学研 学校教育ネット

教育ジャーナル

バックナンバー

学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。

教育ジャーナル Vol.32-5

■探究「シブヤ未来科」
「授業時数」を調整して、ダイナミックに「探究」に取り組む
渋谷区立神南小学校の実践②

【全2回】(第2回)

■探究「シブヤ未来科」

「授業時数」を調整して、ダイナミックに「探究」に取り組む


渋谷区立神南小学校の実践②


全2回【第2回】


教育ジャーナリスト渡辺 研


今後ますます注目されそうな「探究」と「調整授業時数制度」。第2回は、3年生の活動と校長に伺った話をお届けする。


超拡大版の「まちたんけん」

 同じ時間帯に体育館では3年生が取り組んだ「渋谷神南じまんカルタ」の「アドバイス会」が行われていた。協力してもらった地域や企業の人たちを招き、作成したカルタについて“ここをもっとこうしたほうがいい”といったアドバイスをもらう会だ。3年生が取りあげた“じまん”は、スクランブル交差点やハチ公像といった世界的な名所をはじめ、渋谷スカイ、マークシティ、ヒカリエなどの新名所に加えて魚力、深町遠藤文具、金井青果、葉花など、子どもたちにはなじみの地元のお店も登場。忘れてはならない「神南小学校」は「あ」の札。
「渋谷観光協会」の絵札はシンプルに「渋谷」。でも「渋」の「止」の下の部分にはスクランブル交差点がデザインされ、「谷」の「口」の部分にはハチ公。


 担当した児童は、実際に取材に行って「何をするところかをまとめてつくりました。英語のチラシも置いてありました」と説明してくれた。


 3年生が初めて取り組む総合。生活科の「まちたんけん」の拡大版なのだが、渋谷のまちは普通にイメージする「まちたんけん」とは規模も複雑さも全然違う。そこで手助けしてくれたのが外部の協力者であり、協力者と子どもたちをつないでくれた二人のコーディネーター。しばしば学校を訪れて探究をサポートしてくれた。学びの充実、教師の負担軽減の意味で、コーディネーターの存在は探究とセットだと考えてもいいほどだ。


 会の最後、ゲストの講評の場面で、活動を褒める言葉が出てくると、子どもたちからは思わず「よかった」「うれしい」という声があがった。

 この日、楽しそうに学ぶ子どもたちの姿を見せていただいた。

自分の興味・関心に気がつく

 改めて山口校長に話を伺う。

 神南小では、例えば6年生は総合の155時間を探究基礎50時間程度・テーマ探究70時間程度・My探究35時間程度で運用している。テーマ探究は、学年総合や学級総合と同様なので説明は省略するが、4年生の取組を紹介しておく。
「4年生は福祉と関連づけてクッキーづくりをしました(実際に販売もする)。値段を設定するときに、デザインの費用や材料の仕入れ数などをもとに、収支が均衡するように考えました。かぎられた条件の中で価格をどう決めるかを考える過程そのものが、学びにつながっています」


 一方、My探究の35時間を実りあるものにするにはテーマを決めるまでがきわめて重要だと思うが、そこにはどう取り組んでいるのか。令和6年度は学年ごとに3年生は昆虫、4年生は水、5年生は産業、6年生は健康と大きなテーマを決めて、その分野の中で自分が興味・関心のある具体的な課題を決めた(前期。後期は自由に個別のMy探究)。まったくの自由よりもテーマは絞りやすい。


 7年度は、前年度後期に用いた「探究ポーチ」を最初から活用した。


 文字どおりのポーチで、児童全員が机の横にかけている。
「各教科の単元が終わると、子どもたちが授業(学習)を通して『気になること』『解決したいこと』『不思議だな』と思うこと(問い)を見つけ、それをカードに書き込んで探究ポーチにためていきます。ある程度たまったら(4~6月)、その問いを分類します」


 そうすることで、自分が何に興味・関心をもっているのかに気がつく。そこから自分が突き詰めたいテーマを決めて、夏休みまでに探究を進める計画を立てておく。
「その状態で夏休みを迎え、夏休みのはじめに学級担任と個人面談をして、情報収集のための取材もあるので、その面談時にご家庭にも協力をお願いしています。そして、夏休み明けの9月中旬に中間発表という流れです」


 子どもたちが決めたテーマだが、探究フェスで見るかぎり「人間にはなぜ喜怒哀楽があるのか」とか「宇宙の不思議」「身近な草」から「焼きそばのつくり方」「アニメ図鑑」まで、ジャンルは広かった。テーマになんらかの基準は設けていなかったのか。
「教科から選んでいるので、焼きそばは家庭科、アニメは図工。中には『マニキュアの塗り方』とか、ちょっと外れたテーマもあったので、そういう場合は担任と話し合って調整します。ただ、担任が一人で全員のMy探究を同時進行で見るのは難しいです。児童間の差や教師の指導の差を埋めていかなければならないので、外部のスペシャリストとの連携とか、大学と連携して学生に来てもらうとか、そういう課題はあります」


