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教育ジャーナル Vol.32-4

■探究「シブヤ未来科」
「授業時数」を調整して、ダイナミックに「探究」に取り組む
渋谷区立神南小学校の実践①

【全2回】(第1回)

■探究「シブヤ未来科」

「授業時数」を調整して、ダイナミックに「探究」に取り組む


渋谷区立神南小学校の実践①


全2回【第1回】


教育ジャーナリスト渡辺 研


この取組は、次期学習指導要領の重要な部分になりそうな「探究」と「調整授業時数制度」の実践事例だ。自校での実施をシミュレーションしてみる参考になるだろう。


社会が「探究」に興味、関心を

 令和6年度のスタート以来、学校教育界以外からも注目された東京都渋谷区の探究「シブヤ未来科」(後述)。基本的には総合的な学習の時間なのだが、「探究(的な学び)」を前面に出したことで、広く社会にも関心をもたれたようだ。実際に渋谷区では取組に連動し、子どもたちの学びを支える応援団として、区立学校PTAの現・旧会長等有志が「一般社団法人シブタン(シブヤ探究学習ラボ)」という団体を設立、学校と地域・企業等との連携をサポートしている。

 平成20・21年改訂の学習指導要領「第5章 総合的な学習の時間(小学校)」の「目標」には、「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする」と書かれていた(中学校・高校も同じ記述。余談だが、現行の中学校・総合的な学習の時間と高校・総合的な探究の時間の「目標」の記述もほぼ同じ)。
「なぜ、急に?」というより、理念が現実の形になるには、特に教育では時間を要するのだと捉えたい。


 要因はなんにせよ、“知識の詰め込み”ではなく、課題発見・解決型の学びが学校で重視され、社会的にも認知され協力を得られるようになったのは歓迎すべきことだ。


 昨年12月には、探究の盛り上がりを象徴するようなイベント「シブヤ未来科探究フェス」が開催された。区立全校(小18校・中8校<内、小中一貫教育校1校>)及び幼稚園全4園のうち2園(パネル展示)の代表児童生徒が一堂に会し、それぞれが取り組んできた探究の成果を発表する。数多くのブースが設置され、同級生や保護者、他校の仲間たちの応援を受けてテーマ探究やMy探究の発表が行われた。プレゼンもよく工夫され、自分たちの興味関心や問題意識を共有してほしいという熱量が感じられた。

まさに社会に開かれた教育課程

 探究「シブヤ未来科」について少し紹介する(渋谷区ホームページ及び「シブヤ未来科探究フェス2025パンフレットより引用)。

 渋谷区では令和6年度から、文部科学省の「授業時数特例校制度」を活用して探究「シブヤ未来科」を本格始動した。自分たちが暮らすコミュニティの課題を能動的に解決する体験を通して、子どもたちが「自ら問いを立て、解決策を考え、仲間と協働して新しい価値観を生み出す力」を育むことを目指す。


 いわば、社会のあらゆる事象がぎっしりと詰まった渋谷区そのものを探究的な学習の素材としており、それを有効活用するために令和6年度は延べ500以上の企業・団体(地域の方を含む)が協力し(だからシブタンのようなコーディネーター役が不可欠)、子どもたちはインタビューやフィールドワーク、動画制作などを通じて課題解決のやり方を学んだ。


 もちろん、全国の学校がそれぞれの地域の特色を素材とし、外部人材の協力も得ながら総合に取り組んでいるが、確かに渋谷区の探究のスケールは、話題にされるだけのことはある。世の中に探究を認知させるには、こんなインパクトも必要だ。


 そして、この学び・活動を通して義務教育段階の子どもたちに育てたい力は次の3つ。
・ 自己調整力=自ら考え、判断し、学び続ける力
・ 創造力=好奇心とともに新しいアイデアや価値を生み出す力
・ 挑戦力=困難に向き合い、解決に向けて行動する力


 当然、どこの学校でもこうした力を育てようとしてきたが、それを学校任せにしないことが渋谷区の実践の大きな意義だ。論点整理ではこれを「みんな」と表現している。

各教科から時数の1割を総合に

 これを実現しているのが、「授業時数特例校制度」を生かした教育課程だ。
 以下の図を見ていただきたい。

 
 小・中とも5・6校時は探究「シブヤ未来科」が設定されており、その時間は総合的な学習の時間及び各教科の探究型(探究に関係する)の単元の授業が行われる。そして、まさに今論議されている「教科間の授業時数の調整」の先行事例ともいえるのだが、小3~中3の総合には次のような時数が充てられている(各学年の総合の標準時数は中1が50時間で、他の学年は70時間)。

