているものの一つで、
PDCAで生徒指導マネジメントを回すためにも必要となってきます。
本事業では、学期ごとに年3回、子どもたちに意識調査をしています。項目は「学校が楽しいか」「みんなで何かをするのは楽しいか」「授業に主体的に取り組んでいるか」「授業がよくわかるか」の4問。調査の前に学年の先生方で「1学期こういう取組をやってきたから、肯定的な評価や意見が出るだろう」などと見積もります。そして、実際の調査結果と大きなズレがあったときは、それはどこから来ているのだろうと考え、取組を点検し、見直していくのです。
例えば、1学期の最後に「みんなで何かをするのは楽しい」という回答が思った以上に少なかったら、2学期はこういうふうな絆づくりの場を設定して、学校行事でこういう仕掛けをしていこう、と話すわけです。
このようなPDCAサイクルの中で子どもたちの生の声を生かし、どうやったら子どもたちに楽しいと思ってもらえるかを工夫していくことは、教師のやりがいになると思うのです。意識調査をするだけではなく、取組を振り返って、「こういうふうにしたら子どもたちはよかったよ」「この間の取組はすごく楽しいって言っていたよ」と、子どもの姿で語り、話し合う場を設ける。そのことで先生方の同僚性も高まっていきます。発達支持的生徒指導は、1クラスだけでできるものではないですからね。
――生徒指導提要では、生徒指導の基盤として「教職員集団の同僚性」「生徒指導マネジメント」のほかに、「家庭や地域の参画」も挙げられていますね。
戸上 家庭とも共通理解を図り、地域の人たちを巻き込みながら、一緒に子どもたちを支えていくということです。
例えば、学校だけでその子のよい点や成長した点を認め、励まし、促しても、家に帰って否定されたら、またそこでガクンとなってしまう。やはり学校にいるときだけではなく、家庭や地域すべてにおいて安心・安全でないと、バランスが崩れてしまいますよね。学校だけで自己有用感とか自己肯定感を育もうとしてもなかなか難しいでしょう。
――例えば、職場体験では、先生方はお店に迷惑をかけないようにとルールをたくさんつくって、子どもたちをがんじがらめにしてしまいがちです。一方で、お店側は「迷惑かけてもらってもいいのに、それが学びなのに」という気持ちがあったりする。もし、地域と先生が同じ目的を共有して取り組めれば、先生が気にするところも違ってくるだろうと思います。「子どもたちが迷惑をかけませんでしたか?」ではなく、「この子はこのお店でこんなことができたんですね!」と。
戸上 そうですね。家庭や地域に向けて「本校では子どもたち同士のこういうかかわりを大事にしています」「子どもたち自身が学校をつくるような取組をやっているのですよ」としっかり発信することが必要です。
地域の人に「絆づくり」の活動や行事に参加してもらったり、総合的な学習の時間にこちらから出て行って、地域の人と一緒に何かをつくったりするのもいいですね。「こういうことを地域でやってみたい」と子どもたちから発案すれば、自己決定の場になります。地域の役に立ったという経験は、自己存在感の感受にもつながります。
絆づくりでは、そうした地域との連携も大事だと思いますね。地域のためになることをしたり、地域の何かに参加したりすることは、将来的には地域に恩返ししたい、貢献したいという気持ちの醸成にもつながります。
◆学習指導と生徒指導の一体化は自然なこと
戸上 よく「授業の中でどうやって生徒指導をするんですか?」「授業の中で問題のある子を呼び出して指導するんですか?」などと聞かれることがあるのです。けれど、発達支持的生徒指導は、子どもたち一人ひとりの思いを大切にする働きかけや成長を促す声かけです。声かけのない授業などありませんよね。
そもそも安全・安心を感じられなかったら授業は成立しません。安全・安心の中には授業規律も含まれます。でも、安全・安心だけで自己決定の機会がなかったらどうなるでしょうか。それはもう、ただみんな前を向いてひたすら授業を受けているだけ。規律だけで共感的な人間関係のかかわりがないから本音も出せない。とりあえず前を向いて、1日に5時間も6時間も、授業がわからないまま、誰とも交流しないまま、ずっと座っていることは、大人でもきついことです。
学校の中で、子どもが最も長い時間を費やす授業が「しんどい」「つまらない」「わからない」のままでは、なかなかいじめや不登校等の生徒指導上の諸課題の未然防止は難しいでしょう。
発達支持的生徒指導によって学習指導と生徒指導を一体化していかないと、主体的・対話的で深い学びの実現も難しいと思います。学習指導と生徒指導との一体化は、「生徒指導提要(改訂版)」 に示されるとともに︑現行の学習指導要領総則編にも「学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ること。」と示されています。
――この調査研究事業に参加している学校の取組から、どんなことが見えてきましたか?