 探究のねらいが十分に達成できたかは別にして、発表を見ていると、子どもたちが本気で、あるいは夢中になって取り組んできたことは想像がついた。まさに「自分で作る」「選べる」取組で、子どもたちにとっては「好きを育み、得意を伸ばす」時間だったのだろう。これが、「主体的」や「学びに向かう力」につながっていけば、学習全体への好循環も期待できる。まだ2年目だ。3年生から徐々に積み上げていけば、探究のレベルも次第に上がっていくはずだ。
「子どもは意欲的に楽しそうに取り組んでいますよ。校長講話でも『将来、どんな仕事に就いても、この学び方をやっていくのだからね』という話はしています」

必要なスキルを身につける

 もう一つの探究基礎ではどんな学習をするのか(改訂の議論の「情報」の領域がこの役割を担うのかもしれない)。
「例えば、社会科なら、資料を読み取って、そこから考察できることは何かということをやっていく。算数ならエクセルでグラフをつくってみるとか」


 4年生の国語で学習した『ごんぎつね』を題材にして、5、6年生が「そこからどういう『問い』が生まれるか」という学習をしたりもした。
「『問い』といっても、ネットで調べれば簡単にわかることではおもしろくないですよね。『それじゃおもしろくないね』って子どもたちもわかってきたと思います」


 ほかにも、問いに正対する力やインタビューする力(質問の仕方や相手の返答を正確に理解する力)など、探究を進めるのに必要なスキルをこの時間で学び、身につけていく。


 探究基礎は、子どもたちにとって必要な学びであると同時に、実は教師にとっても重要な学びの時間になっている。
「本校の研究主題は『よく考えて工夫する子どもを育てる授業づくり』で、子どもたちがスキルを身につけ、探究学習で活用できる力を育むための指導方法を研究しています。例えば、国語の指導教諭が6年生で『問いづくり』という模範授業をやりました。6年生では、物語を読む際の観点を手がかりにして自分の問いをつくり、それをもとに学級で話し合って学習計画を決めました。その際、子どもたちが進行を担当し、全体の考えを引き出し、学習がより深まる問いについて意欲的に話し合う姿が見られました。さらに、その模範授業を受けて、社会科や生活科等の各教科でも『問いづくり』を意識した授業を各学年で行いました。令和8年度の各教科でも『問いづくり』を意識した授業実践をやっていく予定です」


 授業後の協議会では、学年ごとに探究基礎となる学習の指導計画を立てた。


 また、研究チームは、各教科の中の探究基礎に使える部分をまとめており、異動してきた教師が戸惑わないように配慮している。

授業をデザインする力が必要

 探究基礎にかぎらず、どの学校でも授業時数の調整が可能になれば、これまで「必要だけど実行できなかったこと」に時間を充てることもできる。

 時数についてみていく。他教科の時数を1割削っても、内容まで削ったわけではない。例えば、前述の模範授業は探究基礎の35時間の中で国語の内容を行った。


 また、午後の探究「シブヤ未来科」は単純計算だと2コマ×5日×35週で350単位時間になる。でもこれは、あくまで総合を中心にして「子ども主体の学び」を進め、3つの力(前述)を育むことを目的にしている。したがって、そのねらいに沿って午後には各教科の中の探究的な単元の授業や、道徳や特別活動も行う。


 その意味では、“探究的な学習に視点を置いた渋谷区のねらい”と“自校の課題”とを勘案して、学校の裁量でカリキュラムを工夫することになり、次期学習指導要領でもそうしたことが求められるようだ。


 では現実にそうなったとき、学校や教師にはどんな意識や視点が必要なのだろう。
「子どもたちにこういう力を育てたいというイメージをもって、教科横断的に授業をデザインする力が必要です。子どもたちの行動を予測して、それとなく環境設定をしておく。それには児童理解が必要だし、その上で、『この教科で“タネまき”をしておけば、総合(テーマ探究)でこんなことがやりたいという意見が出てくるだろうなと、そんな仕掛けも必要ですね。そういう力を蓄積していかなければならない。ハマれば楽しいと思いますよ」


 探究にかぎらず「児童理解」は次期学習指導要領の重要な視点になりそうだ。
「学校としては、学年の系統性をもってやっていくことが今後の課題ですね。例えば、情報の活用やまとめる方法なども、上の学年が下学年よりうまくやれていないのでは、話になりません。どういう素材でやっても、探究の回し方は同じなわけですから」


 系統的に学び方を積み上げていけば、例えば、6年生になると既に学び方が身についており、探究基礎に35時間をかけなくてもテーマ探究に取りかかれるかもしれない。


 学校の教育活動のさまざまな場面にみられる“担任まかせ”とか“それは学年の問題”とか“他教科には口出しできない”といったことを改めれば、教育活動はもっと効率よく進んでいくのではないか。
「自分が思い描いたストーリーに沿って子どもが自ら動き、子どもが変わるという体験をすると、教師は楽しくなりますね」と山口校長はおっしゃる。探究は自由度が大きい。小学生も中学生もそれに夢中になるが、教師にとっても「人を育てる」というこの仕事本来の醍醐味を改めて感じることができるのではないだろうか。この自由度を大いに楽しみたい。






(了)

次回の予定

8月31日(月)
校長アンケート 日々の一喜一憂はどんなことでしたか?①