 ◆小3=+79時間、小4=+82時間、小5=+86時間、小6=+85時間、中1=+80時間、中2=+ 72 時間、中3=+76時間。その結果、例えば小6の総合は155時間。


 調整できる時数は各教科の1割以下。それでこの時数を捻出するには、計算上、総合的な学習の時間及び35時間の道徳、特別活動以外の教科から約1割ずつを総合に回していることになる。


 次期学習指導要領で調整可能な時数の割合がどうなるかはわからない。ただ、渋谷区のように現行制度の枠内でも工夫しだいで柔軟な時数配分が可能であることは、今後の制度設計を考える上で大きな示唆を与えることになるだろう。


 これだけの時数があるので、図の探究基礎〈企業等体験〉、テーマ探究、My探究に時間をかけることができる。
・ 探究基礎(企業等体験)(30~50時間)=体験の基礎スキルを学んだり、企業や地域と連携した体験活動を行ったりする。問いの立て方や情報の収集・整理・分析の方法等を身につける。
・ テーマ探究(70~90時間)=学年や学級で共通のテーマを設定し、仲間と協働で課題を探究する。地域や企業と連携したプロジェクト活動も含まれ、社会とつな
がる学びを実践する。
・ My探究(15~35時間)=子ども一人ひとりが自分の興味や関心に基づいてテーマを設定し、問いを深めていく。自分だけの探究を通じて、主体性と創造性を発
揮する。


 探究フェスでは、中学生が「日本のエネルギーの未来」(My探究)をテーマに、まさに熱弁をふるっていた。小学校に比べて総合の取組に今一つ熱心ではない傾向だった中学校だが、生徒はこんな学びの機会を求めていたのではないか。区全体で取り組むことでそれが実現した意義も大きい。

主体的に課題にかかわる態度

 学校ではこれをどのように実践しているのか、渋谷区立神南小学校でテーマ探究の活動を見せていただき、山口信忠校長に話を伺った。渋谷駅からスクランブル交差点を渡って約10分、「渋谷PARCO」の裏手、正門からNHKの建物も見える。「こんな場所に学校があったの?」と驚くような都会の真ん中に神南小はある。

 探究フェスでの神南小6年生のテーマ探究は「私たちの考える『未来の学校』」。あるグループは「行事」「学び方」「環境」「きまり」の4つについて、「新しい形の運動会」とか「話し合いをたくさんしたい」とか「黒板じゃなくホワイトボードを」とか「制服にポケットを増やす」など、クラス内アンケートや外部のイベントを取材した結果に基づいて、「学校はこうありたい」というイメージを楽しそうに発表していた。


 子どもたちの発表の中に「自分たちでつくる」「選べる」という言葉がしばしば登場したのが印象的だった。子どもたちの声を聞き、考えを尊重すれば、大人には思いつかない学校像が描かれるとともに、子どもたちが主体的に課題にかかわろうとする態度も育つのではないか。「みんな」には学びの当事者である「子どもたち」も含まれている。


 学校で活動を見せていただいたのは5年生の「防災」。学年ごとにテーマを設定しており4年生は「福祉(クッキーづくり)」、3年生は「町(渋谷の魅力をカルタにする)」に取り組んだ。


 学校を訪ねたのが1月。情報収集(取材)や整理・まとめをすでに終えており、この日は取材者のために「発表会」を設定してくれていた。防災をさまざまな視点で捉え、グループごとにその重要さが1年生にも伝わるように工夫していた。


 例えば、津波や地震の発生や被害をまとめた動画を見せてくれたグループ。“この年齢”になっても知らないことやあやふやなことが多々あることに気づかされる。動画が始まる前、子どもたちからは「ここにおかけください」「もう間もなくです」という丁寧な案内。これもある意味、外部の人たちとかかわりながら学習を進めてきた成果だ。


 ゲーム形式・クイズ形式で防災の知識(校内の避難経路、備えておく防災用品等々)を確認するグループが多かったのだが、中には防災グッズをつくるコーナーもあった。


 児童の指導に従って新聞紙を折っていくと、スリッパが出来上がった。ほかにもキッチンペーパーのマスク、大きなポリ袋でのレインコート……。「どうやって知ったの?」と質問すると「よく代々木公園(これも校区にある)で防災フェスをやっているので、それに参加して実際つくってきました。身近な材料でこんなものがつくれることを、みんなに知ってもらいたいです」という答えが返ってきた。探究は子どもたちにとって、ただの“学校の勉強”ではなくなっている。






(第2回に続く)

次回の予定

8月17日(月)
探究「シブヤ未来科」 「授業時数」を調整して、ダイナミックに「探究」に取り組む②