戸上 例えば、「特別活動」をテーマにして、この調査研究事業に参加している学校では、学習指導と生徒指導の一体化を図るため、小・中学校区で連携し、
1年目は、子どもの声を聴き、学校行事等の学校全体の取組を見直し、
2年目は、学級会の取組を小・中学校区で統一して実践し、
3年目は、各教科の授業をはじめ、あらゆる場面で、というふうに段階的に展開しています。
すべてにおいて、前述の「4視点」を生かすことを意識しますが、「4視点」はあくまで生徒指導の実践上の視点です。具体的に何をしなさいとは書いていないので、実践校では、前述した年3回の意識調査4問の結果をもとに、先生同士で自由にアイデアを出し、先生方も子どもたち同様に主体的に取り組んでいます。3年目には、学習指導の校内研究とセットで、「深い学びの視点」と「生徒指導の視点」からの協議を行い、実践発表をする学校もあります。
4視点からの取組がうまくいっているかは、年3回の意識調査で子どもたちの声を聞き取ることで可視化されるので、先生たちもやりがいを感じていますよ。
ある学校では、先生方への質問で「この仕事にやりがいを感じますか?」の肯定的評価が100%になったそうです。そもそも問題対応ではなく未然防止の取組なので、先生方も前向きにやれるのですね。子どもたちからの先生への反発もなくなり、関係が良好になったという声もあります。実際に本事業が不登校の新規数の減少・抑制につながったという学校もありますから。
働き方改革が叫ばれる今ですが、発達支持的生徒指導とは、新たな取組をしたり、仕事が増えたりすることではありません。今までやっていることを、4視点から意識化し、子どもの声を生かすだけです。そのことで、先生も元気になって、生き生きしてくる。生徒指導の実践上の4視点は職員室にも生きてくるのかもしれません。
目的は、生徒指導上の諸課題の未然防止、学校の魅力向上です。学びの多様化学校や校内教育支援センター等の多様な学びの場は整備され、魅力的な場所も増えてきていますが、今こそ学校本来の役割を改めて再認識しなくてはなりません。誰もが通う学校を魅力的な場所にし、一人ひとりの児童生徒の成長を支えていけるかが、問われているのではないでしょうか。
令和5年6月に出された国の「教育振興基本計画」にも、「発達支持的生徒指導の推進」が掲げられています。課題の対応だけでなく、すべての子どもたちを対象に、子どもたちが自らを成長させていくこと尊重し、それを全教職員で支える。そんな発達支持的な働きかけが重視されているのです。
ぜひ、今回取りあげた「生徒指導の実践上の4視点」をもとに、発達支持的なかかわりができているかどうか、日常のあらゆる取組を点検し、見直してみるとよいでしょう。
――上からではなく下から支える「発達支持的生徒指導」。これは学校だけでなく、子育て、職場など社会すべてに、本来なくてはならない姿勢ですね。だからこそ、問題を未然に防ぐ鍵になるのだと思いました。ありがとうございました。
■居場所づくり・絆づくりのための発達支持的な活動事例
❼学校行事で一人一役リーダーになって活動する ※7
「どうしたら、この行事で自分たちのクラスが達成感を味わえるか」をテーマに話し合い、自分の得意なことや貢献したいことから一人一役を決め、「○○リーダー」として具体的な取組や目標を設定した。教室に掲示し、行事後は振り返りも行った。
→「貢献できた」「喜んでもらえてうれしい」と自己存在感の感受につながった。
❽異学年交流の活動内容を子どもと相談する ※8
「異学年交流の目標は仲を深めること。そのためにどんなことをしたらいい?」「他の学年にどうやったら伝わるだろうか?」「活動の時間内でどんなことができる?」などと問いかけ、子どもたちに考えてもらった。小学校体験入学で園児を迎える際も、「学校を知ってもらうのに、きみたちだったらどんなところを紹介する?」などと聴き、相談しながら進めた。
❾調べ学習を他学年に発表し、フィードバックをもらう ※9
授業の中で、「わかったこと、調べたことを○年生にも紹介したい」という子どもたちの声があり、生かした。「どうやったら他学年にもわかりやすく伝わるか」を相手の立場で考えた上で、子どもたちが自分たちで工夫し、発表した。
◆発達支持的な活動における留意点
●先生と子どもたちで目的を共有する
子どもたちになんでも自由に委ねてしまうと、逆に何をすればよいのかわからず、不安になってしまいます。子どもたちの声を聴きつつ、「そもそもなぜこれが大切なのか」という本質や、「なんのためにするのか」という目的についても共通理解をしておきましょう。
●途中・最後に振り返りを行う
途中で確認や振り返りを行って活動を価値づけ、児童生徒が不安にならないような働きかけをしましょう。選択は正しかったのか、何がよくて何がうまくいかなかったのか、そこから学んで次に何をしたいのか……。最後には、発達支持的な視点で、わからなかったことも一緒に振り返る時間をもちましょう。
(了)
次回の予定
6月22日(月)
「論理的に考え、わかりやすく伝える力」をつける①